この間生徒たちに日記の話をしたんです。俺は毎晩日記を書いてその日に起きたことをメモして、次に活かせるようにしている。ただ、その話をしていた時に「毎晩筆を執って」という言い方をしたのですが、生徒たちはあまりピンとこなかったようなんだよなぁ。みんなはどうだ?

この「筆を執る」というのは「文章または書画をかく」という意味の慣用句です。

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ライター/むかいひろき

ロシアの大学で働いている日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「筆を執る」の意味や使い方は?

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「筆を執る(ふでをとる)」という言葉、どこかで見聞きしたことがあるかも…という程度の認識の方が多いのではないでしょうか。覚えておくと、意外と使いどころのある表現です。まずは、その「筆を執る」の意味や使い方を確認していきましょう。

「筆を執る」の意味は「文章または書画をかく」

最初に、「筆を執る」の辞書での意味を確認していきましょう。「筆を執る」は、国語辞典には次のような意味が掲載されています。

文章または書画をかく。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「筆を執(と)・る」

「筆を執る(ふでをとる)」は「文章または書画をかく」という意味の慣用句です。「書画」は「書と絵画」という意味ですね。よって、「筆を執る」は、簡潔に言えば「文字・文章を書くこと」「絵を描くこと」という2つの意味があります

「筆」は古くから文章や絵を描くときに使われてきた道具ですね。特に文章を書く場面では筆を使うことはほぼなくなりましたが、言葉としては「筆」はまだまだ現役なのです。

「執る」の意味は「道具を手に持ち独自の作業をする」

つづいて、気になった方も多いかもしれません。「執る(とる)」の意味についても念のため確認していきましょう。

\次のページで「「筆を執る」の使い方を例文とともに確認!」を解説!/

2.[執・取]道具を手に持ち、それを使って独自の作業をする。
3.[執・取]事の事情をしっかりとつかんでその仕事をする。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「と・る【取る・採る・捕る・執る・撮る】」

「とる」は多くの漢字があり、その内「執る」が意味するものは2番目と3番目の意味でした。そして、「筆を執る」という場合に「執る」が意味するのは3番目の意味です。道具(筆)を手に持って文章を書いたり絵を描いたりする…ことからも3番だと分かるでしょう。

なお、「筆を執る」を「筆を取る」と書くのは誤用ですので気をつけてください

「筆を執る」の使い方を例文とともに確認!

次に、「筆を執る」の使い方を例文とともに確認していきましょう。「筆を執る」は文字・文章の場合は、ある程度まとまった量の文章を書く場合に使用されることが原則です。そして、以下の例文についても当てはまりますが、必ずしも筆を使って書いているわけではありません。シャーペンかもしれないですし、パソコンかもしれません。

1.A国の革命の取材から帰国して1か月が経つ。帰国してからの1か月、多忙によりなかなか革命取材についての記事の筆を執ることができなかった。
2.博士論文を完成させるために、大量のデータとともに再び筆を執った
3.漫画家を目指している私は、毎晩筆を執って1つの短編物語を描くようにしている。

例文1は、「多忙によりなかなか革命取材についての記事を書くことができなかった」という文脈で「筆を執る」が使用されています。取材記事を書くのには労力がいりますよね。こういった簡単にすぐに書けるものではないものに対して、「筆を執る」は原則使用されます

例文2の博士論文も同じですね。博士論文も簡単にすぐに書けるものでは絶対にありません。こちらは「大量のデータとともに博士論文を再び書き始めた」という文脈で「筆を執る」が使用されていますね。

例文3は、「毎晩必ず1つの短編物語を描くようにしている」という文脈で「筆を執る」が使用されています。例文3の場合は、「筆を執る」があることによって、「毎晩必ず短編物語を描く」ということが強調されていますね。

「筆を執る」の類義語は?

