この記事では「塩を踏む」について解説する。

端的に言えば塩を踏むの意味は「苦労する」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国立大で国語学を学んだライターのタケルを呼んです。言葉の解説を得意としていて、大学時代はクイズサークルに所属していたので雑学にも詳しい。一緒に「塩を踏む」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/タケル

某国立大で日本語学を専攻。私(ライター)は大学生時代に自由を謳歌し過ぎたため、すぐに塩を踏むこととなった。タイムマシンがあれば、あの頃の自分を叱りつけたい。

「塩を踏む」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「塩を踏む」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「塩を踏む」の意味は?

「塩を踏む」には、次のような意味があります。

世間に出て苦労する。「この浦の—・んで、老いてのはなしにもと思ふぞ」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「塩(しお)を踏(ふ)・む」

塩を踏む」(しおをふむ)という言葉を聞いたことがない人は、実際のところかなりいるのかもしれません。ですが、これは辞書にも載っている、れっきとした慣用句です。

意味は「世間に出て苦労する、他人との間でつらい目にあう」となります。現代社会で言えば、学生が新社会人となってすぐに学校と会社とのギャップで悩む、といった場面が連想されるでしょう。

「塩を踏む」の語源は?

次に「塩を踏む」の語源を確認しておきましょう。

日本で塩を手に入れるには、古くは塩田で作るのが一般的でした。まずは汲み上げた海水を塩田に撒いて、それを天日などで乾燥させます。それで得られた砂混じりの塩をかき集めて、砂などを洗い落としてから釜で煮詰めるのが、昔ながらの塩作りです。

こうして文章では塩作りの作業について簡潔にまとめられますが、実際にはそんなにたやすいものではありません。純度の高い塩を作るには、もっと多くの工程を重ねる必要があります。そして、野外での塩作りは苦労の連続であると言わざるをえません。特に天気の良い夏場の塩田は非常に暑く、塩を踏みながらの労働の過酷さは想像できるでしょう。そういったことから、「塩を踏む」という言葉で「世間に出て苦労する」という意味を表すようになりました。

\次のページで「「塩を踏む」の使い方・例文」を解説!/

「塩を踏む」の使い方・例文

「塩を踏む」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.社会常識がなければあとで塩を踏むことになる。
2.旧友の葬儀からようやく家に戻り、玄関の前で塩を踏んだ。
3.今日も朝から晩までずっとゲームばかりしているけど、今からでも少しは勉強しておかないと、大人になったら塩を踏むよ。

まずはじめに、例文には1つだけ「塩を踏む」が慣用句として機能していないものがあります。分かりましたでしょうか。

例文2の「塩を踏む」は、実際に塩を踏むという行動を表したものです。通夜や葬儀の後は塩を振りかけることが多いのですが、地方によってはお葬式の帰りに玄関前で塩を踏むこともあります。ただし、葬儀に参列した後で、必ずしもお清めの塩を使うわけではありません。宗教によっては塩を使いませんし、また、宗派によって塩の取り扱い方が変わります。

残る例文の1と3が、「塩を踏む」を慣用句として使用したものです。「事前に努力しておかないと後で苦労する」ということを戒めるために、「塩を踏む」という慣用句が使われます

「塩を踏む」の類義語は?違いは?

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ところで、「塩を踏む」の類義語は何でしょうか。違いとともに見ていきましょう。

「荒波に揉まれる」

「厳しい世の中で苦労を重ねる」と聞いて、「荒波に揉まれる」(あらなみにもまれる)という言葉が頭に浮かんだ人もいるでしょう。「社会の荒波に揉まれる」「世間の荒波に揉まれる」というように使われます。

意味は「塩を踏む」によく似ていると言って良いでしょう。「塩を踏む」は労働の過酷さを、「荒波に揉まれる」は困難が次々に押し寄せる様子を、それぞれよく表しています。比喩の仕方が違いますが、どちらも社会での苦労を例えたものです。

あえて違いを挙げるとするのであれば、「荒波に揉まれる」という言葉を慣用句として採用している辞書が、それほど多くはありません。よく使われる言い回しだとは感じるでしょうが、現状ではそのようになっています。

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「塩を踏む」の対義語は?

