この記事では「胸に一物」について解説する。

端的に言えば胸に一物の意味は「下心がある」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

多くの学術書を読み、豊富な知識をもつハヤカワを呼んです。一緒に「胸に一物」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ハヤカワ

学術書を中心に毎年100冊以上の本を読む、無類の本好き。人にさまざまな影響を与える言語、それ自体に強い興味をもち、言葉の細やかな表現にも並々ならないこだわりをもっている。

「胸に一物」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「胸に一物」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「胸に一物」は慣用句であるという点も抑えておきましょう。

「胸に一物」の意味は?

「胸に一物」というキーワードをネット上の辞典・辞書「コトバンク」で検索してみると、次のような記載があります。

1.心中にわだかまりがあること。また、心の中にひそかに期するところがあること。

出典:精選版 日本国語大辞典「胸に一物」

「胸に一物」とは、なにか表面には出していない感情を心に抱えている様子を意味しています。「胸」というのは「心の場所」を表しているんですね。言葉や態度にはあからさまに見せていないものの、胸の内・心の内に相手への強い感情を秘めている場合に使われています。

特に相手への不満・恨みなど、ネガティブな感情を隠している場面で使われることが多い点に注意しましょう。なにか喧嘩など諍いを起こしてしまい、表向きは許すといったものの、心にわだかまりが残ってしまっている。「胸に一物」はこうした悪い感情を内に秘めている場合に使う言葉です。

「胸に一物」の語源は?

次に「胸に一物」の語源を確認しておきましょう。「胸」という字は「胸が騒ぐ」、「胸を痛める」、「胸を打つ」などを見ても、昔から心がある場所の表現として多く使われています。「胸に一物」はこうした心の位置に、物を抱えている様子を表現しているんですね。

不満や悩みがあると、胸の奥になにかモヤモヤとした物が溜まっているような感覚を覚えます。こうした感覚を覚えるからこそ、「心」は「胸」の位置にあるに違いないという、素朴な見解が生まれたのでしょう。

\次のページで「「胸に一物」の使い方・例文」を解説!/

「胸に一物」の使い方・例文

「胸に一物」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.どうも話しを聞いていると、あの人は胸に一物ありそうだ。
2.セールスに来るやつは大抵、胸に一物ありそうな面構えをしている。
3.娘との結婚の許しを貰いに来た男は、どうも胸に一物ありそうで心配だ。

「胸に一物」という言葉は例文のように、特定の誰かが何かたくらみをもっており、陥れようとしてきているのではないか。そういった不安を伝える場面で多く使われています。にこやかに接してきているけれど、裏でなにを考えているかわからず、こちらを騙そうと近づいてきている気がする。

「胸に一物」は基本的にはこうした場面で使っていきましょう。また「胸に一物」はこの他に、心にわだかまりがあり、それを隠している場面でも使います。誰かと口論になったあと、表面上は仲直りしたけれど、まだ内心には黒いものが残っている。こうした場面でも「胸に一物」という言葉を使うことができます。

「胸に一物」の類義語は?違いは?

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続いて「胸に一物」の類義語・違いについて確認していきましょう。よく似た表現との違いを確認することで、「胸に一物」という言葉の意味をより深く理解することができます。

その1「腹に一物」

「腹に一物」は「胸に一物」とほとんど同じ意味で使われている類義語です。「胸に一物」の「胸」が「腹」となっていますが、こちらも心の位置を意味しています。古くは胸ではなく、腹に人の心があると考えられており、そうしたところから「腹に一物」という表現が生まれました。

こちらも「あいつはなにか腹に一物あるらしい」など、基本的に「胸に一物」と同じ場面で使われています。それぞれの違いとしては、「胸に一物」が心の中にわだかまりをもっている場合にも多く使われているのに対して、「腹に一物」はなにかたくらみを隠している場合により多く使われています

\次のページで「その2「下心」」を解説!/

その2「下心」

「下心」は表面上は見せない、悪いたくらみを心にもっていることを意味しています。もともとは単に心の奥底・本心で思っていることという意味をもっていました。しかし最近ではそうした心の奥底に、悪いたくらみや、やましい考えをもっている場面でよく使われています。

「胸に一物」と非常によく似た内容となっていますが、こちらは男女関係で、男性が女性にやましい心をもって接する場面で使われることが多くなっています。「胸に一物」とは使用する場面・ニュアンスに少し違いがあるため、注意して使い分けていきましょう。

その3「綿裏包針(めんりほうしん)」

「綿裏包針」とは表向きは穏やかを装っているけども、裏表が激しく内心に悪意を隠しもっているという意味です。こちらは人の性格を表現する四字熟語として使われており、良い人だと思っていた人物が実際は良い人を演じているだけだったという場面で使われます。

「胸に一物」の対義語は?

