今回は「延髄」をテーマに学習していこう。

我々は脳によって体の動きを調節したり、モノを認識したりしている。脳の働きは複雑ですが、その分勉強しがいがある分野です。この記事では脳の部位の一つである延髄に焦点を当ててみていきます。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

延髄とは?

延髄(えんずい)は脳の一部をさす名称です。脳の中でも、脳幹とよばれる部分に含まれています。

脳のお話をするにあたり、まずは中枢神経系というものについて復習をしておきましょう。

中枢神経系=脳+脊髄

私たちがものを考えたり、身体を動かしたり、外界からの刺激を認識したりできるのは、神経系が存在しているおかげです。神経系は大きく中枢神経系末梢神経系に分けられます。

末梢神経系は、身体の隅々に張り巡らされた神経をまとめたもの。体性神経系(運動神経や感覚神経)、自律神経系(交感神経や副交感神経)などがこれにあたります。

一方で、多数の神経細胞が束やかたまりになり、つくられているのが中枢神経系です。

image by Study-Z編集部

中枢神経系は大きく脊髄に分けられます。頭蓋骨の中にあるのが脳であり、脳から続いて背骨(脊椎骨)のなかを通る太い神経の束が脊髄です。

ヒト(人間)では、脳の中でも”大脳”とよばれる部位が非常に発達しています。想像や計算といった複雑な思考をつかさどるのが大脳ですが、私たちが生きていくには大脳以外の脳の部位も欠かすことができません。それどころか、生命を維持するためには大脳以外の部位の方が重要であるともいえるのです。

\次のページで「延髄の位置」を解説!/

”小脳”、”間脳”、”中脳”、”橋(きょう)”、そして今回の主役である”延髄”に分けて考えることが多いですね。これらのうち、”間脳”、”中脳”、”橋”、”延髄”が、まとめて脳幹(のうかん)と呼ばれています。

延髄の位置

延髄は、脳のなかでも最も下、脊髄との境目に位置しています。延髄と脊髄の間には明瞭な境界線があるわけではありません。

ヒトの脳の場合、延髄のすぐ上には橋があり、中脳へと続いています。

Medulla oblongata-ja.svg
Takuma-sa - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

延髄には、運動に関係するニューロンの集まった錐体とよばれる部分があり、その外側にはオリーブとよばれる隆起があります。

さらに細かく各部の名称が決められていますが、ひとつひとつ解説し始めると複雑になってしまうので、この記事ではこれくらいにとどめておきましょう。

延髄の機能

それでは、延髄にはどんな役割や機能があるのか、代表的なものをいくつかご紹介していきましょう。

呼吸中枢

延髄の機能として有名なのが、呼吸をコントロールする、呼吸中枢としてのはたらきです。

私たちは普段、当たり前のように呼吸をし続けていますよね。深呼吸しようとしたり、運動で激しく呼吸をしなくてはいけないこともありますが、日常生活では意識せずとも息を吸い、吐くことができているはずです。

呼吸をする際、体では横隔膜や肋間膜などの筋肉を使い、肺を動かしています。これらの筋肉はまとめて”呼吸筋”とよばれるのですが、呼吸筋の運動は、延髄から刺激が送られることで引き起こされているのです。

\次のページで「嘔吐の中枢」を解説!/

延髄の呼吸中枢は、血液中の酸素分圧や二酸化炭素分圧、pHの変化などを刺激として感じ取ることができます。また、肺や気道などの状態も情報として受け取ることができ、それらを受けて呼吸のリズムを変化させるのです。

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また、「深呼吸する」「素早く呼吸する」といったような、意識的な呼吸リズムの変化(随意的な調節)も可能ですよね。これは、呼吸中枢が大脳からの命令を受けて呼吸の運動をコントロールしている、ということになります。

