この記事では「一炊の夢」について解説する。

端的に言えば一炊の夢の意味は「人生の栄枯盛衰のはかないことのたとえ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

大学で中国文学を専攻していた現役校正者の朱月を呼んです。一緒に「一炊の夢」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/朱月

大学で中国文学を専攻した、漢文好きの校正者。13年の校正経験を生かし、丁寧に解説する。

「一炊の夢」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「一炊の夢(いっすいのゆめ)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。この言葉は、「一炊之夢」という四字熟語としても知られています。

「一炊の夢」の意味は?

「一炊の夢」を辞書で引いてみると、次のような意味が載っています。

人生の栄華のはかないたとえ。黄粱の夢。盧生の夢。邯鄲の夢枕。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「一炊の夢」

古来、人々は人生の成功を夢に見てきました。富や名声を得たいと願い、努力し、実際にそれを叶えた武将や為政者もいます。

しかし、成功する人ばかりではないのが世の無常なところ。また、ひとたび成功したとしても、その栄華が長く続くとは限りません。「一炊の夢」という言葉は、そのような物悲しさを教えてくれるようですね。

「一炊の夢」の語源は?

次に「一炊の夢」の語源を確認しておきましょう。この言葉の出典は、中国・唐代の沈既済(しんきせい)という人が書いたとされる伝奇小説「枕中記(ちんちゅうき)」です。

邯鄲の宿屋で、盧生という青年は道士・呂翁から「出世が叶うという枕」を借りてひと眠りします。立身出世の一生を夢に見た盧生が目覚めたところ、宿屋の主人はまだ黄粱(こうりょう=きびのこと)の飯を炊いている途中でした。盧生が夢を見ていたのは、わずかな間のことだったのです。

ここから、「人生の栄枯盛衰はあっという間の短いものだ」というたとえとして「一炊の夢」や「黄粱一炊の夢」などの故事成語が生まれました。

\次のページで「「一炊の夢」の使い方・例文」を解説!/

「一炊の夢」の使い方・例文

「一炊の夢」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.アメリカンドリームを夢見てメジャーリーグでプレイした選手も、今や活躍の話を聞かない。まさに一炊の夢ということだね。
2.これまでの立場がすべて失われた今、一炊の夢という言葉を改めて噛みしめているよ。
3.人生は一炊の夢だ、今を大切に生きようじゃないか。

例文1は、かつてアメリカに渡って大活躍した選手も今ではすっかり話題にのぼらなくなり、「成功した期間はあっという間だった」のたとえに「一炊の夢」を使っています。

例文2の話し手は、少し前まで重要な地位にあった人なのでしょう。立場ががらりと変わってしまって、「人の栄華は短いものだ」としみじみしています。

また例文3のように、人生そのもののはかなさ・短さのたとえに「一炊の夢」を用いることも可能です。

「一炊の夢」の類義語は?違いは?

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ここからは「一炊の夢」の類義語を見ていきましょう。人生や栄枯盛衰のはかないことをたとえた言葉は、意外にも多くあるんですよ。

その1「邯鄲の夢」

先ほど語源の説明で取り上げた「枕中記」の話からは、「一炊の夢」以外にもいくつかの故事成語が作られています。その一つがこの「邯鄲の夢(かんたんのゆめ)」です。

語源が同じですから意味も「一炊の夢」と同じで、人の栄枯盛衰があっという間のはかないことのたとえに使われます。

\次のページで「その2「南柯の夢」」を解説!/

その2「南柯の夢」

「南柯の夢(なんかのゆめ)」もまた「世の栄枯盛衰のはかないことのたとえ」を意味する言葉です。

「一炊の夢」とは語源が異なり、こちらは中国・唐代の「南柯太守伝」という伝奇小説がもとになっています。主人公が酒に酔ってうたた寝した際、栄華を極める夢を見たというものです。「枕中記」のエピソードとよく似ていますね。

その3「諸行無常」

学校の古文の授業で『平家物語』を読んだことがある人も多いでしょう。「諸行無常(しょぎょうむじょう)」はその冒頭の一文に出てくる有名な四字熟語で、「世の中に永久不変のものはない」という意味です。

さらに、次の文にある「盛者必衰(じょうしゃひっすい)」も同様で、「栄華を極めた者も必ず衰える時がある」という意味になります。

「一炊の夢」の対義語は?

では、「一炊の夢」の対義語にはどのような言葉があるのでしょうか。

「一炊の夢」とは、人生や栄枯盛衰のはかないこと・あっという間であることのたとえに用いられる言葉です。ここからは逆に、それらが永遠に続くことを示す言葉を探してみましょう。

その1「永久不変」

「いつまでも限りなく続くこと・続くさま」をいう「永久」と、「変わらないこと・変わらないさま」をいう「不変」がくっついた言葉です。今の状態がこの先もずっと続くようなイメージが浮かびますね。

その2「万古不易」

「万古不易(ばんこふえき)」もまた、「永久不変」と同様の意味をさします。「万古」には「遠い昔から現在まで、永遠」などの意味があり、それが「不易」すなわち「いつまでも変わらないこと」をいう四字熟語です。

「一炊の夢」の英訳は?

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次に、「一炊の夢」の英訳を見てみましょう。

\次のページで「その1「an empty dream」」を解説!/

その1「an empty dream」

「empty」にはさまざまな意味がありますが、ここでは「空っぽの」「空虚な」という意味です。「dream(夢)」と結びつくことで、「空虚な夢」「はかない夢」という意味になります。

その2「a fleeting dream」

「fleeting」とは「はかない」「短い」「つかの間の」という意味の言葉です。「Life is a fleeting dream.(人生はつかの間の夢だ。)」「Life is fleeting.(人生ははかない。)」のように使われます。

その3「Life is but a dream.」

学校で習う「but」の意味は、「しかし」「だが」など接続詞としての用法が主ではないでしょうか。ですが、この一文に出てくる「but」を「しかし」と解釈すると意味が通じませんね。

「but」には、「only」と同じく「~にすぎない」という副詞としての用法があります。「Life is but a dream.」で「人生は夢にすぎない(ただの夢なんだ)」という意味になるのです。

「一炊の夢」を使いこなそう

この記事では「一炊の夢」の意味・使い方・類語などを説明しました。なかなか話し言葉では使わないフレーズですが、同様の意味をさす言葉は他にもたくさんあることがわかりましたね。対義語も含めて覚えておくと、古典を読んだ際に「ああ、あの意味だったな」とすんなり読み解くことができるようになるのでおすすめですよ。

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【故事成語】「一炊の夢」の意味や使い方は?例文や類語を校正者がわかりやすく解説!

この記事では「一炊の夢」について解説する。

端的に言えば一炊の夢の意味は「人生の栄枯盛衰のはかないことのたとえ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

大学で中国文学を専攻していた現役校正者の朱月を呼んです。一緒に「一炊の夢」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/朱月

大学で中国文学を専攻した、漢文好きの校正者。13年の校正経験を生かし、丁寧に解説する。

「一炊の夢」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「一炊の夢(いっすいのゆめ)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。この言葉は、「一炊之夢」という四字熟語としても知られています。

「一炊の夢」の意味は?

「一炊の夢」を辞書で引いてみると、次のような意味が載っています。

人生の栄華のはかないたとえ。黄粱の夢。盧生の夢。邯鄲の夢枕。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「一炊の夢」

古来、人々は人生の成功を夢に見てきました。富や名声を得たいと願い、努力し、実際にそれを叶えた武将や為政者もいます。

しかし、成功する人ばかりではないのが世の無常なところ。また、ひとたび成功したとしても、その栄華が長く続くとは限りません。「一炊の夢」という言葉は、そのような物悲しさを教えてくれるようですね。

「一炊の夢」の語源は?

次に「一炊の夢」の語源を確認しておきましょう。この言葉の出典は、中国・唐代の沈既済(しんきせい)という人が書いたとされる伝奇小説「枕中記(ちんちゅうき)」です。

邯鄲の宿屋で、盧生という青年は道士・呂翁から「出世が叶うという枕」を借りてひと眠りします。立身出世の一生を夢に見た盧生が目覚めたところ、宿屋の主人はまだ黄粱(こうりょう=きびのこと)の飯を炊いている途中でした。盧生が夢を見ていたのは、わずかな間のことだったのです。

ここから、「人生の栄枯盛衰はあっという間の短いものだ」というたとえとして「一炊の夢」や「黄粱一炊の夢」などの故事成語が生まれました。

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