この記事では「黒い霧」について解説する。

端的に言えば黒い霧の意味は「疑惑の事件」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「黒い霧」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅

自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。

「黒い霧」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「黒い霧」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「黒い霧」の意味は?

「黒い霧」には、次のような意味があります。

事件の底流に何か犯罪がからんでいる事を感じさせるものが有るたとえ。

出典:新明解国語辞典第七版(三省堂)「黒い霧」

特に1960年代には政財界やスポーツ界などに不正や疑惑が横行し「黒い霧」事件と呼ばれる事案が増加しました。今日ではあまりこのような用語は使われませんが、それでも相変わらず汚職や疑惑に関連した事案が各界で取り沙汰されています。

1966年後半には自民党を中心に不祥事が相次ぎ、永田町は「黒い霧」に覆われていると批判されました。これを受けて同年11月、首相の座にあった佐藤栄作は自民党綱紀粛正調査会で黒い霧疑惑の調査結果をまとめます。そのうえで衆議院を解散しました。これは俗に「黒い霧解散」と呼ばれました。

「黒い霧事件」の詳細とは?

一連の事件は田中彰治事件、公私混同お国入り問題、深谷駅急行停車問題、共和精糖事件、公私混合官費旅行、東京大証社長仲人問題を指し、いずれも自民党議員が関係した不祥事です。

またこれに前後して「黒い霧事件」は野球界にも飛び火しました。1969年に西鉄ライオンズ(現在の埼玉西武ライオンズ)の投手が八百長試合をしていたことがわかり、同投手の解雇を決定します。さらには読売巨人軍のコーチが暴力団と癒着していたことが判明、マスコミから非難されました。これらの問題は国会でも問題視され、警察庁や国家公安委員長をも巻きこむ騒ぎになりました。スポーツが好きな超党派議員を会員に構成されたスポーツ振興国会議員懇談会は「プロ野球健全化公聴会」を開いて背後関係を調査し、プロ野球浄化キャンペーンが繰り広げられます。

これらの事件を捜査するうちにプロ野球選手とオートレース関係者が八百長で逮捕されるなど疑惑は泥沼化していきました。これらの不祥事で8球団、19人の選手が永久追放などの処分を受けています。

\次のページで「「黒い霧」の語源は?」を解説!/

「黒い霧」の語源は?

次に「黒い霧」の語源を確認しておきましょう。この言葉は推理作家・松本清張のノンフィクション『日本の黒い霧』が由来になっています。昭和20(1945)年8月のポツダム宣言受諾から、日本が独立を回復するまでの6年8か月の間に起きた一連の怪事件を指した言葉で「黒い霧」という言葉が流行語になるほどの社会現象になりました。

同書に収録されている事件は、当時の国鉄(現在のJR)総裁・下山定則轢死事件、昭和電工・造船汚職、帝銀事件などです。これらはすべてGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)支配下の日本で起こった事件で、当時「黒い霧」と言えば、一連の事件に潜むアメリカの陰謀を比喩した言葉でした。それが徐々に不祥事や汚職事件を表す言葉に変化していったのです。

「黒い霧」の使い方・例文

「黒い霧」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、例えば以下のように用いられます。

1.松本清張の著書『日本の黒い霧』は文藝春秋社で発表され、以後同社の「文春ジャーナリズム」の先駆けとなった。
2.「黒い霧」というキーワードは、あらゆる不祥事に使うことが可能な便利な言葉だ。
3.黒い霧事件はまだ一部しか解明されておらず、今後もいろいろな疑惑・不祥事が続けば、再び「黒い霧」というフレーズがマスメディアの見出し語として紙面を飾る回数が増えていくかもしれない。

松本清張の『日本の黒い霧』にはGHQ占領下での日本国内における怪事件が満載です。タイトルを変更したものを含め「下山総裁謀殺論」「運命の『もく星号』」「謀略疑獄ーその氷山の一角」「北の疑惑ー白鳥事件」「画家と毒薬と硝煙ー再説帝銀事件」その他の項目が並んでおり、その概要を知るだけでも昭和史の一部を知るヒントとなるでしょう。

「黒い霧」の類義語は?違いは?

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ここでは「黒い霧」の類義語を見ていきましょう。一般的に不祥事や不正を表す言葉ですからたくさんあります。ここではその一部を紹介しましょう。

\次のページで「その1「疑惑」」を解説!/

その1「疑惑」

「疑惑」とは、隠されている不正や悪事がありそうだと疑うことです。会社経営者の不正帳簿疑惑、北朝鮮の核ミサイル開発疑惑などがこれに含まれます。そういえば『日本の黒い霧』を書いた松本清張にも『疑惑』という著書がありましたね。

その2「贈収賄」

「贈収賄」は主に政治家に金品を送って、その見返りになんらかの便宜を図ってもらおうと画策することです。例えば建設工事実施の計画がある場合、料理店などに政治家を招待し賄賂を手渡すことなどがそれに当たります。