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続いて「筆を執る」の類義語を確認していきましょう。「筆を執る」の言いかえ表現は「書く」「描く」が該当しますが、ここではそれ以外の「執筆する」「筆を起こす」「筆を下ろす」をご紹介します。

「執筆する」:文章を書く

「執筆する(しっぴつする)」は「文章を書く」という意味の表現です。「筆を執る」と同じ漢字が使用されていますが、こちらは「絵を描く」という意味はないのでご注意ください。「筆を執る」よりも一般的に広く使われている表現ですね。

「筆を起こす」:文章を書き始める

「筆を起こす」は「文章を書き始める」という意味の慣用句です。「筆を執る」は「文章を書く」という意味で使用されていますが、文脈によっては「書き始める」というニュアンスが含まれます。よって「筆を起こす」と言い換えが可能な場合もあるのです。

「筆を下ろす」:文章を書き始める

「筆を下ろす」は「新しい筆を初めて使う」「文章を書き始める」という2つの意味を持った表現です。「文章を書き始める」という意味は後から派生したと考えられています。「筆を執る」にも、文脈次第で「書き始める」というニュアンスが含まれるため、類義語であると言えるでしょう。

\次のページで「「筆を執る」の英語表現は?」を解説!/

「筆を執る」の英語表現は?

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最後に、「筆を執る」の英語表現を確認していきましょう。「筆を執る」をそのまま直訳しようとすると難しいですが、意味から考えていくと簡単ですよ。「筆を執る」の英語表現は「write」「paint」「draw」です。それぞれ確認していきましょう。

「write」:書く

「write」は「(文字・文章を)書く」という意味の英語表現です。中学校で習う簡単な単語ですが、「筆を執る」の訳語としても十分に機能します。例文を確認していきましょう。

1.Ten days after the interview, I finally began writing the article.
取材から10日後、私はようやく記事のために筆を執った

2.I try to write for six hours every day.
毎日6時間は筆を執るようにしている。

「paint」「draw」:描く

「paint」「draw」は「描く」という意味の英語表現です。日本語では「描く」の1つの言葉ですが、英語では絵の具やペンキなどで塗るように描く場合は「paint」、ペンや鉛筆など線を利用して描く場合は「draw」という違いがあります。どちらも「筆を執る」の訳語となり得る表現ですので、例文を確認していきましょう。

1.I painted a portrait of my father.
父の肖像画のために筆を執った

2.After Ino Tadataka's death, his apprentices drew the continuation of the map and completed it.
伊能忠敬の没後、彼の弟子たちが筆を執り地図を完成させた。

「筆を執る」機会、減っていませんか?

今回は「筆を執る」について解説しました。「文章または書画をかく」という意味の慣用句です。簡潔に言えば「文字・文章を書くこと」「絵を描くこと」という2つの意味を持つ表現でしたね。

受験生や就活生は四六時中何かを書いていると思いますが、それ以外の方はまとまった文章を書いたり、絵を描いたりする機会は少なくなっているのではないでしょうか。もし少なくなっているなぁ…と感じた方がいれば、ぜひ筆を執ってみてください。いい気分転換になりますよ!

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国語言葉の意味

“とる”ってどういう意味?「筆を執る」の意味や類義語などを院卒日本語教師がわかりやすく解説

この間生徒たちに日記の話をしたんです。俺は毎晩日記を書いてその日に起きたことをメモして、次に活かせるようにしている。ただ、その話をしていた時に「毎晩筆を執って」という言い方をしたのですが、生徒たちはあまりピンとこなかったようなんだよなぁ。みんなはどうだ?

この「筆を執る」というのは「文章または書画をかく」という意味の慣用句です。

ここから先は、院卒日本語教師の”むかいひろき”に詳しく意味や類義語などを解説してもらおう!頼んです!

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で働いている日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「筆を執る」の意味や使い方は?

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「筆を執る(ふでをとる)」という言葉、どこかで見聞きしたことがあるかも…という程度の認識の方が多いのではないでしょうか。覚えておくと、意外と使いどころのある表現です。まずは、その「筆を執る」の意味や使い方を確認していきましょう。

「筆を執る」の意味は「文章または書画をかく」

最初に、「筆を執る」の辞書での意味を確認していきましょう。「筆を執る」は、国語辞典には次のような意味が掲載されています。

文章または書画をかく。

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「筆を執(と)・る」

「筆を執る(ふでをとる)」は「文章または書画をかく」という意味の慣用句です。「書画」は「書と絵画」という意味ですね。よって、「筆を執る」は、簡潔に言えば「文字・文章を書くこと」「絵を描くこと」という2つの意味があります

「筆」は古くから文章や絵を描くときに使われてきた道具ですね。特に文章を書く場面では筆を使うことはほぼなくなりましたが、言葉としては「筆」はまだまだ現役なのです。

「執る」の意味は「道具を手に持ち独自の作業をする」

つづいて、気になった方も多いかもしれません。「執る(とる)」の意味についても念のため確認していきましょう。

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