「外堀を埋める」って言葉を聞いたことがあるか?恋の駆け引きでも使われることがあるし、商談の準備などで使われることもある。恐らく聞いたことがある人の方が多いでしょうが、正確な使い方は理解できているかな。

この「外堀を埋める」は、簡潔に言えば「ある目的の達成のために、周辺の障害を取り除く」という意味です。

今回はその「外堀を埋める」の意味や使い方・類義語などについて、大学院卒の日本語教師・むかいひろきに解説してもらうぞ。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「外堀を埋める」の意味や語源は?

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「外堀を埋める」という言葉、聞いたことはあるけど正確な意味は…という人は多いのではないでしょうか。そこで、まずは「外堀を埋める」の意味や語源を確認していきましょう。なぜ「外堀」なのかについても掘り下げていきます。

「外堀を埋める」の意味は「目的のために、その周辺の障害を排除」

まず、「外堀を埋める」の辞書での記述を確認していきましょう。辞書では「外堀を埋める」は次のような意味が掲載されています。

ある目的を達成するためには、まず周辺の障害から取り除いていく。

出典:明鏡ことわざ成句使い方辞典(大修館書店)「そとぼりをうめる【外堀を埋める】」

「外堀を埋める」は、「ある目的の達成のために、その周辺の障害から取り除いていく」という意味の慣用表現です。

例えば、あなたがある異性に恋心を寄せていたとします。しかし相手はあなたにあまり興味がありません。そこで、あなたはまず相手の異性の友人達と、次にその相手の異性の兄弟と仲良くなることにしました。そうすることで、相手の関心を徐々にあなたに向けていく作戦…です。

このように、本来の目的に対し、直接無理矢理にその目的を実現しようとするのではなく、周辺の課題をまずはクリアし、本来の目的に向かっていこう…とすることを「外堀を埋める」と言います。

「外堀を埋める」の語源は武士の戦い?

「外堀を埋める」の「外堀」は、日本の城を囲んでいる堀のこと(特にその中でも城の外側のもの)です。大阪城や皇居(江戸城)のように中に水が入り川のようになっているものもあれば、深く掘られているだけで中は空っぽの場合もありますね。

この「外堀」があることで、敵は城に攻め込みにくくなります。堀があるためにいちいち坂を上ったり下りたり、水の上を渡ったりする必要が出てくるからです。しかし、この「外堀」が埋められるとどうでしょうか。平らなので敵は簡単に城に大軍で攻め込めるようになります。

実際に大坂の陣での徳川家康は、冬の陣で難攻不落の大坂城に苦戦しました。そこで、冬の陣の講和後に大坂城の「外堀」を埋めてしまいます。「外堀」が埋められたことで大坂城の防御力は一気に下がり、夏の陣では徳川家康が大坂城を落城させ勝利しました。

語源が上記の大坂の陣であるかは定かではありませんが、「城を落城させるには、まずは外堀を埋める」という作戦が語源となっていることは間違いありません。

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「外堀を埋める」の使い方を例文とともに解説!

では、「外堀を埋める」の使い方を例文とともに確認していきましょう。意外に幅広く用いることができる表現です。

1.田中容疑者はなかなか容疑を認めようとしない。共犯者を逮捕したり、新たな証拠を提示したりして外堀を埋めていく必要がありそうだ。
2.A国によるB国への侵攻を止めさせるため、世界各国はA国との貿易や金銭取引を禁じるなど、外堀を埋める作戦に出ている。
3.C社から何とかして少しでもシェアを奪いたいD社は、C社の優秀な従業員を好待遇で引き抜くという外堀を埋める作戦に出た。

例文1では、罪状を認めようとしない田中容疑者に対し、共犯者を逮捕したり、新たな証拠を提示したりすることで罪の自白をせざるを得ない状況に追い込もうとしています。決して無理矢理自白させようとしているわけではありませんよね。

例文2では、A国に対しての貿易や金銭取引を停止することでA国の戦争資金源を断ち、戦争を継続できない状態に追い込もうとしています。もしB国以外の国がA国に対して反撃した場合、多くの国を巻き込んだ大戦争に発展してしまう恐れがあることも一因ですね。

例文3では、C社から市場のシェアを奪うために、C社の優秀な従業員を引き抜くことでC社にダメージを与え、結果的にC社の業績を悪化させようとしています。ライバル会社の優秀な社員が自社に移籍したら、ライバルにとっては大損ですが、こちらにとってはチャンスですよね。

「外堀を埋める」の類義語は?

