この記事では「笠に着る」について解説する。
端的に言えば笠に着るの意味は「偉そうにする」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。国立大学国文科卒業のあおやぎを呼んです。一緒に「笠に着る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/あおやぎ

幼い頃から本を数えきれないほど読んできた活字中毒。国立大学国文科に入学し、日本語について学ぶ。子育て経験を生かし、分かりやすく言葉の使い方について解説する。

「笠に着る」の意味や語源・使い方まとめ

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「笠に着る」という慣用句を耳にしたことはあるでしょうか。「あの人は権力を笠に着て…」なんて会話をしたことはありませんか?「かさ」と言っても雨傘や日傘のことではありません。ワラやいぐさで編んだかぶり物のことを指します。「かさじぞう」のお話で見たことがある方も多いかもしれません。

あまり良い意味の言葉ではなさそうですが、どういった使い方をすれば良いのでしょうか?また、「笠をかぶる」という状態がなぜ「偉そうにする」ことの表現になるのでしょうか?語源についても解説します。

「笠に着る」の意味は?

「笠に着る」を辞書で調べると、次のような意味が出てきます。

権勢のある後援者などを頼みにしたり、自分に保障されている地位を利用したりしていばる。また、自分の施した恩徳をいいことにして勝手なことをする。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

権勢のある者をたのんで威張る。また、自分の側の権威を利用して他人に圧力を加える。

出典:精選版 日本国語辞典

「笠に着る」には「地位があったり、力を持っている人や組織の力をひけらかして他人に横柄な態度を取る」という意味があります。良く使われるのは「権力を笠に着て」という言い回しでしょう。日常会話でも耳にすることがあるフレーズですね。「自分のものではない権力を盾にして威張り散らす」といった意味合いで使われていることが多いのではないでしょうか。

しかしそれだけでなく、「自分の施した恩徳」つまり「自分が相手にしてあげたこと」も威張る根拠になるようです。いずれにしろ、名実共に立派な人が威厳ある態度を取っている様子には使いません。「本当は威張るべきではない者が威張っている」ニュアンスのある批判的な表現といえるでしょう。

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「笠に着る」の語源は?

次に「笠に着る」の語源を確認しておきましょう。「笠に着る」の語源は、「雨や雪、日差しを避けるための笠を権力者や自分の威光に見立て、その下で守られている様子」と言われています。

また、「昔、足軽が陣笠をかぶって農民や町人の金品や財産を奪うなどの悪事を働いたこと」が語源であるという説も。「陣笠」というのは戦などで兜の代わりに使われた笠のことで、これをかぶるということは大名の家来の証になるので、まさに大名の権力を盾に好き勝手にしていたということですね。

「笠に着る」は日本語が変?

ところで、「笠に着る」という表現、なんだか少し引っかかりませんか。そもそも「笠」は「かぶる」ものですし、少なくとも笠「に」ではなくて笠「を」着るになるのではないか…そう考える方もいるかもしれませんね。筆者も疑問に思いましたので、調べてみました。

そこで、「着る」という動詞について辞書を引くことにします。

1 衣類などを身につける。からだ全体または上半身にまといつける。着用する。「着物をきる」「上着をきる」

2 物事を自分の身に引き受ける。

㋐(「…をきる」の形で)身に負う。かぶる。「ひとの罪をきる」

㋑(「…にきる」の形で)相手の行為をありがたく受ける。こうむる。「恩にきる」

[補説] 「きる」は本来、衣服などを身につける意で、着物以外に袴(はかま)・笠・烏帽子・兜(かぶと)・布団・刀などについても用いられた。現代では主としてからだ全体や上半身に着用するものをいい、袴やズボンなどは「はく」、帽子や笠などは「かぶる」、刀などは「おびる」というように、どの部分につけるかによって異なる語が用いられる。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

ここで注目したいのは補説。現代では「はく」「かぶる」など身につける場所によって動詞が変わりますが、昔は「着る」で帽子や刀まで含めた衣類を身につけるという意味を表していました。

