今回は「異形配偶子」というキーワードを中心に学習していこう。

”配偶子”というのは、生殖…つまり子孫を残すときに使われる細胞を指す。異形配偶子というのは、いろいろな生物の配偶子の中にみられる一つの”タイプ”といっていいでしょう。難しい用語にも聞こえるが、我々になじみの深い生殖方法に関連しているんです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

異形配偶子とは?

異形配偶子(いけいはいぐうし)とは、有性生殖をおこなう生物の配偶子のうち、その大きさや形が異なるものをさします。

配偶子(はいぐうし)というのは、互いに合体し、新しい個体になる生殖細胞です。配偶子がつくられる際には、減数分裂という特別な細胞分裂が行われます。

Chromosomes in mitosis and meiosis.png
<a href="//commons.wikimedia.org/wiki/User:Electric_goat" title="User:Electric goat">Electric goat</a> - <span class="int-own-work" lang="ja">投稿者自身による作品</span>, パブリック・ドメイン, リンクによる

配偶子同士の合体は、生物によって「接合(せつごう)」や「受精(じゅせい)」ともよばれます。異形配偶子同士の合体は異形配偶子接合ともいうので覚えておきましょう。

配偶子が合体してできた1つの細胞は、接合子(せつごうし)といいます。

いろいろな異形配偶子

「異形配偶子は大きさや形が異なる」と一口に言っても、その”異なる”の度合いは様々です。非常によく似ていてわずかな違いしかないものもあれば、その差が極端なものもいます。

具体的な生物の名前を挙げながら、その例を見てみましょう。

大きな配偶子と小さな配偶子

合体する配偶子の大きさに差がある例としてよく教科書に載っているのが、アオサミルといった生物の配偶子です。

アオサとミルは、いずれも海中にみられる藻類(海藻)のなかま。緑色をしていて、夏場、海水浴に行くとよく見られます。

image by iStockphoto

アオサやミルの有性生殖でみられる配偶子は、姿がよく似ています。2本の鞭毛をもち、それを動かすことで水中を移動し、相手のもとにたどり着くのです。

ただし、大きさに差があります。片方が大きく、もう片方が小さいんです。

大型の方の配偶子は「雌性配偶子(しせいはいぐうし)」、小型の配偶子は「雄性配偶子(ゆうせいはいぐうし)」とよばれ、区別されます。

\次のページで「卵と精子」を解説!/

そうですね…”オスとメス”というと、多くの人は姿の異なる男性・女性をイメージすると思います。体の大きさだけでなく、性器や乳房などの形が異なっていますよね。

ですが、生物学上の”オスとメス”の判定というのは、「大型の配偶子をつくる能力のある個体がメス(雌)」、「小型の配偶子をつくる能力のある個体がオス(雄)」なのです。

ちょっとした考え方の転換ですが、面白いですよね。

卵と精子

異形配偶子のなかでも、その大きさや形にはわずかな差しか見られないこともあります。その一方で、合体する配偶子同士の間に大きな差があることも少なくありません。

とくに、一方の配偶子が大型で運動性が低く、もう一方がずっと小型で運動性の高い場合、大きな方の配偶子は「(らん)」、小さな方の配偶子は「精子(せいし)」とよばれます。

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<a href="https://en.wikipedia.org/wiki/en:Henry_Vandyke_Carter" class="extiw" title="w:en:Henry Vandyke Carter"><span title="English anatomist, illustrator of Gray's Anatomy">Henry Vandyke Carter</span></a> - <a href="https://en.wikipedia.org/wiki/Henry_Gray" class="extiw" title="en:Henry Gray">Henry Gray</a> (<span style="white-space:nowrap">1918年</span>) Anatomy of the Human Body (See "ブック" section below) <a href="https://en.wikipedia.org/wiki/Bartleby.com" class="extiw" title="en:Bartleby.com">Bartleby.com</a>: <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.bartleby.com/107/">Gray's Anatomy</a>, <a rel="nofollow" class="external text" href="http://www.bartleby.com/107/illus3.html">Plate 3</a>, パブリック・ドメイン, リンクによる

そうなんです。ヒトは一般的に女性が卵、男性が精子をつくり、それらが受精することで次の世代=子どもをつくることができますよね。私たち人間は、まさに異形配偶子によって有性生殖をおこなう生物なのです。

\次のページで「同形配偶子」を解説!/

image by iStockphoto

なお、合体する2つの配偶子を卵、精子とよぶとき、その合体は特別に「受精」とよばます。また、受精によってできた接合子はとくに「受精卵」というのです。

おっしゃる通りです。基本的に動物や植物は異形配偶子による有性生殖を行います。

植物でも、卵細胞と精細胞が受精することで次世代をつくり出しますね。

コケ植物やシダ植物は、胞子で個体を増やす方法がよく知られていますが、造卵器がつくる卵細胞と造精器がつくる精細胞による有性生殖も行います。いずれも、異形配偶子による生殖方法です。

