この記事では「一樹の陰」について解説する。

端的に言えば一樹の陰の意味は「前世からの因縁」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元大手予備校校舎長で大学入試の国語指導歴が長いライターのみゆなを呼んです。一緒に「一樹の陰」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/みゆな

元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。

「一樹の陰」の意味や語源・使い方まとめ

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「一樹の陰」はことわざですが、あまり聞く機会はないかもしれませんね。実はもう少し長いことわざの一部が抜粋され、一般的に使われるようになったものです。「一樹の陰」と言い表すことがピッタリの人間関係というのは、日ごろからよくあるもの。今回は「一樹の陰」ということわざを詳しく知り、使いこなせるようになりましょう。語彙力に一目置かれるようになりますよ。

それでは早速「一樹の陰」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「一樹の陰」の意味は?

「一樹の陰」には、次のような意味があります。

見知らぬ人が一本の木の下で雨宿りするのも、前世からの因縁で、この世の人と人との出会いは、みなこのように前世からの因縁であるということ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「一樹の陰」

「一樹の陰」の読み方は「いちじゅのかげ」です。「一樹」は文字通り「1本の樹木」をあらわし、「陰」は木陰ですね。広い草原に1本だけ樹木があり、急に雨が降ってきたと想像してください。旅人たちは皆樹木の下に集まり、雨宿りを始めるでしょう。雨上がりを待つ間に話が弾むこともあるかもしれません。

このように人と人とのつながりは無作為でも無為なものでもなく、前世からの因縁のようにつながりあっている、と考えるのが「一樹の陰」ということわざです。

「一樹の陰」の語源は?

次に「一樹の陰」の語源を確認しておきましょう。

元々は「一樹の陰 一河(いちが)の流れも多生(たしょう)の縁(えん)」という長いことわざで、仏教に由来する考え方です。

「一河」は1本の川ですね。川も、水汲みや洗濯など、古来から人々の生活に欠かせないものでした。川辺にはさまざまな人が集まり、同じ水を飲み合ったものです。人のつながりには必ず巡り合わせがある、ということを「一樹」と「一河」にたとえているのが、このことわざだというわけですね。

「多生の縁」は「他生の縁」と表記することもありますが、本来は「多生」という漢字表記が正しいので気をつけましょう。輪廻転生を繰り返すことを「多生」と言い、「他生」とは現世に対して前世・来世を指すときにつかいます。「多生」の意味で「他生」と使うのは俗語だといわれていますよ。

\次のページで「「一樹の陰」の使い方・例文」を解説!/

「一樹の陰」の使い方・例文

ことわざは実際に使われる文脈で見た方が、使い方をイメージしやすいものですよね。「一樹の陰」はどのような場面で使えるのか、例文を使って見ていきましょう。

1.ここでお目に書かれたのも一樹の陰ですね。これからも末永いお付き合いをよろしくお願いします。
2.次のプロジェクトでは初めてご一緒させていただきます。これも一樹の陰、協力してよいものをつくりましょう!

「一樹の陰」は思いがけず生まれた人との縁や巡り合わせに対して使えます。

例文1は意外な場所で取引先に出会った人のセリフです。思ってもみなかったタイミングで人に会うと、多少なりとも「ご縁」を感じるものですよね。そんなときに「一樹の陰」を使ってみてください。

例文2も、初めて同じチームになった縁を歓迎している場面です。「一樹の陰」は相手との縁を喜び受け入れるニュアンスを持っていますので、初対面の挨拶としても使えそうですね。

「一樹の陰」の類義語は?違いは?

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「一樹の陰」と同じ意味を持つ、他の表現を見てみましょう。

その1「袖振り合うも多生の縁」

「一樹の陰」より有名かもしれませんね。「袖振り合うも多生の縁」ということわざも、「一樹の陰」と同じ意味を持っています。道で袖が触れ合うような、そんな些細なことですら「縁」がつながって生まれている、という意味です。

「袖触れ合うも多生の縁」という表記も誤用ではありませんが、一般的には「袖振り合うも多生の縁」が使われます。

\次のページで「その2「躓く石も縁の端」」を解説!/

その2「躓く石も縁の端」

躓(つまづ)く石も縁の端」ということわざもご紹介しましょう。これは石につまづくといった、本当に小さなことでも前世からの因縁(約束事)である、という意味です。石につまづくことすら因縁ならば、もはや私たちの人生すべてが因縁によって成り立っているといっても良いかもしれませんね。それこそが仏教の「縁」の考え方です。

「一樹の陰」の対義語は?