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続いて、「外堀を埋める」の類義語を見ていきましょう。「外堀を埋める」の類義語は「将を射んと欲すればまず馬を射よ」と「布石を打つ」です。意味や「外堀を埋める」との違いを確認していきましょう。

「将を射んと欲すればまず馬を射よ」まずは周辺の問題から片づけよ

「将を射んと欲すればまず馬を射よ(しょうをいんとほっすればまずうまをいよ)」は、「大きな目標の実現のためには、対象に直接あたるより、その周辺の問題から片づけていく方が良い」という意味のことわざです。敵の大将を狙って攻撃する場合、大将を最初から直接狙うよりも、まずは大将の乗っている馬を矢で射て、馬が矢の痛みで制御ができなくなったところで大将を狙えば、より安全に確実に大将を討ち取ることができます。国内での戦乱がなくなった現在では、戦場での本来の意味ではなく、派生した意味で使用されているのです。

この表現は、場合によっては人を馬に例えてしまうことにもなります。使用の際には気をつけましょう。

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「布石を打つ」未来のために前もって何かを行う

「布石を打つ」は、「未来のために前もって何かを行う」という意味の慣用句です。元々は囲碁の用語で、「対局の序盤に、作戦を立てながら要所に石を置くこと」を意味します。ある目的実行のために、前もって何か行動を行う際にも、この「布石を打つ」は使用できますね。たとえば刑事ドラマで、指揮官役の刑事が、犯人が逃げ込みそうな場所に既に警察官を配置させているような場合に、「既に布石は打ってある」というセリフが出てくることがあります。

なお、囲碁の世界では、現在でも本来の意味で「布石を打つ」が使用され続けていますよ。

「外堀を埋める」の英語表現は?

「外堀を埋める」と同じ意味を表す英語の慣用句やことわざは残念ながらありません。そこで、通常の表現で「外堀を埋める」と同じような意味を表すとどうなるかを見ていきましょう。

「get rid of obstacles」

get rid of obstacles」は、直訳すると「障害を取り除く」となります。目標に向けてその周辺の障害を排除する「外堀を埋める」とは重なる部分がありますね。「外堀を埋める」を英訳する際によく使用される表現だそうです。

例文を見てみましょう。

1.We want to get rid of obstacles before the project of a lifetime. 一世一代のプロジェクトの前に、外堀を埋めておきたい。
2.I meet and talk with my girlfriend's parents frequently to get rid of any obstacles to our marriage. 結婚に向け外堀を埋めるため、彼女の両親とは頻繁に会って話をしている。

武士の戦いが由来のその他の日本語

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ここまで解説した「外堀を埋める」ですが、実は他にも多くの武士の戦いが由来となった日本語の表現があります。その一部をご紹介しましょう。今回ご紹介するのは「先陣を切る」と「抜け駆け」です。

\次のページで「「先陣を切る」」を解説!/

「先陣を切る」

「先陣を切る(せんじんをきる)」は、元々は「敵陣へ最初に攻め込むこと」という意味でした。また、船上では「先陣」は本陣の前方に配置された部隊で、敵が攻めてきたときには一番最初に戦闘を行うことになりますね。

現在では「物事を最初に行うこと」という意味で使用されています。

「抜け駆け」

「抜け駆け(ぬけがけ)」は、元々は「戦功をあげようとしてこっそり陣を抜け出し、他の味方より先に敵陣に攻め込むこと」という意味でした。現在ではそこから派生し、「人を出し抜いて自分だけ先に物事を行うこと」という意味で使用されています。

