この記事では「良薬口に苦し」について解説する。

端的に言えば良薬口に苦しの意味は「良い忠告は素直に聞き入れにくいが、身のためになることのたとえ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

大学で中国文学を専攻していた現役校正者の朱月を呼んです。一緒に「良薬口に苦し」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/朱月

大学で中国文学を専攻した、漢文好きの校正者。13年の校正経験を生かし、丁寧に解説する。

「良薬口に苦し」の意味や語源・使い方まとめ

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「良薬口に苦し」という言葉を知っていますか?「文字通り、良い薬は苦い味がする、という意味でしょう?」と言いたいところですが、それだけではありません。この故事成語は、紀元前の時代から現代まで長く伝えられてきた奥深い言葉なのです。

それでは早速「良薬口に苦し」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「良薬口に苦し」の意味は?

「良薬口に苦し(りょうやくくちににがし)」は「良薬は口に苦し」ともいいます。辞書で意味を調べてみましょう。

良い薬は苦くて飲みにくいが、病気のためにはすぐれたききめがある。忠言、諫言は聞きにくいが、その身のためになることにたとえてもいう。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「良薬口に苦し」

文字通り、「良い薬は苦い(が、よく効く)」という意味から転じた言葉です。

私たちも、先生や先輩からアドバイスをもらうことがありますよね。中には、素直に聞き入れることができない内容のものもあるかもしれません。

ですが、アドバイスをくれる人は相手のためを思って、あるいは根拠があって言ってくれていることも多いです。はじめは納得がいかなくても、実際その通りにやってみればうまくいくこともあるでしょう。自分の考えややり方が正しいと思っていても、「このアドバイスは自分のためになる」と思ってまずは素直に受け止めてみるのも良い経験です。

「良薬口に苦し」の語源は?

次に「良薬口に苦し」の語源を確認しておきましょう。

先ほど取り上げた辞書では、『孔子家語(こうしけご)』を出典として取り上げています。この書物は、『論語』でおなじみ孔子の言行や弟子との問答など、孔子一門の説話を集めたものです。

\次のページで「「良薬口に苦し」の使い方・例文」を解説!/

孔子曰く、良薬は口に苦けれども、病に利あり。忠言は耳に逆らえども、行いに利あり。
(孔子がおっしゃった。「良い薬は飲むと苦いが、病を治す効果がある。忠言は不愉快に聞こえるものだが、行いを正すのに効果がある」)

出典:『孔子家語』六本

「良薬口に苦し」という言葉は、『孔子家語』の他にもいろいろな書物に記されており、語源に諸説あります。中国・戦国時代の思想家である韓非という人が著した『韓非子』、前漢の司馬遷(しばせん)が編纂した歴史書『史記』、そしてここで挙げた『孔子家語』のいずれかを出典とする説が有力です。しかし実際にはさらに多くの書物に「良薬口に苦し」の記載があり、どの説が正しいのかははっきりしていません。

「良薬口に苦し」の使い方・例文

「良薬口に苦し」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.友人に注意されて落ち込んだが、良薬口に苦しだ。僕のためを思って言ってくれたんだから、ありがたいと思わなくちゃ。
2.「良薬口に苦し」と昔から言われているように、歴史上の人物も助言を聞き入れるのに苦労したんだろうなあ。
3.子どもから飲み過ぎを注意されて思わず感情的に言い返してしまったが、良薬口に苦しだ。健康には気をつけないと。

例文1は、友人から注意された時はショックを受けたものの、その後反省している様子がうかがえますね。

大昔から言われ続けてきた言葉であるということは、当時の人々にとって「良薬口に苦し」は大切な教訓ととらえられていたのでしょう。例文2ではそのことに思いをはせています。

忠告やアドバイスは、何も同僚や目上の人からだけ言われるとは限りません。例文3のシチュエーションのように、年下の若者から言われた言葉でも、それが理にかなったものであれば、やはり自分のためになるものです。

\次のページで「「良薬口に苦し」の類義語は?違いは?」を解説!/

「良薬口に苦し」の類義語は?違いは?

