この記事では「後れを取る」について解説する。

端的に言えば後れを取るの意味は「先を越される」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「後れを取る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅

自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。

「後れを取る」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「後れを取る」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「後れを取る」の意味は?

「後れを取る」には、次のような意味があります。

他よりおくれる。他に先を越される。負ける。

出典:明鏡国語辞典第三版(大修館書店)「後れを取る」

「後れを取る」「遅れを取る」かどちらを使うべきか迷ったことはないでしょうか。辞書によっては「後れを取る」と「遅れを取る」の両方が掲載されている場合もあります。しかし「遅れを取る」はまず使うことはありません。結論から言えば「後れを取る」を使うほうが正しいのです。「後れ」は空間的、精神的な「おくれ」の場合に使い、「遅れ」は時間的な「おくれ」に使います。

「後れを取る」の語源は?

次に「後れを取る」の語源を確認しておきましょう。「遅れを取る」と書いても意味は通じます。しかし厳密には「後れ」と「遅れ」では明確に意味が違うことを覚えておいてください。先に説明したとおり「後れ」は空間的、精神的な意味で使いますから、自分だけ人より取り残される場合に使う言葉です。例えば「流行に後れる」とか「時代の潮流に後れる」のような使い方をします。自信がなくて気持ちがひるんだりする場合には「気後れする」と表記しますから、やはり精神的なものが多分に影響する場合に使うことが多い言葉と言えるでしょう。

そのほか自分だけ人に取り残されたときにもやはり「後れる」を使います。例えば知人が亡くなったりして、自分は生きている場合「逝き後れる」などと使うことができるでしょう。知人に先立たれて寂しい心情がよく表れています。

これに対して「遅れ」「遅刻」「遅参」など、時間におくれる場合に使う表記です。空間的、精神的な「おくれ」か時間的な「おくれ」かを意識すると正しい漢字を使うことができて間違うことはありません。

\次のページで「「後れを取る」の使い方・例文」を解説!/

「後れを取る」の使い方・例文

「後れを取る」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、例えば以下のように用いられます。

1.彼女は美人だが、ファッションは流行に後れを取ることが多く残念だ。
2.彼はいつも仕事に取りかかるのが遅く、完了するのに同僚より後れを取ることが多い。
3.テレビゲームに夢中になってしまい、同級生より勉強で後れを取ることが多い。

「後れを取る」という場合、締め切りなど時間が限られているわけではありません。一方「遅れ」と書く場合は電車に乗り遅れたり、学校の始業時間に遅れたりする場合など、それぞれしっかりと時間が決まっており、間に合わなくなるときに使います。これに対して「後れを取る」は時代の流れや趨勢に乗り遅れてほかの事象や人についていけない場合に使われる言葉で、時間に制約があるわけではありません。

ちなみに長さが短いため結い上げきれずに襟足などに残っている毛髪を「後れ毛」と言います。主に女性の艶っぽさを表現するときに使われますが、この場合は他の毛より後れて生えてきた毛を意味しており、「遅れ毛」とは書かないよう気をつけてください。

「後れを取る」の類義語は?違いは?

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ここでは「後れを取る」の類義語を見ていきましょう。

その1「後手を踏む」

「後手」とは囲碁で打つ順番のことです。一般的に先に打つほうが有利ですから技量の劣った人が最初に打って勝負が始まります。これを「先手」といい、使うのは黒石です。その次に白石を持った強い人が盤上に白石を打ちます。これが「後手」です。

「後手を踏む」という表現によく似た言葉として「後手に回る」がありますが、この二つは明確に違います。「踏む」という表現にはためらって「二の足を踏む」、先人の失敗を繰り返す「轍(てつ)を踏む」など、あまりいい意味では使われません。それに対して「後手に回る」は、一時的に出遅れても最終的には勝ちを収める意味があります。そのような意味を考えると、どちらかといえばネガティブな場合に使われる「後手を踏む」を「後れを取る」の類義語とするほうがいいでしょう。

\次のページで「その2「後塵を拝する」」を解説!/

その2「後塵を拝する」

「後塵を拝する」も先に挙げた「後手を踏む」同様、あまりいい意味では使いません。「後塵」とは車や馬が通り過ぎたあとに舞い上がる土埃(つちぼこり)のことです。つまり先を越されてしまって土埃を浴びるのですから「後れを取る」様子を表しています。また、優れた人に追従するとかそのような人をうらやましく思う意味も含まれているのです。

その3「先手を取られる」

「先手を取られる」も囲碁や将棋を由来とする言葉です。「先手を取る」と言えば、先に攻撃を仕掛けたり、今後起こるであろう事態に備える積極的で能動的な意味があり、有利な状態で物事を進めることができます。逆に「先手を取られる」と言えばまったく逆の意味になり、追い込まれた状態と言えるでしょう。つまり「後れを取る」ような事態になります。

「後れを取る」の対義語は?