ならば、「塩を踏む」の対義語は何でしょうか。

「左団扇」

左団扇」(ひだりうちわ)という慣用句があります。意味は「余裕のある暮らしをすること」です。

しかし、なぜ「左団扇」が「余裕のある暮らし」という意味なのでしょうか。利き手が右手の人はとても多いのですが、その利き手とは逆の左手でうちわをゆっくりとあおぐ動作が、見方によってはゆとりがあるようにも見えます。そこから「左団扇」が「余裕のある暮らし」という意味となりました。

「塩を踏む」の英訳は?

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では、「塩を踏む」を英訳するとどうなるのでしょうか。

「have a hard time 」「struggle」

たとえば「塩を踏む」を英訳アプリなどで訳させた場合、「step on the salt」などと検索結果が出るでしょう。しかし、それは「塩を踏む」という文章を英訳したに過ぎず、慣用句である「塩を踏む」の英訳とは言えません。

では、「塩を踏む」の英訳として使われている英語の慣用句はあるのでしょうか。残念ながら、そういったものも存在しません。似たようなものでは、たとえば「a creaking door hangs long on its hinges」(きしむ門は長持ちする)といったものがありますが、「柳に雪折れ無し」や「一病息災」の英訳としてその慣用句が当てられます。

ならば、慣用句「塩を踏む」の意味である、「世に出て苦労する」を英訳するしかありません。たとえば「世」を世界や世間と捉えた場合には、「have a hard time in the world」や「struggle in the world」などと訳すことができるでしょう。「struggle」1語で「もがく、あがく、苦心する」などの意味があります。

「塩を踏む」を使いこなそう

この記事では「塩を踏む」の意味・使い方・類語などを説明しました。

慣用句の由来となるものは古代中国の故事であることが多く、「塩を踏む」もその1つなのではと思った人もいるでしょう。しかし、中国では岩塩から塩を採ることが多く、「塩を踏む」ことはまれです。よって、「塩を踏む」という表現は、海に囲まれた国土を持つ日本ならではの言葉とも言えます。そんな言葉を大切にするとともに、将来は「塩を踏む」ことのないように若いうちから準備しておきたいものです。

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国語言葉の意味

【慣用句】「塩を踏む」の意味や使い方は?例文や類語を雑学大好きwebライターがわかりやすく解説!

この記事では「塩を踏む」について解説する。

端的に言えば塩を踏むの意味は「苦労する」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国立大で国語学を学んだライターのタケルを呼んです。言葉の解説を得意としていて、大学時代はクイズサークルに所属していたので雑学にも詳しい。一緒に「塩を踏む」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/タケル

某国立大で日本語学を専攻。私(ライター)は大学生時代に自由を謳歌し過ぎたため、すぐに塩を踏むこととなった。タイムマシンがあれば、あの頃の自分を叱りつけたい。

「塩を踏む」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「塩を踏む」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「塩を踏む」の意味は?

「塩を踏む」には、次のような意味があります。

世間に出て苦労する。「この浦の—・んで、老いてのはなしにもと思ふぞ」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「塩(しお)を踏(ふ)・む」

塩を踏む」(しおをふむ)という言葉を聞いたことがない人は、実際のところかなりいるのかもしれません。ですが、これは辞書にも載っている、れっきとした慣用句です。

意味は「世間に出て苦労する、他人との間でつらい目にあう」となります。現代社会で言えば、学生が新社会人となってすぐに学校と会社とのギャップで悩む、といった場面が連想されるでしょう。

「塩を踏む」の語源は?

次に「塩を踏む」の語源を確認しておきましょう。

日本で塩を手に入れるには、古くは塩田で作るのが一般的でした。まずは汲み上げた海水を塩田に撒いて、それを天日などで乾燥させます。それで得られた砂混じりの塩をかき集めて、砂などを洗い落としてから釜で煮詰めるのが、昔ながらの塩作りです。

こうして文章では塩作りの作業について簡潔にまとめられますが、実際にはそんなにたやすいものではありません。純度の高い塩を作るには、もっと多くの工程を重ねる必要があります。そして、野外での塩作りは苦労の連続であると言わざるをえません。特に天気の良い夏場の塩田は非常に暑く、塩を踏みながらの労働の過酷さは想像できるでしょう。そういったことから、「塩を踏む」という言葉で「世間に出て苦労する」という意味を表すようになりました。

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