続いて、「に」について考えていきましょう。上記の2.(イ)の「…にきる」の形でもありますので、相手の行為をありがたく受ける、こうむるという意味のようにも思えますが、笠に着る対象は行為に限らず組織や個人、その権力にも及びます。また、受ける、こうむるというよりは主体的に利用する意味合いになりますので、この場合は2.(イ)に当てはまる用法ではなさそうです。

そこで、辞書で「に」を調べてみます。

5 動作・作用の目的を表す。「見舞いに行く」「迎えに行く」

「白馬(あをうま)見—とて里人は車清げにしたてて見—行く」〈枕・三〉

出典:デジタル大辞泉(小学館)

この「に」は格助詞といって、名詞や名詞に準じる語、動詞の連用形・連体形などに付き色々な関係を表す役割の語です。「笠に着る」の「に」は、上記の「動作の目的を表す」用法に当たるといえるでしょう。というのも、「笠に着る」を使うときには必ず「○○「を」笠に着る」という形を取るのです。

権力などを笠(自分を守るもの)にする、つまり、「権力を笠にしてかぶる」という意味があるため、笠「に」着るというのですね。

「笠に着る」の使い方・例文

「笠に着る」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は例えば以下のように用いられます。

\次のページで「「笠に着る」の類義語は?違いは?」を解説!/

1.健太は国会議員の先生の威光を笠に着て、協会でも偉そうに仕事をしている。

2.バブル時代に銀行員だった彼は銀行の権力を笠に着て、外部の社員にまで命令していたのでかなり恨みを買っていたようだ。

3.私は彼に結婚の相談をされて女性を紹介してあげたし、その結果彼らは婚約したけれども、それを笠に着るようなつもりはないよ。

上の3つの例文について、一つずつ見ていきましょう。

例文1では国会議員という「権勢のある後援者」を頼みにして周囲に偉そうな態度を取っている、という意味で「笠に着る」が使われています。権力は健太にではなく、国会議員の先生にあるのに、それを借りて健太が威張っているという状況です。例文2では「バブル時代の銀行」という自分の地位や立場を利用して威張っているさまが「笠に着る」で表されています。「彼」は銀行という大きな権力を持った組織の一員ですので、自分の側の権威を利用して威張っているというわけです。例文3では「彼に女性を紹介してあげた」という自分が施した行為について、ことさらに恩を着せて威張りはしない、という意味で使われています。紹介した女性とめでたく婚約したのであれば、かなりの恩恵を与えたといえますよね。

「笠に着る」の類義語は?違いは?

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ここまで、「笠に着る」という慣用句の意味や語源について紹介してきました。

「権力や権威、施しを根拠に他者に威張る」といった意味の言葉ですが、似た言葉や言い換えはあるのでしょうか?

その1「虎の威を借る狐」

「笠に着る」の類義語には「虎の威を借る狐」が挙げられます。

これは漢の時代に編纂された「戦国策」という書物から生まれた古事成語です。虎に食べられそうになった狐が、「私は動物たちの王だから、食べてはいけない。ついてきなさい」と虎を後ろに従えて歩くと、動物たちは確かに逃げていきます。でもそれは狐が王として恐れられているからではなく、後ろを歩く虎を恐れてのことです。そこから、「力のある者を頼みにして威張る小者」という意味になりました。「笠に着る」との違いは本人に力があったり、誰かに施した恩恵についていう場合には使えないという点になります。

その2「恩に着せる」

「恩に着せる」とは、「恩を施したことについて、ことさらにありがたく思わせようとする」ことを表す言葉です。誰かにしてあげたことについて威張ることを言いたいときにはこちらを使うのもよいでしょう。

「恩に着る」は「笠に着る」と似た語感の言葉ですが、こちらの「着る」は「相手の行為をありがたく受ける」という意味になります。

「笠に着る」の対義語は?