次に「後れを取る」の対義語を見ていきましょう。

その1「先んずる」

「先んずる」は誰よりも早く事を行うという意味で「後れを取る」の反対語となります。「先んずる」とは「先にする」の音が変化したもので、「先んずれば人を制す」とことわざにあるとおり先手必勝の心構えを説いたものです。「先んじる」という言い方もありますが、言葉の成り立ちを考えた場合「先んずる」としたほうが適当でしょう。

その2「先手を打つ」

「先手を打つ」は類義語で解説した「先手を取られる」とまったく反対の言葉です。やはり囲碁の碁石を先に打つことが由来になっています。先に碁石を打って有利な状態を保ったまま勝負を進めることです。「先手を取る」も同様の意味になります。

「後れを取る」の英訳は?

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最後に「後れを取る」の英訳を見ていきましょう。

\次のページで「「to fall behind」」を解説!/

「to fall behind」

「to fall behind」は英語で「後れを取る」の意味になります。「fall」には秋、落ちるなどいろいろな意味がありますが、この場合は「下がる」と訳すのが適当でしょう。「behind」には「~に後れて」とか「~の後ろに」という意味があります。「僕は彼女に後れを取ってしまった」を英訳すると「I fell behind her」となるのです。

「後れを取る」を使いこなそう

この記事では「後れを取る」の意味・使い方・類語などを説明しました。「後れ」か「遅れ」かどちらを使うのか迷った場合は、精神的に誰かよりおくれて焦っている状態を表すときは「後れ」を、決められた時間に間に合わない場合は「遅れ」を使うと覚えておけばいいでしょう。英語ではこのような微妙なニュアンスを表す言葉はないため、どうしても一つの単語で表現することはできません。この記事をきっかけに「後れ」と「遅れ」の違いを正しく使うようにしてください。

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国語言葉の意味

「後れを取る」の意味や使い方は?例文や類語を元広報紙編集者がわかりやすく解説!

この記事では「後れを取る」について解説する。

端的に言えば後れを取るの意味は「先を越される」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「後れを取る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅

自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。

「後れを取る」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「後れを取る」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「後れを取る」の意味は?

「後れを取る」には、次のような意味があります。

他よりおくれる。他に先を越される。負ける。

出典:明鏡国語辞典第三版(大修館書店)「後れを取る」

「後れを取る」「遅れを取る」かどちらを使うべきか迷ったことはないでしょうか。辞書によっては「後れを取る」と「遅れを取る」の両方が掲載されている場合もあります。しかし「遅れを取る」はまず使うことはありません。結論から言えば「後れを取る」を使うほうが正しいのです。「後れ」は空間的、精神的な「おくれ」の場合に使い、「遅れ」は時間的な「おくれ」に使います。

「後れを取る」の語源は?

次に「後れを取る」の語源を確認しておきましょう。「遅れを取る」と書いても意味は通じます。しかし厳密には「後れ」と「遅れ」では明確に意味が違うことを覚えておいてください。先に説明したとおり「後れ」は空間的、精神的な意味で使いますから、自分だけ人より取り残される場合に使う言葉です。例えば「流行に後れる」とか「時代の潮流に後れる」のような使い方をします。自信がなくて気持ちがひるんだりする場合には「気後れする」と表記しますから、やはり精神的なものが多分に影響する場合に使うことが多い言葉と言えるでしょう。

そのほか自分だけ人に取り残されたときにもやはり「後れる」を使います。例えば知人が亡くなったりして、自分は生きている場合「逝き後れる」などと使うことができるでしょう。知人に先立たれて寂しい心情がよく表れています。

これに対して「遅れ」「遅刻」「遅参」など、時間におくれる場合に使う表記です。空間的、精神的な「おくれ」か時間的な「おくれ」かを意識すると正しい漢字を使うことができて間違うことはありません。

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