つづいて「胸に一物」の対義語についても確認していきましょう。「胸に一物」には明確に対義語とされている語はありません。しかしその意味から連想してみると次の単語が思い浮かびます。

「あけすけ」

「あけすけ」とは、自分の考えや感情を隠さず、遠慮なしに伝えることです。「あけすけに話す」や「あけすけな性格」といった形で使われることが多く、言葉や態度に隠すところがなく正直であることを表しています。

「あけすけ」という単語は、良い意味でも悪い意味でも使われるという点に注意しましょう。良い意味では正直であることを意味しますが、悪い意味では配慮がなく露骨すぎるといった意味合いがあります。どちらの意味で使われているかは文脈から判断する必要があるため、都度注意していきましょう。

「胸に一物」の英訳は?

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つづいて「胸に一物」の英語訳についても確認していきましょう。

「Have an ax to grind」

「Have an ax to grind」は、直訳すると「研ぐべき斧をもっている」ですが、こちらは日本語の「下心がある」や「胸に一物」と似た意味をもった英熟語になります。

なにか心の内に悪いものを隠しもっている、といった場面を表現でき、ちょうど「胸に一物」と同じように使うことができますよ。こちらも覚えておきましょう。

\次のページで「「胸に一物」を使いこなそう」を解説!/

「胸に一物」を使いこなそう

この記事では「胸に一物」の意味・使い方・類語などを説明しました。「胸に一物」とは、誰かがなにか表には出していない、ネガティブな感情を心の内に隠しもっている時に使う言葉です。相手の口ぶりや態度になにか隠していそうな気配を感じ、騙されていそうで不安になる。

「胸に一物」とは、こうした相手への疑念が形になった言葉なんですね。また類義語には「腹に一物」、「下心」、「綿裏包針」などがありました。それぞれ少しづつニュアンスが違うため、細かい意味や使われる場面を確認しつつ、使い分けていきましょう。今回の記事が皆さんの参考になっていれば幸いです。

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【慣用句】「胸に一物」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「胸に一物」について解説する。

端的に言えば胸に一物の意味は「下心がある」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

多くの学術書を読み、豊富な知識をもつハヤカワを呼んです。一緒に「胸に一物」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ハヤカワ

学術書を中心に毎年100冊以上の本を読む、無類の本好き。人にさまざまな影響を与える言語、それ自体に強い興味をもち、言葉の細やかな表現にも並々ならないこだわりをもっている。

「胸に一物」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「胸に一物」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「胸に一物」は慣用句であるという点も抑えておきましょう。

「胸に一物」の意味は?

「胸に一物」というキーワードをネット上の辞典・辞書「コトバンク」で検索してみると、次のような記載があります。

1.心中にわだかまりがあること。また、心の中にひそかに期するところがあること。

出典:精選版 日本国語大辞典「胸に一物」

「胸に一物」とは、なにか表面には出していない感情を心に抱えている様子を意味しています。「胸」というのは「心の場所」を表しているんですね。言葉や態度にはあからさまに見せていないものの、胸の内・心の内に相手への強い感情を秘めている場合に使われています。

特に相手への不満・恨みなど、ネガティブな感情を隠している場面で使われることが多い点に注意しましょう。なにか喧嘩など諍いを起こしてしまい、表向きは許すといったものの、心にわだかまりが残ってしまっている。「胸に一物」はこうした悪い感情を内に秘めている場合に使う言葉です。

「胸に一物」の語源は?

次に「胸に一物」の語源を確認しておきましょう。「胸」という字は「胸が騒ぐ」、「胸を痛める」、「胸を打つ」などを見ても、昔から心がある場所の表現として多く使われています。「胸に一物」はこうした心の位置に、物を抱えている様子を表現しているんですね。

不満や悩みがあると、胸の奥になにかモヤモヤとした物が溜まっているような感覚を覚えます。こうした感覚を覚えるからこそ、「心」は「胸」の位置にあるに違いないという、素朴な見解が生まれたのでしょう。

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