それでは、「笠に着る」の対義語はあるのでしょうか。

ぴったり対になるような慣用句はないのですが、大きい意味で言うと「威張る」の反対ですから、「謙虚」という意味の言葉が当てはまるといえます。

\次のページで「「実るほど頭を垂れる稲穂かな」」を解説!/

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」

稲が成長し、実が重くなるごとに稲穂がしなりまるで頭を下げているように見える様子に「立場が上がったり、年齢を重ねるほどに謙虚である」態度を例えたことわざです。「笠に着る」が立場を利用して大きな態度を取ることですから反対ですね。素晴らしい人を讃えるときに使われるほか、座右の銘などに据えている人も多いようです。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」は他者の力ではなく、本人の地位や権力が高い場合にのみ使われます。

「笠に着る」の英訳は?

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「笠に着る」を英語にするとどのような表現になるのでしょうか。

「wear the mantle of authority and misuse it」

「笠に着る」を英訳すると「wear the mantle of authority and misuse it」となります。直訳すると「権威のマントを着てそれを誤用する」です。日本では笠、欧米ではマントというのが面白いですね。「mantle」だけで既に「権威の象徴としての衣服」という意味合いを持っています。また、「You should stand on your own merits」(他人の威光を笠に着るな)という警句もありました。こちらは直訳すると「あなた自身の真価によって立つべきだ」となります。

「笠に着る」を使いこなそう

この記事では「笠に着る」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「権威を盾にして大きな態度を取る」という意味の慣用句ですが、相手に施した恩恵に対してことさらに威張るといった状況にも使えることが分かりましたね。どちらであっても決していい評価を与えるときに使う表現ではありません。相手への批判的なニュアンスを持つ言葉なので、使う際には注意しましょう。また、「あの人は権力を笠に着ているわね」なんて言われないよう、謙虚を心掛けていきたいものですね。

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【慣用句】「笠に着る」の意味や使い方は?例文や類語を国立大学国文科卒ライターがわかりやすく解説!

この記事では「笠に着る」について解説する。
端的に言えば笠に着るの意味は「偉そうにする」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。国立大学国文科卒業のあおやぎを呼んです。一緒に「笠に着る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/あおやぎ

幼い頃から本を数えきれないほど読んできた活字中毒。国立大学国文科に入学し、日本語について学ぶ。子育て経験を生かし、分かりやすく言葉の使い方について解説する。

「笠に着る」の意味や語源・使い方まとめ

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「笠に着る」という慣用句を耳にしたことはあるでしょうか。「あの人は権力を笠に着て…」なんて会話をしたことはありませんか?「かさ」と言っても雨傘や日傘のことではありません。ワラやいぐさで編んだかぶり物のことを指します。「かさじぞう」のお話で見たことがある方も多いかもしれません。

あまり良い意味の言葉ではなさそうですが、どういった使い方をすれば良いのでしょうか?また、「笠をかぶる」という状態がなぜ「偉そうにする」ことの表現になるのでしょうか?語源についても解説します。

「笠に着る」の意味は?

「笠に着る」を辞書で調べると、次のような意味が出てきます。

権勢のある後援者などを頼みにしたり、自分に保障されている地位を利用したりしていばる。また、自分の施した恩徳をいいことにして勝手なことをする。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

権勢のある者をたのんで威張る。また、自分の側の権威を利用して他人に圧力を加える。

出典:精選版 日本国語辞典

「笠に着る」には「地位があったり、力を持っている人や組織の力をひけらかして他人に横柄な態度を取る」という意味があります。良く使われるのは「権力を笠に着て」という言い回しでしょう。日常会話でも耳にすることがあるフレーズですね。「自分のものではない権力を盾にして威張り散らす」といった意味合いで使われていることが多いのではないでしょうか。

しかしそれだけでなく、「自分の施した恩徳」つまり「自分が相手にしてあげたこと」も威張る根拠になるようです。いずれにしろ、名実共に立派な人が威厳ある態度を取っている様子には使いません。「本当は威張るべきではない者が威張っている」ニュアンスのある批判的な表現といえるでしょう。

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