一見単純な「息をする」という運動も、いくつもの神経や刺激が複雑に関係しあう、巧みな機構なのです。

嘔吐の中枢

ものを吐き出してしまう運動を嘔吐(おうと)といいますが、これにも延髄が深く関係しています。延髄には嘔吐の中枢があるのです。

何らかの刺激が延髄の嘔吐中枢に伝わると、胃や横隔膜、腹筋などを動かす神経などが刺激され、吐き気(嘔気)や嘔吐が引き起こされます。スタートとなる”何らかの刺激”というのは、内臓からの刺激であったり、毒物などの化学物質が刺激となっていたり…時には心理的な刺激が当てはまる場合もありますね。

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注意しなくてはならないのが、脳の異常が吐き気の原因となる場合です。脳腫瘍や脳梗塞が嘔吐中枢を刺激する原因になっていることがありますので、頭を打った後などの吐き気は、病院でできるだけ早く見てもらった方が良いでしょう。

嚥下の中枢

嘔吐と反対の運動に思える嚥下(えんげ)…食べ物の”飲み込み”を調節することも、延髄の機能の一つです。

嘔吐と違い、嚥下は途中まで、ある程度自分の”意志”でコントロールできる面があります。「つばを飲み込もう」というときには、頭で考えて嚥下を行いますよね。自らの”意志”でコントロールできる運動は随意運動といいます。

\次のページで「その他の延髄の機能」を解説!/

それが、そうでもないんです。食べ物などを喉の奥(咽頭)へ送り込むまでの運動は随意運動なのですが、そこから先は不随意運動、つまりコントロールできない反射的な運動になります。

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食べ物は、咽頭に達するとその先の食道へ送り込まれますが、この時、間違って食べ物が気道に入ってしまう可能性がありますよね。そうならないよう、いくつもの筋肉が複雑に運動し、食べ物を食道へ運んでいきます。この部分は不随意運動です。

延髄は、大脳とも連携しながら、このような複雑な嚥下という運動の調節も行っているのですよ。

その他の延髄の機能

上でご紹介したもの以外にも、延髄にはさまざまな機能があります。血管の収縮や拡張の調節、唾液や涙の分泌、咳をすることにも延髄が関係しているのです。知れば知るほど、脳幹の一部である延髄は私たちの命をつなぐために重要なはたらきをしているということが実感できますね。

生命活動維持に不可欠な機能があることだけでなく、延髄は大脳など他の脳とも関係しながら働いているという点にも注目しましょう。脳の働きは非常に複雑なもの。他の脳の部位についても学習し、より理解を深めてみてください。

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体の仕組み・器官理科生物

生命維持の要!「延髄」って何?どんな機能がある?現役講師がわかりやすく解説します

今回は「延髄」をテーマに学習していこう。

我々は脳によって体の動きを調節したり、モノを認識したりしている。脳の働きは複雑ですが、その分勉強しがいがある分野です。この記事では脳の部位の一つである延髄に焦点を当ててみていきます。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

延髄とは?

延髄(えんずい)は脳の一部をさす名称です。脳の中でも、脳幹とよばれる部分に含まれています。

脳のお話をするにあたり、まずは中枢神経系というものについて復習をしておきましょう。

中枢神経系=脳+脊髄

私たちがものを考えたり、身体を動かしたり、外界からの刺激を認識したりできるのは、神経系が存在しているおかげです。神経系は大きく中枢神経系末梢神経系に分けられます。

末梢神経系は、身体の隅々に張り巡らされた神経をまとめたもの。体性神経系(運動神経や感覚神経)、自律神経系(交感神経や副交感神経)などがこれにあたります。

一方で、多数の神経細胞が束やかたまりになり、つくられているのが中枢神経系です。

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中枢神経系は大きく脊髄に分けられます。頭蓋骨の中にあるのが脳であり、脳から続いて背骨(脊椎骨)のなかを通る太い神経の束が脊髄です。

ヒト(人間)では、脳の中でも”大脳”とよばれる部位が非常に発達しています。想像や計算といった複雑な思考をつかさどるのが大脳ですが、私たちが生きていくには大脳以外の脳の部位も欠かすことができません。それどころか、生命を維持するためには大脳以外の部位の方が重要であるともいえるのです。

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