残念ながら「一樹の陰」の対義語はありません。もともと仏教の「どんなことにもつながりがある」という絶対的なおしえにもどづいていることわざですから、対義になる概念そのものが存在しないのです。

「一樹の陰」の英訳は?

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「一樹の陰」は仏教由来の考え方ですから、日本文化に興味がある外国の方に教えてあげると喜ばれるかもしれませんよ。英語ではどのように表現できるのか、見てみましょう。

「everything is preordained」

英語では「一樹の陰」のエッセンスである、「すべてはつながりを持っている」という部分を抜き出し、説明すると分かりやすいでしょう。「preordained」は「あらかじめ定められている運命、個人の意思とは無関係に決定している将来の出来事」といったニュアンスを表すことができる英単語です。「everything is preordained」で「すべてのものにはつながりがある」という意味を表します。

「一樹の陰」を使いこなそう

この記事では「一樹の陰」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「一樹の陰」とは仏教が源流となる考え方で、木の下で雨宿りをするような出会いですらつながりあいがもたらしたもの、前世からの因縁だという意味でしたね。「袖振り合うも多生の縁」ということわざと入れ替えて使えるということも分かりました。

今日でも人との出会いは「一期一会」と言いますよね。たくさんのつながりによってできたせっかくのご縁、無下にすることなく丁寧な人間関係を築いていきたいものです。

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【ことわざ】「一樹の陰」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校校舎長がわかりやすく解説!

この記事では「一樹の陰」について解説する。

端的に言えば一樹の陰の意味は「前世からの因縁」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元大手予備校校舎長で大学入試の国語指導歴が長いライターのみゆなを呼んです。一緒に「一樹の陰」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/みゆな

元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。

「一樹の陰」の意味や語源・使い方まとめ

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「一樹の陰」はことわざですが、あまり聞く機会はないかもしれませんね。実はもう少し長いことわざの一部が抜粋され、一般的に使われるようになったものです。「一樹の陰」と言い表すことがピッタリの人間関係というのは、日ごろからよくあるもの。今回は「一樹の陰」ということわざを詳しく知り、使いこなせるようになりましょう。語彙力に一目置かれるようになりますよ。

それでは早速「一樹の陰」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「一樹の陰」の意味は?

「一樹の陰」には、次のような意味があります。

見知らぬ人が一本の木の下で雨宿りするのも、前世からの因縁で、この世の人と人との出会いは、みなこのように前世からの因縁であるということ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「一樹の陰」

「一樹の陰」の読み方は「いちじゅのかげ」です。「一樹」は文字通り「1本の樹木」をあらわし、「陰」は木陰ですね。広い草原に1本だけ樹木があり、急に雨が降ってきたと想像してください。旅人たちは皆樹木の下に集まり、雨宿りを始めるでしょう。雨上がりを待つ間に話が弾むこともあるかもしれません。

このように人と人とのつながりは無作為でも無為なものでもなく、前世からの因縁のようにつながりあっている、と考えるのが「一樹の陰」ということわざです。

「一樹の陰」の語源は?

次に「一樹の陰」の語源を確認しておきましょう。

元々は「一樹の陰 一河(いちが)の流れも多生(たしょう)の縁(えん)」という長いことわざで、仏教に由来する考え方です。

「一河」は1本の川ですね。川も、水汲みや洗濯など、古来から人々の生活に欠かせないものでした。川辺にはさまざまな人が集まり、同じ水を飲み合ったものです。人のつながりには必ず巡り合わせがある、ということを「一樹」と「一河」にたとえているのが、このことわざだというわけですね。

「多生の縁」は「他生の縁」と表記することもありますが、本来は「多生」という漢字表記が正しいので気をつけましょう。輪廻転生を繰り返すことを「多生」と言い、「他生」とは現世に対して前世・来世を指すときにつかいます。「多生」の意味で「他生」と使うのは俗語だといわれていますよ。

\次のページで「「一樹の陰」の使い方・例文」を解説!/

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