端的に言えば「さもあらん」の意味は「もっともである」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「さもあらん」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/船虫堂
博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。ライターとしてのモットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。古文漢文は大学を卒業してからようやく面白さがわかってきた。
「さもあらん」の意味や語源・使い方まとめ
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それでは早速「さもあらん」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「さもあらん」は文語的なやや古めかしい言い方で、「もっともだ」だとか「きっとそうだろう」というような当然そうだろうという意味を持った表現です。後述しますが類義語というか同義語として「さもありなん」という表現もあります。それでは「さもあらん」という表現を分解したり、用例を見ていくことで理解していきましょう。
「さもあらん」の意味は?
それでは、辞書に掲載されている「さもあらん」の意味を確認していきましょう。参照する辞書は小学館の『精選版日本国語大辞典』です。「さもあらん」には、次のような意味があります。
出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「然もあらん」
語の説明のところがいきなり「=さもありなん」となっています。「さもありなん」を参照せよ。ということなのでしょう。それでは、同じく『精選版日本国語大辞典』から「さもありなん」の項目を引用します。
出典:精選版日本国語大辞典(小学館)「然もありなん」
「さもありなん」を参照することによって、ようやく具体的な語義である「そうであろう」「もっともなことだ」にたどり着きました。「さもあらん」、そして「さもありなん」は相手の言ったことや状況に対してそうであることは当然であろうという態度を表す表現であることがわかります。
ところで、「さもあらん」の項目に掲載されている用例は「徒然草」です。ここから、「さもあらん」は古典作品の時代から用いられている古語が時代が降った現代においても用いられている表現であることがわかります。「さもあらん」が持っているニュアンスを理解するためには「さもあらん」を構成している言葉を品詞分解して理解するというアプローチが有効そうです。続いては「さもあらん」を分解することによって、表現が持っているニュアンスを丁寧に見ていくことにしましょう。
「さもあらん」の語源は?
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「さもあらん」の語源は日本の古典に出てくる古語です。ですから、高校の古典の授業のようにこの「さもあらん」という表現を品詞分解してみましょう。
「さもあらん」を分解すると①
分解するとさもあらん=さも(副詞)+あら(ラ行変格活用動詞「あり」未然形)+ん(推量の助動詞「む」の撥音表記)になります。
最初に出てくる「さも」という副詞は、元々は副詞「然(さ)」に強調の助詞「も」が後続してできた語で、「そのようにも」とか、この語だけで「いかにも」「全く」という意味を持っています。これに続くのはいわゆるラ変動詞の「あり」です。「あり」は「あら」と未然形に活用しています。そして次に続くのが未然形接続の助動詞である「む」で、「む」は通常「む」と表記されていても「ン」と読むのですが、その撥音(「ん」のこと)の発音通りの表記として「む」が「ん」と書かれているわけです。助動詞「む」は多義語(推量・意思・勧誘・仮定・婉曲・適当の「スイカ変えて」と暗記しますよね)ですが、ここでは「〜だろう」推量の意味を取ります。
「さもあらん」を分解すると②
ここまでの品詞分解を踏まえて「さもあらん」を直訳(逐語訳)してみると、さもあらん=(いかにも)そのようで+ある+だろうとなり、辞書の説明にあった「そうであろう」に通ずるわけです。「も」に強調の意味がありますから、推量というより当然の意味で「もっともなことだ」というニュアンスも含みます。
「さもあらん」の使い方・例文
「さもあらん」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.落胆している後輩の隣で先輩上司は「さもあらん」という表情をしていた。
2.もうガチャが引けない。さもあらん、資金が枯渇したのである。
3.この状況から考えるに撤退するのもさもあらんといわざるを得ないでしょう。
文中の出方別に3パターンの例文を作りました。1.で示している「さもあらん」はここでは表情ですが、先輩上司は「当然だろう」と口に出しているかもしれません。さすがに現代日本語の会話文で「さもあらん」単独を使うのは侍同士の会話のようで少々違和感がありますが、このような「さもあらん」という表情のように表情や態度を形容する場面では使用することができます。
2.は文中に挟み込まれているパターンです。このように、文と文のつなぎで、前の文の状況が当然であることを示す時に「さもあらん」を挟み込むことができます。
3.は、現代日本語の会話文でも用いることができるパターンです。先ほど説明した通り、「さもあらん」を単独で同意や当然の意味で用いることは相当珍しくなっていると言わざるを得ませんが、この例文のような『〜と言える』という文系では「さもあらん」を使うことができます。
「さもありなん」
もしかしたら、「さもあらん」よりも「さもありなん」の方が現代日本語では残っているかもしれません。「さもあらん」に強調(強意)の助動詞である「ぬ」の未然形が挟まった形式です。先ほどのように品詞分解してみましょう。
「さもあらん」との違いは?
分解すると、さもありなん=さも(副詞)+あり(ラ行変格活用動詞「あり」連用形)+な(強調の助動詞「ぬ」未然形)+ん(推量の助動詞「む」の撥音表記)となります。
「さもあらん」との違いは、強調(受験生の方には「強意」と言った方が通りが良いかもしれませんね)の助動詞「ぬ」の未然形が入っているという点です。助動詞「ぬ」は古典文法では完了の意味で用いられることが多いですが、意思や推量の助動詞の前につくと後続する助動詞を強調するという働きを持っています。「てむ」「なむ」「つべし」「ぬべし」と暗記された方も多いのではないでしょうか。強調ということで「きっと〜」とか「確かに〜」というニュアンスが入ります。さて、この品詞分解に従って「さもありなん」を直訳してみると、さもありなん=きっと(強調)+そのようで+ある+だろうとなるわけです。
「さもありなん」にさらに強調のニュアンスが入ったと理解すれば良いでしょうか。
「さもあらん」の対義語は?
「さもあらん」という副詞「さも」(漢字表記「然も」)が含まれる表現に迫っていきましたので、「さもあらん」の対義語も同じく「さ」を使った「さにあらず(然にあらず)」をあげたいと思います。
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