この記事では「葦(あし)をふくむ雁(かり)」について解説する。

端的に言えば「葦をふくむ雁」は「抜かりなく準備すること」という意味ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

情報誌系のライターを10年経験した柊 雅子を呼んです。一緒に「葦をふくむ雁」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/柊 雅子

イベントの司会や雑誌の記事作成を仕事としてきたライター、柊 雅子。どちらかといえば行き当たりばったりに行動する彼女が「葦(あし)をふくむ雁(かり)」について解説する。

 

「葦をふくむ雁」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「葦をふくむ雁」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「葦をふくむ雁」の意味は?

「葦をふくむ雁」には、次のような意味があります。

1.海を渡って遠くへ飛ぶとき、海上で羽を休めるために、枯れ葦を口にくわえていくという雁

出典:デジタル大辞泉(小学館)「葦をふくむ雁」

「雁」は秋に日本に渡ってくる渡り鳥です。

「さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空ゆ月渡る見ゆ」    柿本人麻呂

(夜が更けて真夜中になったようだ。雁の鳴き声が聞こえる夜空を渡っていく月が見える)

万葉集には「雁」をモチーフにした歌が六十首以上。万葉の時代から人々はV字を成して秋の空を渡る雁の姿を、或いはその姿に重なる自分の心や境遇を歌に詠みました。

そんな雁が「海を渡って遠くへ飛ぶ時、海上で羽を休めるために、枯れ葦を口にくわえていく。これは雁はこれから始まる長旅を思って枯れた葦を用意するということです。つまり「葦をふくむ雁」「何か行動を起こす際に、抜かりなく準備すること」という意味なのですね。

しかし、雁は枯れた葦を口にくわえて飛ぶことはありません。雁はロシアから何千キロもの距離を渡ってくる渡り鳥。枯れた葦がなくてもちゃんと海に浮かんで休みます。

「葦をふくむ雁」の語源は?

次に「葦をふくむ雁」の語源を確認しておきましょう。

「葦をふくむ雁」は紀元前139年(前漢時代)に成立した中国の書物「淮南子」に由来します。淮南子」は淮南王劉安によって編纂された思想書。「仁」「礼」を重んじ「家族道徳」を説いた儒家思想に対し、「無為自然」を説いた道家思想を中心として記されています。

\次のページで「「葦をふくむ雁」の使い方・例文」を解説!/

「葦をふくむ雁」の使い方・例文

「葦をふくむ雁」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.冬山登山の経験豊富な友人は冬山登山に初挑戦する私に「冬山登山で先ず大切なことは撤退する勇気と葦をふくむ雁だ」と言った。

2.世界記録に挑戦する機会を得るにはひたすら練習し、葦をふくむ雁になるしかないと彼は思った。

3.大きな商談相手で気難しい得意先は上機嫌で帰って行った。この接待の準備は完璧で、これをやり遂げた彼女のような人を「葦をふくむ雁」というのだと思った。

例文1:登山に油断は禁物です。冬山登山は特に危険。「もうあと一歩で登頂」というところまで来ていても絶対に無理をしてはいけません。「引き返そう」と言えることが大切です。それとともに抜かりのない完璧な準備が必要ですね。時として命を失う危険もある冬山登山にはそれくらいの心構えが必要なのです。

例文2:スポーツで世界と競えるレベルにまで達するには私たちの想像を超えたトレーニングが必要でしょう。何が起こっても日頃の力を出し切れるように精神面の準備も怠ることはできません。

例文3:大きな商談相手の得意先を接待するということは会社の利益に直接関わる大仕事。絶対失敗は許されません。それを完璧にやり遂げたということはその計画や準備が完璧だったということを表していますね。

「葦をふくむ雁」の類義語は?違いは?

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「葦をふくむ雁」の類義語をみていきましょう。

「用意周到」

「用意周到」とは「準備がしっかりとできていて、抜かりがないこと」

「周到」とは「よく行き届いて、抜かりがないこと」という意味です。「葦をふくむ雁」行動を起こす方向にベクトルが向いていて「抜かりなく準備する」のに対し(能動的)「用意周到」向かってくる事柄にもベクトルが向いて「抜かりなく準備する」(受動的)という違いがあります。

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「葦をふくむ雁」の対義語は?