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ここからは、「良薬口に苦し」の類義語を見ていきましょう。

「忠言耳に逆らう」

「忠言耳に逆らう(ちゅうげんみみにさからう)」は「忠言は耳に逆らう」ともいいます。先ほど語源の説明で取り上げたように、「良薬口に苦し」とセットで使われることも多いです。上述の『孔子家語』のほか、『韓非子』や『史記』などにも記載がありますよ。

「金言耳に逆らう」

「金言耳に逆らう(きんげんみみにさからう)」は「金言は耳に逆らう」ともいいます。

「金言」とは、生きていくために手本とすべき言葉や模範となる格言のことです。「金言耳に逆らう」で「どんなに真心のこもった良い言葉でも、素直に聞き入れられないものである」という意味になります。「良薬口に苦し」が「その人のためになる」というところまで意味していることを考えると、少しニュアンスが異なりますね。

「良薬口に苦し」の対義語は?

次に、「良薬口に苦し」の対義語を見てみましょう。

「佞言は忠に似たり」

「佞言は忠に似たり(ねいげんはちゅうににたり)」は、中国の宋代について記した歴史書『宋史』に由来する言葉です。

「佞言」とはなかなか見慣れない漢字ですね。この言葉は、「こびへつらった言葉、お世辞、おべっか」などを意味します。「佞言は忠に似たり」で「こびへつらった言葉は忠義の言葉と似ているので、話を聞くときは注意しないといけない」という意味です。

「良薬口に苦し」の英訳は?

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それでは、「良薬口に苦し」の英訳は何と言うのでしょうか。早速見てみましょう。

\次のページで「「A good medicine tastes bitter.」」を解説!/

「A good medicine tastes bitter.」

直訳すると「良い薬は苦い味がする」となります。何と、英語でもそのまま使われているようですね。「Good medicine tastes bitter to the mouth.」ともいいますよ。

「Unpleasant advice is a good medicine.」

「unpleasant」は「(人にとって)不愉快な、不快にさせる」という意味です。直訳すると「人を不愉快にさせるアドバイスは良薬である」となります。こちらは「忠言耳に逆らう」の意味に近いようですね。

「良薬口に苦し」を使いこなそう

この記事では「良薬口に苦し」の意味・使い方・類語などを説明しました。大昔からずっと伝わってきた言葉であることを思うと、どこか歴史のロマンを感じませんか?忠告やアドバイスは、言われる側はもちろんつらいものですが、言う側もただ相手を攻撃したくて言っているわけではありません。本当に自分のためを思って言ってくれる言葉だからこそ、はじめは耳が痛くても受け止めることができるのではないでしょうか。「良薬口に苦し」は今でもよく使われる言葉ですので、ぜひ覚えておきましょう。

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【故事成語】「良薬口に苦し」の意味や使い方は?例文や類語を校正者がわかりやすく解説!

この記事では「良薬口に苦し」について解説する。

端的に言えば良薬口に苦しの意味は「良い忠告は素直に聞き入れにくいが、身のためになることのたとえ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

大学で中国文学を専攻していた現役校正者の朱月を呼んです。一緒に「良薬口に苦し」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/朱月

大学で中国文学を専攻した、漢文好きの校正者。13年の校正経験を生かし、丁寧に解説する。

「良薬口に苦し」の意味や語源・使い方まとめ

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「良薬口に苦し」という言葉を知っていますか?「文字通り、良い薬は苦い味がする、という意味でしょう?」と言いたいところですが、それだけではありません。この故事成語は、紀元前の時代から現代まで長く伝えられてきた奥深い言葉なのです。

それでは早速「良薬口に苦し」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「良薬口に苦し」の意味は?

「良薬口に苦し(りょうやくくちににがし)」は「良薬は口に苦し」ともいいます。辞書で意味を調べてみましょう。

良い薬は苦くて飲みにくいが、病気のためにはすぐれたききめがある。忠言、諫言は聞きにくいが、その身のためになることにたとえてもいう。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「良薬口に苦し」

文字通り、「良い薬は苦い(が、よく効く)」という意味から転じた言葉です。

私たちも、先生や先輩からアドバイスをもらうことがありますよね。中には、素直に聞き入れることができない内容のものもあるかもしれません。

ですが、アドバイスをくれる人は相手のためを思って、あるいは根拠があって言ってくれていることも多いです。はじめは納得がいかなくても、実際その通りにやってみればうまくいくこともあるでしょう。自分の考えややり方が正しいと思っていても、「このアドバイスは自分のためになる」と思ってまずは素直に受け止めてみるのも良い経験です。

「良薬口に苦し」の語源は?

次に「良薬口に苦し」の語源を確認しておきましょう。

先ほど取り上げた辞書では、『孔子家語(こうしけご)』を出典として取り上げています。この書物は、『論語』でおなじみ孔子の言行や弟子との問答など、孔子一門の説話を集めたものです。

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