この記事では「あてどなく」について解説する。

端的に言えばあてどなくの意味は「目当ても無く」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「あてどなく」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育、そして言語学に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。

「あてどなく」の意味や語源・使い方まとめ

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「あてどなく」は漢字で書くと「当て所無く」となり、「目当てや心当たりも無く」という意味を持っています。ポイントは目標や目的を表す「当て」と言う言葉に「所」と言う言葉が続いて、その「所」を「ど」と読む点です。それでは早速「あてどなく」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「あてどなく」の意味は?

それでは「あてどなく」の意味を確認するために辞書の記述を参照しましょう。参考にする辞書は小学館の『精選版日本国語大辞典』です。『精選版日本国語大辞典』には「あてどなく」という項目はありません。そこで、「あてどなく」を構成している「あてど(当て所)」、そしてその「あてど」を含む「当て所も無い」の項目を参照します。

 

あてど【当所】
〘名〙
1.当てる所。当てるべき所。
※保元(1220頃か)上「相伝の主の頸を斬らん事心うくて、涙にくれて太刀のあてども覚えねば」
2. めあて。心あたり。目的。
※咄本・一休咄(1668)三「たづねゆきてみんとて、思ふあてどをとひ給へば」
※浮世草子・日本永代蔵(1688)二「当所(アテド)のかならず違ふものは世の中」

出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「あてど」

あてど【当所】 も 無(な)い
めあてもない。心あたりがない。
※三体詩素隠抄(1622)二「墳のあり処がどこともあてどがないぞ」
※浮世草子・好色五人女(1686)二「薬代の当所(アテト)もなく」

出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「あてどもない」

「あてど」には2つの語義の記述がありました。1つ目は物を当てる目標のことを言っていますので、ここで見るのは2つ目の語義である「めあて、心あたり、目的」でしょう。「あてどもない」はその「めあて」である「あてど」が無いという意味になるわけです。その連用形が「あてどなく」となるわけですね。

\次のページで「「あてどなく」の語源は?」を解説!/

「あてどなく」の語源は?

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「あてどなく」を理解するヒントは、語の最初にある「当て」に続く「ど」の意味を明らかにすることでしょう。先ほど引用した『精選版日本国語大辞典』には「ど」に相当する項目はありませんでした。この問題を解決するために、同じく小学館のインターネットで引ける国語辞典『デジタル大辞泉』を参照してみましょう。この時点には、カギとなる「と(所)」の記述があります。さっそく「と」をキーワードに引いて(検索して)みましょう。

と【▽所/▽処】
[語素]《「ど」とも》他の語に付いて、場所の意を表す。「隈(くま)―」「臥し―(ふしど)」

出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「あてどもない」

「所」と書いて「と」とする項目が見つかりました。意味は文字通りの「場所」を表していて、品詞を表す[ ]の中には「語素」とあります。「語素」とは何でしょうか。同じく『デジタル大辞泉』で「語素」と検索をすると以下のような説明があります。

「単語を構成する、意味を持った最小の単位。複合語や派生語の構成要素で、接頭語・接尾語以外のもの。(後略)」(小学館『デジタル大辞泉』より「語素」)

つまり「あてど」とは語の一部を形成する要素の一分類を表す用語であり、複合語「あてど」を形成している要素「語素」として場所を表す「と」が濁音化した「ど」が「あてど」の「ど」の正体というわけです。

関連する語として、構成の似ている「とめどなく」と言う言葉が挙げられるでしょう。「止め処無く」と書き、とどまる「ところ」が無いという意味を持っています。

「あてどなく」の使い方・例文

それでは続いて「あてどなく」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.知らない街をあてどなくさまよった。
2.画面に表示されるネットの世界をあてどなく散策した。
3.人気のいない荒野をあてどなく歩くのは寂しくもあり楽しくもある。

「あてどなく」に関する用例を3つ用意しました。

1.で示している用例がもっとも一般的な「あてどなく」の使い方でしょう。「あてどなく」は心当たりがないという意味がありますから、「さまよう」という言葉と相性が良く、よく一緒に使われます

2.は、「場所」を物理的な「場」から形のない「場」へと移した例文です。この例文ではWebサイトをとりとめもなく閲覧している様子を描写しましたが、この例文のようにネットワークの世界でも良いですし、たとえば「あてどなく思索する」のように人の思考の「場」にも使える点は「あてどなく」のひとつのポイントでしょう。

3.は、評価に関する問題にかかわる内容の例文。「あてどなく」歩くというと、メドが立たない状態で歩いていることになりますからネガティブな意味でとらえられがちです。しかし、「あてどなく」自体にネガティブな意味は無く、前後の文脈とその「あてどもない」行為をどのようにとらえるかによってプラスにとらえる文でもマイナスにとる文でも使用することができます。

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「あてどなく」の類義語は?違いは?