続いて対義語です。

 

「場当たり」

「場当たり」とは「思いつきで行うこと」

思いつきで行うということは無計画で、用意も準備もできていないということ。「何か行動を起こす際に、抜かりなく準備する」という意味をもつ「葦をふくむ雁」の対義語ですね。

「葦をふくむ雁」の英訳は?

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「葦をふくむ雁」は英語ではどのように表現されるのでしょうか。

英文1.  The dissolution of parliament was imminent, but the candidate was ready perfectly.

議会の解散が差し迫っていたが、その候補者は「葦をふくむ雁」だった。

英文2.We have made perfect preparations to block the offensive power of the opposing teams.

対戦するチームの攻撃力を封じるために、私たちは「葦をふくむ雁」になった。

英文1を直訳すると「議会の解散が差し迫っていたが、その候補者は完全に準備ができていた」。「the candidate was ready perfectly」「その候補者は完全に準備ができていた」という訳になります。「完全に準備ができていた」とは「次の選挙に対する準備が完全にできていた」ということ。この「その候補者は完全に準備ができていた」という文章はその意味から「その候補者は『葦をふくむ雁』だった」と訳すことができますね。

英文2have made perfect preparations」は直訳すると「完璧な準備をした」「We have made perfect preparations」を訳すと「私たちは完璧な準備をした」。「葦をふくむ雁」は「抜かりなく準備する」という意味なので「私たちは『葦をふくむ雁』になった」と訳すことができるのです。

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「葦をふくむ雁」を使いこなそう

この記事では「葦をふくむ雁」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「葦をふくむ雁」は「海を渡って遠くへ飛ぶとき、海上で羽を休めるために、枯れ葦を口にくわえていくという雁」という意味から「何か行動を起こす際に、抜かりなく準備する」ということを表し、類義語は「用意周到」、対義語は「場当たり」、英語では「make perfect preparations」等と表されることがわかりましたね。

「雁風呂」という民話が津軽地方に伝わっています。「葦をふくむ雁」に基づいた民話で心に染みてくる話です。是非、調べてみて下さい。

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国語言葉の意味

【ことわざ】「葦をふくむ雁」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「葦(あし)をふくむ雁(かり)」について解説する。

端的に言えば「葦をふくむ雁」は「抜かりなく準備すること」という意味ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

情報誌系のライターを10年経験した柊 雅子を呼んです。一緒に「葦をふくむ雁」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/柊 雅子

イベントの司会や雑誌の記事作成を仕事としてきたライター、柊 雅子。どちらかといえば行き当たりばったりに行動する彼女が「葦(あし)をふくむ雁(かり)」について解説する。

 

「葦をふくむ雁」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「葦をふくむ雁」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「葦をふくむ雁」の意味は?

「葦をふくむ雁」には、次のような意味があります。

1.海を渡って遠くへ飛ぶとき、海上で羽を休めるために、枯れ葦を口にくわえていくという雁

出典:デジタル大辞泉(小学館)「葦をふくむ雁」

「雁」は秋に日本に渡ってくる渡り鳥です。

「さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空ゆ月渡る見ゆ」    柿本人麻呂

(夜が更けて真夜中になったようだ。雁の鳴き声が聞こえる夜空を渡っていく月が見える)

万葉集には「雁」をモチーフにした歌が六十首以上。万葉の時代から人々はV字を成して秋の空を渡る雁の姿を、或いはその姿に重なる自分の心や境遇を歌に詠みました。

そんな雁が「海を渡って遠くへ飛ぶ時、海上で羽を休めるために、枯れ葦を口にくわえていく。これは雁はこれから始まる長旅を思って枯れた葦を用意するということです。つまり「葦をふくむ雁」「何か行動を起こす際に、抜かりなく準備すること」という意味なのですね。

しかし、雁は枯れた葦を口にくわえて飛ぶことはありません。雁はロシアから何千キロもの距離を渡ってくる渡り鳥。枯れた葦がなくてもちゃんと海に浮かんで休みます。

「葦をふくむ雁」の語源は?

次に「葦をふくむ雁」の語源を確認しておきましょう。

「葦をふくむ雁」は紀元前139年(前漢時代)に成立した中国の書物「淮南子」に由来します。淮南子」は淮南王劉安によって編纂された思想書。「仁」「礼」を重んじ「家族道徳」を説いた儒家思想に対し、「無為自然」を説いた道家思想を中心として記されています。

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