同形配偶子

さて、有性生殖をおこなう生物は色々いますが、そのすべてが異形配偶子で有性生殖をおこなうわけではありません。中には、合体する2つの配偶子の大きさや形が同じで、区別の付けられないものが存在します。

そのような配偶子が同形配偶子(どうけいはいぐうし)です。同形配偶子同士の合体は同形配偶子接合とよばれます。

学校のテストなどであれば、同形配偶子による有性生殖をおこなう生物の例を覚えておいた方が手っ取り早いかもしれませんね。

代表的なのは藻類の一種であるクラミドモナスです。クラミドモナスは通常、分裂によって数を増やします。分裂は配偶子を必要としない無性生殖の方法の一つです。

\次のページで「異形配偶子は同形配偶子からうまれた?」を解説!/

image by Study-Z編集部

しかし、生息する環境の状態が悪くなるなどの変化が生じると、クラミドモナスは2個体が合体し、ひとつの接合子となります。

クラミドモナスは単細胞の生物です。つまり、クラミドモナス自身が配偶子となったということ。2個体の大きさにはあまり違いがなく、形もおなじものであるため、同形配偶子による接合が起きた、ということになります。

配偶子の大きさや形に差がない、ということになるので、「こちらがオスで、こちらがメス」というような区別はできないんです。

その代わり、実験などでクラミドモナスの有性生殖を扱う場合には、合体した片方の個体を+(プラス)、もう一方をー(マイナス)と便宜的に呼ぶことがあります。

異形配偶子は同形配偶子からうまれた?

今回は異形配偶子に焦点を当てて解説してきました。

現在地球上に存在している生物の有性生殖は、異形配偶子を使ったものが多くなっています。しかしながら、生物の歴史の上で異形配偶子は、同形配偶子による生殖をおこなう生物の中から進化してきたと考えられているんです。

「異形配偶子による生殖で、何かメリットはあるのか」「なぜ異形配偶子だけでなく同形配偶子による生殖をおこなう生物も存在しているのか」…興味深い疑問はいくつも浮かんできます。みなさんもぜひ調べてみてください。

イラスト使用元:いらすとや

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理科生物細胞・生殖・遺伝

配偶子のタイプの一つ「異形配偶子」とは?現役講師がわかりやすく解説します

今回は「異形配偶子」というキーワードを中心に学習していこう。

”配偶子”というのは、生殖…つまり子孫を残すときに使われる細胞を指す。異形配偶子というのは、いろいろな生物の配偶子の中にみられる一つの”タイプ”といっていいでしょう。難しい用語にも聞こえるが、我々になじみの深い生殖方法に関連しているんです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

異形配偶子とは?

異形配偶子(いけいはいぐうし)とは、有性生殖をおこなう生物の配偶子のうち、その大きさや形が異なるものをさします。

配偶子(はいぐうし)というのは、互いに合体し、新しい個体になる生殖細胞です。配偶子がつくられる際には、減数分裂という特別な細胞分裂が行われます。

Chromosomes in mitosis and meiosis.png
<a href=”//commons.wikimedia.org/wiki/User:Electric_goat” title=”User:Electric goat”>Electric goat</a> – <span class=”int-own-work” lang=”ja”>投稿者自身による作品</span>, パブリック・ドメイン, リンクによる

配偶子同士の合体は、生物によって「接合(せつごう)」や「受精(じゅせい)」ともよばれます。異形配偶子同士の合体は異形配偶子接合ともいうので覚えておきましょう。

配偶子が合体してできた1つの細胞は、接合子(せつごうし)といいます。

いろいろな異形配偶子

「異形配偶子は大きさや形が異なる」と一口に言っても、その”異なる”の度合いは様々です。非常によく似ていてわずかな違いしかないものもあれば、その差が極端なものもいます。

具体的な生物の名前を挙げながら、その例を見てみましょう。

大きな配偶子と小さな配偶子

合体する配偶子の大きさに差がある例としてよく教科書に載っているのが、アオサミルといった生物の配偶子です。

アオサとミルは、いずれも海中にみられる藻類(海藻)のなかま。緑色をしていて、夏場、海水浴に行くとよく見られます。

image by iStockphoto

アオサやミルの有性生殖でみられる配偶子は、姿がよく似ています。2本の鞭毛をもち、それを動かすことで水中を移動し、相手のもとにたどり着くのです。

ただし、大きさに差があります。片方が大きく、もう片方が小さいんです。

大型の方の配偶子は「雌性配偶子(しせいはいぐうし)」、小型の配偶子は「雄性配偶子(ゆうせいはいぐうし)」とよばれ、区別されます。

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