この記事では「苦もなく」について解説する。
端的に言えば「苦もなく」の意味は「成し遂げるのに苦労しない、容易い」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
ライターのflickerを呼んです。一緒に「苦もなく」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/flicker

仕事柄、言葉からひらめきをもらうことがよくある。「なるほど。そういうことか!」と言葉への知識・関心がさらに一層広がるように、さらに編プロでの編集経験を活かし理解しやすい精確な解説を心掛ける。

「苦もなく」の意味や語源・使い方まとめ

image by PIXTA / 62361422

それでは早速「苦もなく」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「苦もなく」の意味は?

「苦もなく」には、次のような意味があります。

大して苦労せずに。簡単に。わけもなく。

出典:コトバンク

「苦もなく」は能力や労力を必要としない様子を表します。動詞にかかる修飾語として用いられる慣用句。主体が行う能動的な達成行為に労力や能力を必要としない様子を表し、目的を達成することについての気安さの暗示があります。

「苦もなく」の語源は?

次に「苦もなく」の語源を確認しておきましょう。それでは「苦」の漢字の成り立ちについて説明しましょう。「苦」は草を表す「艹」と引き締まる意味の音を示す「古」とを合わせた字。噛むと口を引き締めてしまうほど苦い味のする草のことから、「にがい」「くるしい」の意味に使われるようになりました。

\次のページで「「苦もなく」の使い方・例文」を解説!/

「苦もなく」の使い方・例文

「苦もなく」の使い方について例文を挙げて解説していきます。この言葉は、たとえば以下のように用いられますよ。

1.健太は子どもながら難問を苦もなく解いてみせた。試験でも神頼みなどしたことがない。辞典からランダムに単語をピックアップして出題しても九分九厘正解する。

2.映画監督の彼女は出演者の変態ぶりを生かして破壊的な作品を苦もなく作り上げた。そして「黒山蜘蛛の災い~草葉の陰編~」からスターが誕生した。

3.彼は荒馬を苦もなく乗りこなし人だかりができた。あなたのおかげで生活情報番組の収録がスムーズに進んだと、プロデューサーからお礼を言われた。

例文1からは健太君はギフテッドであることが読み取れますし、例文2からは素晴らしい映画が完成し、そこから役者さんも排出されたことが読み取れます。また、例文3からはバラエティ番組の収録現場であることが伝わってきますね。

「苦もなく」の類義語は?違いは?

image by PIXTA / 60789885

「苦もなく」と似たような意味をもつ言葉をご紹介します。さっそく見ていきましょう。

その1「すんなり」

「すんなり」は抵抗なく進行・成就する様子を表し、「交渉はすんなりと決まった」「スピーチは難解ですんなり理解できなかった」などのように単独でまたは「と」が付いて述語にかかる修飾語になります。また、物事が抵抗なく進行・成就する様子を話者が意外性の暗示を伴って述べますよ。そのため、しばしば否定や反語の表現を伴います

この「すんなり」は「あっさり」に似ていますが、「あっさり」は物事が予想に反して簡単に決着がつくことについて物足りなさの暗示があるでしょう。そのため「すんなり承知してくれた」は「反対されるかと思ったが」、「あっさり承知してくれた」は「反対もなく簡単だった」というニュアンスになりますよ。なお「苦もなく」との違いは、「すんなり」は意外性の暗示を伴うという点です。

\次のページで「その2「すらっ」」を解説!/

その2「すらっ」

「すらっ」は停滞することなく進行する様子を表す表現で、勢い・気軽さ・爽快の暗示があります。例えば「刀工はすらっと太刀を抜き放った」は具体物が停滞なく滑るように動くという意味、「だめもとで頼んでみたら意外にすらっと通った」「あの子は嘘がすらっと口から出る」は物事が停滞なく成立するという意味です。

この「すらっ」は「すいっ」や「すっ」に似ていますが、「すいっ」は主体が一瞬素早く動く様子を表しますし、「すっ」は直線的に素早く動く様子を表しますよ。したがって「法案がすらっと通る」は「大した反対意見もなく」、「法案がすいっと通る」は「あっけないほど簡単に」、「法案がすっと通る」は「非常に短時間に」というニュアンスになります。ちなみに「苦もなく」との違いは、「すらっ」は勢い・気軽さ・爽快の暗示があるという点でしょう。

その3「ちょこちょこ」

「ちょこちょこ」は非常に簡単に処理する様子を表し、「旅行の準備はいつも簡単にちょこちょことする」「散らかった机の上をちょこちょこと片付けて酒盛りが始まった」などのように単独でまたは「と」が付いて述語にかかる修飾語になります。本来、正式に大規模に行うべき処理を非常に簡単に行う様子を表し、結果の卑小さと主体の軽視の暗示があるでしょう。なお「苦もなく」との違いは、「ちょこちょこ」は卑小さと主体の軽視の暗示がある点です。

その4「何でもない」

「何でもない」はとりたてて問題にするようなことではない様子を表します取り上げる価値がないという意味ではありますが、客観的に見て価値がないというのではなく話者の主観的な判断として大問題ではないという意味

