
端的に言えば九字を切るの意味は「秘法を行う」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
国立大で国語学を学んだライターのタケルを呼んです。言葉の解説を得意としていて、大学時代はクイズサークルに所属していたので雑学にも詳しい。一緒に「九字を切る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/タケル
某国立大で日本語学を専攻。古い人間なので、子供の頃は忍者に憧れたこともあった。紙で作った手裏剣を投げたり、九字を切って相手を惑われせたりしたものだ。
「九字を切る」の意味は?
「九字を切る」には、次のような意味があります。
九字による秘法を行う。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「九字(くじ)を切(き)・る」
「九字を切る」(くじをきる)の意味が「九字による秘法を行う」とあります。しかし、「九字」が何か分からなければさっぱり見当が付きません。よって、「九字」の意味も併せて説明していくことにしましょう。
1.9個の文字。
2.修験者などが、災害を払う護身のまじないとして唱えた9文字の文句。「臨兵(りんぴょう)闘者皆陣列在前」と呪(じゅ)を唱え、指で空中に縦4本、横5本の線をかく。中国の道家で行われていたものが、日本の陰陽道や仏教の密教に伝わったもの。九字の印。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「九字」
もちろん「九字を切る」の「九字」とは単なる9つの文字ではなく、「修験者がまじないのために唱えるもの」のことです。その「九字」を唱えながら手の動きを付けることが「九字を切る」となります。
手刀の切り方や右手と左手の組み方など、「九字を切る」手順は流派によって違いがあるようです。しかし、「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」(りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)という「九字」を唱えるのは共通しています。ただし、「列」が「烈」となっているものがあるなど、これがすべてではありません。
「九字を切る」の語源は?
次に「九字を切る」の語源を確認しておきましょう。
諸説ありますが、古代中国での道教の思想が「九字」の由来とされます。それが修験道や陰陽道などにもたらされ、日本独自の「九字を切る」作法が生まれました。
映画などで、忍者が「九字を切る」シーンを見たことがある人もいるのではないでしょうか。中世の日本では、武人が出陣する際に戦での勝利を祈願する目的などで「九字を切っ」ていたそうです。その習慣が忍者にも受け継がれて、主に護身術として「九字を切る」ようになりました。
「九字を切る」の使い方・例文
「九字を切る」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.忍者が九字を切って身構えた。
2.険しい表情の陰陽師が九字を切ると、それまで猛威を振っていた悪霊がたじろいているようにも見える。
3.柔道部の友達中原君が試合で緊張しない方法を相談してきたので、九字を切るとかルーティン決めて精神統一すればいいと冗談めかしてアドバイスしたが、あっさりと断られた。
おそらくほとんどの人が、実際に「九字を切る」ことはないでしょう。例文1と2のように「九字を切る」のを動画などで見聞きするか、例文3のように「九字を切る」真似事をするのみとなるはずです。よって、「九字を切る」という言葉を使うのは、ごく限られた場面となります。
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