
端的に言えば暇を出すの意味は「休暇を与える」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「暇を出す」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅
自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。
「暇を出す」の意味は?
「暇を出す」には、次のような意味があります。
1.休暇を与える。暇をやる。
2.使用人などをやめさせる。また、妻を離縁する。暇をやる。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「暇を出す」
「暇」という漢字の読み方は「ひま」と「いとま」がありますが、「暇を出す」の場合は「ひま」と読みます。昔は丁稚奉公(でっちぼうこう)といって職人や商人の家で奉公する少年たちがいました。これら幼少の人を指す言葉が丁稚です。これら丁稚奉公をする少年たちに休みを与えるときによく「暇を出す」と言いました。現代ではまず「暇を出す」とは言わず、自分の意思で上司に休暇届を出すのが普通です。また仕事ができなかったり経営上の事情から従業員を辞めさせるときには、会社や雇い主からストレートにクビ、解雇などと通告されるでしょう。
このほか長年連れ添った夫婦が離婚するときも「暇を出す」と言います。もっとも江戸時代には「暇を出す」よりも「三行半(みくだりはん)を突きつける」というのが一般的でした。三行半とは庶民が離縁する際に主に夫が妻に出すもので、三行と半分の短い文章で書かれていたことから名づけられたものです。内容は離縁する旨と、以後妻の再婚の自由を認めることが書かれており、離縁状、去状(さりじょう)、暇状(いとまじょう)とも呼ばれました。ここでは「暇」を「いとま」と呼んでいます。
江戸時代には離婚届などというものはありませんでしたから、その代わりになったのが三行半です。これがないまま再婚すると重婚罪に問われました。
「暇を出す」の語源は?
次に「暇を出す」の語源を確認しておきましょう。とはいうものの語源らしい語源はありませんから、芥川龍之介の有名な小説『羅生門』からその一節を抜き出してみました。
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。
出典:『羅生門』芥川龍之介
『羅生門』に書かれている下人とは、主人に雇われている身分の低い人間のことです。舞台は平安時代の京都ですが、私たちが抱くイメージとは違い、当時の京都は飢饉や天災、疫病によって荒れ果てた状態でした。こうした事情から下人は主人から「暇を出された」のです。
「ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である」との記述があるので、実際は帰るところがないことがわかります。飢饉や天災、疫病の関係で仕事もなく、暇を出されたのですから、現在は解雇された状態であることがわかるでしょう。
「暇を出す」の使い方・例文
「暇を出す」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、例えば以下のように用いられます。
1.彼はいくら叱責しても仕事のミスが多く、トラブルが発生するから暇を出すことにしよう。
2.君は最近勘違いが多くて心配だ。疲れているようだから暇を出すのでゆっくり休養したまえ。
3.彼女とは恋愛結婚だが、性格の違いから生活に齟齬を生じるようになったので暇を出すことにした。
例文からもわかるように「暇を出す」という表現は、時と場合によっていろいろな意味があります。例文1は解雇する場合、例文2は休暇を与える場合、例文3は離婚の場合です。このように「暇を出す」の一文にはいろいろな要素が絡み合って、相手との会話でも前後の文脈から内容を読み解くことが必要になります。
その1「解雇する」
「暇を出す」の類義語として「解雇する」が挙げられます。世の中なかなか景気がよくなりませんから、人員整理を含めた「リストラ」も「暇を出す」の類義語としてもいいでしょう。どちらにしても解雇されることは、本人はもちろん家族にとっても大問題です。次の仕事を探すために毎日のようにハローワークへ通う人も多くいると思います。
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