端的に言えば悪貨は良貨を駆逐するの意味は「悪がはびこり善が滅びる」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「悪貨は良貨を駆逐する」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/八嶋弘毅
自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。
「悪貨は良貨を駆逐する」の意味は?
「悪貨は良貨を駆逐する」には、次のような意味があります。
1.名目上の価値が等しく実質上の価値が異なる二種類の貨幣が同時に流通すると、良貨は蓄積されて、ついには悪貨だけが流通するようになる。
2.イギリスのグレシャムが唱えた法則で、とかくこの世は悪人がのさばる意に転用する。
出典:明鏡国語辞典第三版(大修館書店)「悪貨は良貨を駆逐する」
「悪貨は良貨を駆逐する」とはもともと経済学を由来とすることわざです。例えば金と銀が含まれる量が違うのに同じ額面のお金が流通した場合のことを考えてみましょう。どちらも額面が同じだとしたら、人々は金を多く含むお金を大事に手元に残し、銀の量が多いお金を使うようになることは当然です。実質的価値は金が多く含まれるほうが高いのですから、人間の心理としてあたりまえでしょう。
万一戦争などが起きて貨幣経済が機能しなくなると物々交換の必要が生じます。そういった事態に備えて人々は、実質的価値の高い貨幣を手放さず、価値の低い貨幣を優先的に使おうとするでしょう。この場合、金が多く含まれるお金を良貨といい、銀の量が多いお金を悪貨と言います。こうして悪貨が市場に多く出回ることを「悪貨は良貨を駆逐する」と言うのです。
「悪貨は良貨を駆逐する」の語源は?
次に「悪貨は良貨を駆逐する」の語源を確認しておきましょう。先に述べたように、悪貨とは金の含有量が少ないお金で、良貨は逆に金の含有量が多いお金のことです。金本位制の下で貨幣の額面価値と実質的価値に差がある場合、実質的価値の高い貨幣は手元にしまわれてしまい、代わりに実質的価値の低い貨幣が流通する法則のことを言います。これは16世紀のイギリス国王の財政顧問をしていたトーマス・グレシャムが「イギリスの良貨が外国に流出する原因は貨幣改悪のため」と当時のエリザベス1世に述べた言葉が由来となったものです。これを同じく19世紀の英国経済学者ヘンリー・マクロードが1858年に著した『政治経済学の諸要素』で紹介し、「グレシャムの法則」と名づけて以来、そう呼ばれるようになりました。
しかし時代が下って1971年に米ドルが金兌換を禁止してからは先進国のほとんどの国が管理通貨制度を実施したため、本来での意味での「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉は形骸化したのです。その代わりに現代では「悪人が善人を押しのけて世の中にはびこる」という意味で使われるようになりました。
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