「この程度の損害は会社にすればなんでもない」はほんとうに会社にとって大問題でないかどうかには言及せず、話者の判断は会社にとって大問題ではないだろうと断定しているにすぎません。「彼女はなんでもないことにすぐ腹を立てる」も「彼女」にとっての「何でもない」ことではなく、話者にとっての「何でもない」ことです。

「何でもない」を使用する際のポイント

「心配そうな顔してどうしたの。なんでもないよ」は自分の状況について多くを語りたくない時によく用いられる表現で、コミュニケーションを拒む心理が背景にありますよ。また「何でもない」は「とるにたりない」や「つまらない」などに近いですが、「とるにたりない」や「つまらない」は対象が卑小であることに客観性があり、主観的な判断による「何でもない」とは異なります。また「とるにたりない」や「つまらない」に多少みられる侮蔑の暗示は「何でもない」にはありません。ちなみに「苦もなく」との違いは、「何でもない」は主観的な判断として大問題ではないというニュアンスを含む点です。

「苦もなく」の対義語は?

「苦もなく」と反対の意味に近い言葉をご紹介します。さっそく見ていきましょう。

その1「あっぷあっぷ」

「あっぷあっぷ」は非常に困難な状況に直面している様子を表します。例えば「金のやりくりにあっぷあっぷしている」は「している」が、「卒論の締め切りが迫っていてあっぷあっぷだよ」は「だ」が付いて述語になりますし、「その大関はあっぷあっぷの状態で、千秋楽にようやく勝ち越した」は「の」が付いて名詞にかかる修飾語になりますよ。主体がもう少しで破滅しそうな境界にあって苦しんでいる様子を表しますが、深刻さの暗示はありません

\次のページで「その2「なんとかして」」を解説!/

その2「なんとかして」

「なんとかして」は「なんとかして彼女の心を射止めたいものだ」などのようにあらゆる手段を尽くして実現を強く希望する様子を表し、希望の表現を伴う述語にかかる修飾語として用いられます実際にとられる手段よりも目標に視点のある表現で、話者の熱意としてしばしば手段を選ばない暗示がありますよ。

この「なんとかして」は「どうにかして」や「なんとしても」に似ていますが、「どうにかして」は目標を達成するための手段に視点がありますし、「なんとしても」は目標を達成することについての義務感や切迫感の暗示があります。したがって「なんとかしてアメリカへ留学したい」は「どんな方法でもいいから留学したい」、「どうにかしてアメリカへ留学したい」は「留学できるいい方法はないものか」、「なんとしてもアメリカへ留学したい」は「留学しなければならない理由がある」というニュアンスがありますよ。

「苦もなく」の英訳は?

image by PIXTA / 60981895

「苦もなく」の英訳にはどのようなものがあるのでしょうか。英語で「苦もなく」と言い表す時の例をさっそく見ていきましょう。

「without effort」

「without effort」は「苦もなく、苦も無く、軽軽と、たわい(も)なく、訳なく、易々と」という意味です。「I can do it without effort」で「苦もなくやってのける」、「It's reputed to without effort」で「苦もなくできると評判だ」と言い表すことができますよ。

「苦もなく」を使いこなそう

この記事では「苦もなく」の意味・使い方・類語などを説明しました。「苦もなく」は能力や労力を必要としない様子を表す副詞。主体が行う能動的な達成行為に労力や能力を必要としない様子を表し、目的を達成することについての気安さの暗示があると解説しましたね。また、対象はもともと克服・解決するのに労力や能力を必要とするものである暗示があります受動的な行為については用いられません。したがって「彼女は勧誘員の口車に苦も無く騙された」は誤用となり、正しくは「彼女は勧誘員の口車に手も無く騙された」となります。

" /> 【慣用句】「苦もなく」の意味や使い方は?例文や類語をプロダクション編集者がわかりやすく解説! – Study-Z
国語言葉の意味

【慣用句】「苦もなく」の意味や使い方は?例文や類語をプロダクション編集者がわかりやすく解説!

この記事では「苦もなく」について解説する。
端的に言えば「苦もなく」の意味は「成し遂げるのに苦労しない、容易い」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
ライターのflickerを呼んです。一緒に「苦もなく」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/flicker

仕事柄、言葉からひらめきをもらうことがよくある。「なるほど。そういうことか!」と言葉への知識・関心がさらに一層広がるように、さらに編プロでの編集経験を活かし理解しやすい精確な解説を心掛ける。

「苦もなく」の意味や語源・使い方まとめ

image by PIXTA / 62361422

それでは早速「苦もなく」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「苦もなく」の意味は?

「苦もなく」には、次のような意味があります。

大して苦労せずに。簡単に。わけもなく。

出典:コトバンク

「苦もなく」は能力や労力を必要としない様子を表します。動詞にかかる修飾語として用いられる慣用句。主体が行う能動的な達成行為に労力や能力を必要としない様子を表し、目的を達成することについての気安さの暗示があります。

「苦もなく」の語源は?

次に「苦もなく」の語源を確認しておきましょう。それでは「苦」の漢字の成り立ちについて説明しましょう。「苦」は草を表す「艹」と引き締まる意味の音を示す「古」とを合わせた字。噛むと口を引き締めてしまうほど苦い味のする草のことから、「にがい」「くるしい」の意味に使われるようになりました。

\次のページで「「苦もなく」の使い方・例文」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: