この記事では「虎を画きて狗に類す」について解説する。

端的に言えば虎を画きて狗に類すの意味は「虎の絵を描いても犬にしか見えない」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「虎を画きて狗に類す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅

自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。

「虎を画きて狗に類す」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「虎を画(えが)きて狗(いぬ)に類す」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「虎を画きて狗に類す」の意味は?

「虎を画きて狗に類す」には、次のような意味があります。

勇猛な虎を描こうとして、犬のようなものになってしまう。力量のない者が、すぐれた人のまねをして、かえって軽薄になることのたとえ。また、目標が大きすぎて失敗することのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「虎を画きて狗に類す」

虎は江戸時代の有名な画家・狩野探幽葛飾北斎らの日本画の題材になってきました。彼らの描く虎は迫力があり、今にも動き出して飛びかかってきそうな印象を受けます。しかし素人が描いたらどうでしょう。いくら写真を参考に虎を描いたつもりでもまるで犬に見えるような失敗作になることが多いのではないでしょうか。このように虎をイメージして描いても、まるで犬のようになってしまうことを「虎を画きて狗に類す」と言います。

また、自分に才能や力量がないのに高望みをして無謀な挑戦をし、結果的に失敗してしまうという意味もあるのです。例えば、少し野球をかじった程度の初心者がアメリカンリーグの選手といきなり対戦するようなもので、結果は最初からわかっています。つまり「虎を画きて狗に類す」は、このような身の丈に合わないことをする人を皮肉る言葉でもあるのです。

「虎を画きて狗に類す」の語源は?

次に「虎を画きて狗に類す」の語源を確認しておきましょう。「虎を画きて狗に類す」は中国後漢朝について書かれた歴史書『後漢書』のなかの「馬援(ばえん)伝」の故事が由来となっています。馬援は、自分の甥に対して友人である杜季良を虎に比して「虎を画きて成らずんば、反(かえ)りて狗に類するものなり」と語りました。つまり「もし英雄や豪傑に学んで失敗すると世間の笑いものになる。だから杜季良に学んではいけない」と戒めたのです。

\次のページで「「虎を画きて狗に類す」の使い方・例文」を解説!/

「虎を画きて狗に類す」の使い方・例文

「虎を画きて狗に類す」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、例えば以下のように用いられます。

1.君のような素人が野球監督になってゲームに出場するなんて、虎を画きて狗に類すようなものでとても無理だよ。
2.地質学者は粒々辛苦して全国を行脚し、大昔の地層から歴史的発見をした。初心者がそこいらを掘ってなにかを見つけようとするのは、虎を画きて狗に類すようなものだ。
3.上野動物園でトラをスケッチしたけれど、どう見ても犬にしか見えない。まったく虎を画きて狗に類すとはこのことだ。

虎は主にアジアを中心に生息しており、20世紀初めには約10万頭いたと言われています。しかし都市開発や農地開発、森林伐採、植林などの影響で、現代では4000頭前後にまで減少し、絶滅危惧種となってしまいました。

虎は我が国には野生で生息しておらず、私たち日本人は動物園でしか虎を見る機会はありません。虎は強さの象徴として語られることも多く、平貞盛など平安時代の武将は虎の皮を使った鎧を身につけていた者もいました。いずれにしても彼らは「虎を画きて狗に類す」類の軽薄な人物ではありませんでした。

「虎を画きて狗に類す」の類義語は?違いは?

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ここでは「虎を画きて狗に類す」の類義語を見ていきましょう。ただし、絵の下手な人が虎を描こうとして犬のようになってしまうという意味は、これらの類義語にはありません。

その1「鵜の真似をする烏」

「鵜の真似をする烏(カラス)」は、自分の能力を考えもしないで人の真似をすると、必ず失敗するという意味で「虎を画きて狗に類す」の類義語と言えます。烏は鵜のように水に潜ることができません。つまり、才能のない者が自己を省みることなく無謀な望みを抱くことです。

\次のページで「その2「ごまめの歯ぎしり」」を解説!/

その2「ごまめの歯ぎしり」

「ごまめの歯ぎしり」「虎を画きて狗に類す」の類義語に挙げてもいいでしょう。ごまめはカタクチイワシの小さなものを素干しにしたものです。この言葉のなかでは、実力のないものの一つとして扱われています。つまり力の劣る者が、悔しがったりいきり立つことを表現したものです。またそのように悔しがったりすることは無駄なことだという意味も含んでいます。

その3「蟷螂の斧」

「蟷螂(とうろう)の斧」「蟷螂」とはカマキリのことです。カマキリは斧に似た前足を上げて敵に立ち向かいます。しかしカマキリの小さな斧が武器になるような相手はまずいません。つまり、実力もないのに強い者に立ち向かう姿が「虎を画きて狗に類す」に例えられるのです。

しかしこの言葉には別の意味もあります。それは中国前漢の韓嬰(かんえい)の説話集『韓詩外伝』にある話です。斉の荘公が乗った車の前にいたカマキリが車の輪を打とうとします。そこで荘公が「これはなんという虫か」と家来に訊いたところ、家来は「これはカマキリと言って、進むことしか知らず退くことを知りません。自分の力量も考えず、相手に立ち向かっていきます」と答えました。それを聞いた荘公は「この虫が人間だったら天下を取っていただろう」と応じた故事に基づいたもので、多分に賞賛の意が込められていると言っていいでしょう。

「虎を画きて狗に類す」の対義語は?

次に「虎を画きて狗に類す」の対義語を見ていきましょう。

「鵠を刻して鶩に類す」

「鵠(こく)を刻(こく)して鶩(あひる)に類す」は国語辞典には普通「虎を画きて狗に類す」の同義語として掲載されています。「鵠」とは白鳥のことです。しかし本当に類義語と言えるのでしょうか。これも『後漢書』「馬援伝」に掲載されている言葉です。

馬援は、竜伯高(りゅうはくこう)という生真面目でみんなの尊敬を集めている人を取り上げて「彼の真似をしていれば実直な人物になれる。白鳥の彫刻をつくろうとして失敗しても、アヒル程度のものはできる」と語りました。つまり、立派な人物にあやかればそれに近い人物にはなれると説いたのです。そう考えると「虎を画きて狗に類す」とは反対の意味と捉えたほうがいいのではないでしょうか。なおこの言葉は「鵠を刻して家鴨(アヒル)に類す」という書き方もあります。

「虎を画きて狗に類す」の英訳は?

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最後に「虎を画きて狗に類す」の英訳を見ていきましょう。日本語の意味する「虎を画きて狗に類す」の意味のうち、才能がない者が実力以上のものに挑戦するという意味の言葉は見つけられませんでした。そこで文字どおりの意味での英訳を挙げておきます。

「draw a tiger and resemble a dog」

「draw a tiger and resemble a dog」「虎を描いたら犬に似た」となります。「resemble」は「似ている」という意味です。これを二つのフレーズに分けると「draw a tiger. and it is similar to a dog」となります。意味は「draw a tiger and resemble a dog」と同じで「虎を描いた。それは犬に似ている」となり、単に一つのフレーズを二つにしただけです。「similar」は「同様」を意味します。

\次のページで「「虎を画きて狗に類す」を使いこなそう」を解説!/

「虎を画きて狗に類す」を使いこなそう

この記事では「虎を画きて狗に類す」の意味・使い方・類語などを説明しました。「虎を画きて狗に類す」には、技術の劣った者が上手に絵を描こうとしても駄目だという意味のほかに、才能のない者が無謀な挑戦をしても無駄なことだという教訓も含まれています。皆さんもなにかにつけて一流と言われるようになりたいでしょう。そのためには厳しい修行に耐えなければなりません。そのくらいの努力を続けたいものです。

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【故事成語】「虎を画きて狗に類す」の意味や使い方は?例文や類語を元広報紙編集者がわかりやすく解説!

この記事では「虎を画きて狗に類す」について解説する。

端的に言えば虎を画きて狗に類すの意味は「虎の絵を描いても犬にしか見えない」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「虎を画きて狗に類す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅

自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。

「虎を画きて狗に類す」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「虎を画(えが)きて狗(いぬ)に類す」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「虎を画きて狗に類す」の意味は?

「虎を画きて狗に類す」には、次のような意味があります。

勇猛な虎を描こうとして、犬のようなものになってしまう。力量のない者が、すぐれた人のまねをして、かえって軽薄になることのたとえ。また、目標が大きすぎて失敗することのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「虎を画きて狗に類す」

虎は江戸時代の有名な画家・狩野探幽葛飾北斎らの日本画の題材になってきました。彼らの描く虎は迫力があり、今にも動き出して飛びかかってきそうな印象を受けます。しかし素人が描いたらどうでしょう。いくら写真を参考に虎を描いたつもりでもまるで犬に見えるような失敗作になることが多いのではないでしょうか。このように虎をイメージして描いても、まるで犬のようになってしまうことを「虎を画きて狗に類す」と言います。

また、自分に才能や力量がないのに高望みをして無謀な挑戦をし、結果的に失敗してしまうという意味もあるのです。例えば、少し野球をかじった程度の初心者がアメリカンリーグの選手といきなり対戦するようなもので、結果は最初からわかっています。つまり「虎を画きて狗に類す」は、このような身の丈に合わないことをする人を皮肉る言葉でもあるのです。

「虎を画きて狗に類す」の語源は?

次に「虎を画きて狗に類す」の語源を確認しておきましょう。「虎を画きて狗に類す」は中国後漢朝について書かれた歴史書『後漢書』のなかの「馬援(ばえん)伝」の故事が由来となっています。馬援は、自分の甥に対して友人である杜季良を虎に比して「虎を画きて成らずんば、反(かえ)りて狗に類するものなり」と語りました。つまり「もし英雄や豪傑に学んで失敗すると世間の笑いものになる。だから杜季良に学んではいけない」と戒めたのです。

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