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「あてどなく」の類義語として、「とりとめもなく」を挙げます。「あてどなく」も「あてどもなく」のように助詞「も」を挟むことができますし、どこか決まった終着点が無いというニュアンスが「あてどなく」を連想させますね。では、「とりとめもなく」について「あてどなく」との類似点、相違点について迫ってみましょう。

「とりとめもなく」

「とりとめもなく」の意味を明らかにするために、『精選版日本国語大辞典』の「取留がない」を引用します。

とりとめ【取留】 が ない



まとまりがない。要領を得ない。しかと定まらない。

※微味幽玄考(1844‐84頃)六「漂々たる海部に育ちたる者は、其情薄くして〈略〉且其心に取止無き者也」

※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「種々の取留(トリトメ)も無い事が続々胸に浮んで」

 

出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「取留がない」

語釈の3番目にある「しかと定まらない」という点が、「目当てや心当たりがない」という「あてどなく」の意味と共通する点でしょう。また、その結果要領を得ないというところも関連させることができるでしょう。しかし、すべての面でこの二つの語の意味が一致するわけではありません。「とりとめがない」にある「まとまりがない」という意味は、「あてどなく」の意味からは少し離れています。例文にあるような「とりとめのない考えが頭に浮かぶ」というような場合は「あてどなく」では使うことができません

「あてどなく」の対義語は?

「あてどなく」が「目当てや心当たり」が無いという意味ですから、目当てや心当たりがあって進んでいくという言葉が対義語として適当でしょう。ここでは、四字熟語である「敢為邁往(かんいまいおう)」をご紹介します。

\次のページで「「敢為邁往」」を解説!/

「敢為邁往」

ある目的があって、その目的を達成するために一直線に向かっていく。これが「敢為邁往」です。「敢為」には「困難をものともしない」というニュアンスが含まれるため、ここは「あてどなく」の対義語としては余計な表現になってしまいますが、「邁進(まいしん)」の「邁」の字が使われている「邁往」は、目的に向かって「ひたすら進む」という意味があり、「あてどなく」進むとは正反対の行動となります。

「あてどなく」を使いこなそう

この記事では「あてどなく」の意味・使い方・類語などを説明しました。辞書にそのまま意味が載っている項目が無かったため、細かく分割して意味に迫っていくという方法を取りました。「ど」一文字にも意味があって「あてど」と言う言葉がつくられ、その先に「あてどなく」という言葉があるという言葉の意味の深みを味わっていただけたなら幸いです。

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国語言葉の意味

「あてどなく」の意味や使い方は?例文や類語を日本語研究家がわかりやすく解説!

この記事では「あてどなく」について解説する。

端的に言えばあてどなくの意味は「目当ても無く」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「あてどなく」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育、そして言語学に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。

「あてどなく」の意味や語源・使い方まとめ

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「あてどなく」は漢字で書くと「当て所無く」となり、「目当てや心当たりも無く」という意味を持っています。ポイントは目標や目的を表す「当て」と言う言葉に「所」と言う言葉が続いて、その「所」を「ど」と読む点です。それでは早速「あてどなく」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「あてどなく」の意味は?

それでは「あてどなく」の意味を確認するために辞書の記述を参照しましょう。参考にする辞書は小学館の『精選版日本国語大辞典』です。『精選版日本国語大辞典』には「あてどなく」という項目はありません。そこで、「あてどなく」を構成している「あてど(当て所)」、そしてその「あてど」を含む「当て所も無い」の項目を参照します。

 

あてど【当所】
〘名〙
1.当てる所。当てるべき所。
※保元(1220頃か)上「相伝の主の頸を斬らん事心うくて、涙にくれて太刀のあてども覚えねば」
2. めあて。心あたり。目的。
※咄本・一休咄(1668)三「たづねゆきてみんとて、思ふあてどをとひ給へば」
※浮世草子・日本永代蔵(1688)二「当所(アテド)のかならず違ふものは世の中」

出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「あてど」

あてど【当所】 も 無(な)い
めあてもない。心あたりがない。
※三体詩素隠抄(1622)二「墳のあり処がどこともあてどがないぞ」
※浮世草子・好色五人女(1686)二「薬代の当所(アテト)もなく」

出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「あてどもない」

「あてど」には2つの語義の記述がありました。1つ目は物を当てる目標のことを言っていますので、ここで見るのは2つ目の語義である「めあて、心あたり、目的」でしょう。「あてどもない」はその「めあて」である「あてど」が無いという意味になるわけです。その連用形が「あてどなく」となるわけですね。

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