かつて「国会の爆弾男」の異名を持つ社民連(当時)の楢崎弥之助氏が、リクルートコスモス社の未公開株譲渡問題を追及していた時期に、同社は楢崎氏に口封じのために賄賂を贈ろうとしました。その社員とのやり取りを録画し音声データとともに全国放送されたことがあり、それが契機となって自民党一党支配が崩れていったのです。

その3「疑獄」

「疑獄」とは、政治問題にまで発展した大がかりな贈収賄事件や、犯罪の事実がはっきりしないため有罪か無罪か判決を出しにくい裁判事件のことを言います。大概前者のことを指す場合が多いようです。

第二次世界大戦後の造船疑獄では政財界で多数の逮捕者を出し、当時自由党幹事長だった佐藤栄作氏も逮捕者のリストに載っていましたが、法務大臣が指揮権を発動し逮捕を免れました。

このほか有名な疑獄事件としては、元首相の田中角栄氏が逮捕されたロッキード疑獄、昭和電工を舞台にした昭電疑獄などがあります。

「黒い霧」の対義語は?

「黒い霧」の対義語は普通「白い霧」となるのでしょうが、ここで解説している「黒い霧」とは贈収賄などの不正行為を比喩する言葉です。そう考えると次に紹介する言葉が対義語と言えるでしょう。

その1「清廉潔白」

「清廉潔白」とは、心が清らかでやましいことが一切ないことです。「清廉」は清く正しいことで、「潔白」は心や行動にやましさや汚れがないことを意味します。国民を疑心暗鬼に陥らせ政治への不信感を抱かせた「黒い霧」とはまったく逆の言葉だと言えるでしょう。

その2「青天白日」

「青天白日」も「清廉潔白」と同じような意味で、心に一点の曇りもないことです。転じて無実が証明されて晴れ晴れした心の内を表した言葉となりました。今の政治家に「清廉潔白」や「青天白日」を求めるのは無理な相談でしょうか。

\次のページで「「黒い霧」の英訳は?」を解説!/

「黒い霧」の英訳は?

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最後に「黒い霧」の英訳を見ていきましょう。

「black mist」

「black mist」を直訳すると「黒い靄(もや)」となります。今回解説しているような事件としての「黒い霧」はこちらの英単語のほうがニュアンスとしては正しいでしょう。ただし松本清張の著書『日本の黒い霧』は単純に「black fog」と訳されて海外で発行されている場合もあります。

「黒い霧」を使いこなそう

この記事では「黒い霧」の意味・使い方・類語などを説明しました。最近でもテレビでは汚職事件が画面を賑わせていますが、「黒い霧」という言い方はめっきり少なくなりました。汚職と言うより黒い霧と言ったほうがより一層背後にうごめく黒幕が想像されて、事件がまがまがしく感じられます。皆さんも「黒い霧」の意味を理解して、語彙力を高めるようにしてはいかがでしょうか。

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国語言葉の意味

「黒い霧」の意味や使い方は?例文や類語を元広報紙編集者がわかりやすく解説!

この記事では「黒い霧」について解説する。

端的に言えば黒い霧の意味は「疑惑の事件」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「黒い霧」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅

自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。

「黒い霧」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「黒い霧」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「黒い霧」の意味は?

「黒い霧」には、次のような意味があります。

事件の底流に何か犯罪がからんでいる事を感じさせるものが有るたとえ。

出典:新明解国語辞典第七版(三省堂)「黒い霧」

特に1960年代には政財界やスポーツ界などに不正や疑惑が横行し「黒い霧」事件と呼ばれる事案が増加しました。今日ではあまりこのような用語は使われませんが、それでも相変わらず汚職や疑惑に関連した事案が各界で取り沙汰されています。

1966年後半には自民党を中心に不祥事が相次ぎ、永田町は「黒い霧」に覆われていると批判されました。これを受けて同年11月、首相の座にあった佐藤栄作は自民党綱紀粛正調査会で黒い霧疑惑の調査結果をまとめます。そのうえで衆議院を解散しました。これは俗に「黒い霧解散」と呼ばれました。

「黒い霧事件」の詳細とは?

一連の事件は田中彰治事件、公私混同お国入り問題、深谷駅急行停車問題、共和精糖事件、公私混合官費旅行、東京大証社長仲人問題を指し、いずれも自民党議員が関係した不祥事です。

またこれに前後して「黒い霧事件」は野球界にも飛び火しました。1969年に西鉄ライオンズ(現在の埼玉西武ライオンズ)の投手が八百長試合をしていたことがわかり、同投手の解雇を決定します。さらには読売巨人軍のコーチが暴力団と癒着していたことが判明、マスコミから非難されました。これらの問題は国会でも問題視され、警察庁や国家公安委員長をも巻きこむ騒ぎになりました。スポーツが好きな超党派議員を会員に構成されたスポーツ振興国会議員懇談会は「プロ野球健全化公聴会」を開いて背後関係を調査し、プロ野球浄化キャンペーンが繰り広げられます。

これらの事件を捜査するうちにプロ野球選手とオートレース関係者が八百長で逮捕されるなど疑惑は泥沼化していきました。これらの不祥事で8球団、19人の選手が永久追放などの処分を受けています。

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