昔も今も、「抜け駆け」は基本的にはマイナスのニュアンスで使う言葉です。

まずはせっせと周囲の障害を排除して…「外堀を埋める」

今回は「外堀を埋める」についてご紹介しました。

「外堀を埋める」は「ある目的の達成のために、その周辺の障害から取り除いていく」という意味の慣用表現です。本来の目的に対し、直接無理矢理にその目的を実現しようとするのではなく、周辺の課題をまずはクリアし、本来の目的に向かっていこう…とすることを「外堀を埋める」と言います。

ちなみにこの「外堀を埋める」作戦を遂行し大坂城を陥落させたのが徳川家康です。みなさんは「外堀を埋める」やり方は好みですか?

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国語言葉の意味

武士の戦いが由来?「外堀を埋める」の意味や使い方・類義語を院卒日本語教師がわかりやすく解説

「外堀を埋める」って言葉を聞いたことがあるか?恋の駆け引きでも使われることがあるし、商談の準備などで使われることもある。恐らく聞いたことがある人の方が多いでしょうが、正確な使い方は理解できているかな。

この「外堀を埋める」は、簡潔に言えば「ある目的の達成のために、周辺の障害を取り除く」という意味です。

今回はその「外堀を埋める」の意味や使い方・類義語などについて、大学院卒の日本語教師・むかいひろきに解説してもらうぞ。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「外堀を埋める」の意味や語源は?

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「外堀を埋める」という言葉、聞いたことはあるけど正確な意味は…という人は多いのではないでしょうか。そこで、まずは「外堀を埋める」の意味や語源を確認していきましょう。なぜ「外堀」なのかについても掘り下げていきます。

「外堀を埋める」の意味は「目的のために、その周辺の障害を排除」

まず、「外堀を埋める」の辞書での記述を確認していきましょう。辞書では「外堀を埋める」は次のような意味が掲載されています。

ある目的を達成するためには、まず周辺の障害から取り除いていく。

出典:明鏡ことわざ成句使い方辞典(大修館書店)「そとぼりをうめる【外堀を埋める】」

「外堀を埋める」は、「ある目的の達成のために、その周辺の障害から取り除いていく」という意味の慣用表現です。

例えば、あなたがある異性に恋心を寄せていたとします。しかし相手はあなたにあまり興味がありません。そこで、あなたはまず相手の異性の友人達と、次にその相手の異性の兄弟と仲良くなることにしました。そうすることで、相手の関心を徐々にあなたに向けていく作戦…です。

このように、本来の目的に対し、直接無理矢理にその目的を実現しようとするのではなく、周辺の課題をまずはクリアし、本来の目的に向かっていこう…とすることを「外堀を埋める」と言います。

「外堀を埋める」の語源は武士の戦い?

「外堀を埋める」の「外堀」は、日本の城を囲んでいる堀のこと(特にその中でも城の外側のもの)です。大阪城や皇居(江戸城)のように中に水が入り川のようになっているものもあれば、深く掘られているだけで中は空っぽの場合もありますね。

この「外堀」があることで、敵は城に攻め込みにくくなります。堀があるためにいちいち坂を上ったり下りたり、水の上を渡ったりする必要が出てくるからです。しかし、この「外堀」が埋められるとどうでしょうか。平らなので敵は簡単に城に大軍で攻め込めるようになります。

実際に大坂の陣での徳川家康は、冬の陣で難攻不落の大坂城に苦戦しました。そこで、冬の陣の講和後に大坂城の「外堀」を埋めてしまいます。「外堀」が埋められたことで大坂城の防御力は一気に下がり、夏の陣では徳川家康が大坂城を落城させ勝利しました。

語源が上記の大坂の陣であるかは定かではありませんが、「城を落城させるには、まずは外堀を埋める」という作戦が語源となっていることは間違いありません。

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