この記事では「三十六計逃げるに如かず」について解説する。

端的に言えば三十六計逃げるに如かずの意味は「逃げるが勝ち」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「三十六計逃げるに如かず」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅

自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。

「三十六計逃げるに如かず」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

それでは早速「三十六計逃げるに如かず」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「三十六計逃げるに如かず」の意味は?

「三十六計逃げるに如かず」には、次のような意味があります。

形勢が不利になったときは、あれこれと策を用いるよりも逃げてしまうのが最良の方法であるということ。

出典:明鏡国語辞典第三版(大修館書店)「三十六計逃げるに如かず」

戦いには、国同士の戦争から会社や学校での成績争いなどあらゆる種類があります。「三十六計逃げるに如かず」とは、このような戦いの場でどのような戦略をもってしても勝ち目がないと思ったら、まずは逃げるのが最上の策だということを教えることわざです。

もっとも逃げることばかり考えていては、勝てる戦いも勝てなくなってしまいます。一度逃げて、改めて攻略方法を考え、万全な態勢を整えて再度勝負に出ることは大切なことです。逃げることは卑怯だと考えて遮二無二抵抗することは上策とは言えません。周囲の眼を考えると、逃げることには勇気がいります。それでも最終的な勝利を収めるためには必要なことなのです。

「三十六計逃げるに如かず」の語源は?

次に「三十六計逃げるに如かず」の語源を確認しておきましょう。「三十六計逃げるに如かず」とは中国魏晋南北朝時代の兵法書『兵法三十六計』からきています。著者は南朝宋の将軍・檀道済(たんどうせい)で、戦術を六系統・三十六種類に分類したものです。

同書では兵法を「勝戦計」(こちらが戦いの主導権を握っている場合の定石)、「敵戦計」(余裕を持って戦える優勢の場合の作戦)、「攻戦計」(相手が一筋縄ではいかない場合の作戦)、「混戦計」(相手がかなり手強い場合の作戦)、「併戦計」(同盟国間で優位に立つために用いる策略)、「敗戦計」(自分の国が極めて劣勢の場合に用いる奇策)に分けました。

「三十六計逃げるに如かず」とはこのうちの「敗戦計」の策のうちの一つ「走為上」からきています。つまり勝ち目がないとわかったら、戦わないで全力で逃げて損害を避ける策です。「走為上」という中国語は、「走(に)ぐるを上(じょう)と為す」と読み下します。また『南斉書』のうち「王敬則伝」にも「檀公三十六策、走是上計」と檀道済の『兵法三十六計』を引用しており、これらが「三十六計逃げるに如かず」の語源となりました。

\次のページで「「三十六計逃げるに如かず」の使い方・例文」を解説!/

「三十六計逃げるに如かず」の使い方・例文

「三十六計逃げるに如かず」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、例えば以下のように用いられます。

1.あいつらの口喧嘩にはしゃしゃり出ないほうがいい。三十六計逃げるに如かずだ。
2.三十六計逃げるに如かずと言うから、筋の通らない客の文句は聞いたふりして適当に相づち打ってればいいよ。
3.とても勝ち目がない。三十六計逃げるに如かずで一度退散して今後に備えよう。

「三十六計逃げるに如かず」はもともと戦場における策でしたが、今日では世渡りの一手段となっています。なにがなんでも突っ張っていくのは危険だから安全なところにいて後日に備えることが得策だと考えられるようになりました。そして最後に勝利を手にすることが重要なのです。もちろんすべての場面で逃げてばかりではチャンスをモノにすることはできません。どうしても必要なときは勝負を挑むことが必要です。

「三十六計逃げるに如かず」の類義語は?違いは?

image by iStockphoto

ここでは「三十六計逃げるに如かず」の類義語を見ていきましょう。

その1「逃げるが勝ち」

「逃げるが勝ち」という言葉は、どなたでも使った経験があるでしょう。無駄な戦いや争いからはできるだけ避けて、逃げるほうが結果的には勝利や利益を得られるということを表しています。どんな時にも戦いたいと思う気持ちは大切ですが、やはり争いを避けて最終的に勝つ方策を考えることも必要なことです。

\次のページで「その2「逃ぐるをば剛の者」」を解説!/

その2「逃ぐるをば剛の者」

「逃ぐるをば剛の者」は「三十六計逃げるに如かず」の類義語の一つです。無駄な犠牲を出すような戦いをするよりも、潔く負けを認めて相手に勝ちを譲れるほどの人間こそが本当に強い人間だということを意味しています。たくさん犠牲を出して勝つよりも、今は犠牲を出さずに負けておいたほうが後日の備えはしっかりしていますから最終的に勝利を得られる可能性が高いということなのでしょう。

その3「負けて勝つ」

「負けて勝つ」も「三十六計逃げるに如かず」の類義語と言えます。「負けて勝つ」は近松門左衛門作の歌舞伎・浄瑠璃作品『傾城酒呑童子(けいせいさけのみどうじ)』に出てくる言葉です。一時的には負けても最後には勝つことを意味しており、「逃ぐるをば剛の者」によく似たニュアンスを持っています。将棋には「金は引く手に好手あり」という格言がありますが、これは金は下がった方が勝機を得られる場合があるということです。「負けて勝つ」もやはり同じようなことを言っていると考えられます。

「三十六計逃げるに如かず」の対義語は?

次に「三十六計逃げるに如かず」の対義語を見ていきましょう。

その1「当たって砕けろ」

「当たって砕けろ」を「三十六計逃げるに如かず」の対義語とすることに疑問を感じる方もいるかもしれません。しかし「三十六計逃げるに如かず」が表す一度負けを認めて最終的に勝利するという意味を考えれば、成功するかどうかわからないが思い切ってやってみようとする「当たって砕けろ」は、対義語の一つとして挙げてもいいのではないでしょうか。思い切ってやってみて、それがうまくいけば大成功です。極めて厳しい状況をなんとか打ち砕くために決意を促す表現と言えます。

その2「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」は「三十六計逃げるに如かず」の対義語と言えるでしょう。「溺れる者は藁をも掴む」ということわざがあります。これは水に溺れるような危機に陥った場合、助かるわけもないのに藁のような頼りないものにまですがって、もがけばもがくほど、さらに深みにはまってしまうという意味です。逆に、じたばた逃げようとしないで流れに身を任せて捨て身の状態になってしまえば、そのうち足が立つほどの浅瀬に流れ着いて助かる可能性もあります。それが「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」の意味です。

「三十六計逃げるに如かず」の英訳は?

image by iStockphoto

最後に「三十六計逃げるに如かず」の英訳を見ていきましょう。

\次のページで「その1「the smartest thing in a tight situation is to beat a retreat」」を解説!/

その1「the smartest thing in a tight situation is to beat a retreat」

「the smartest thing in a tight situation is to beat a retreat」とは「厳しい状況にあるときに最も賢いのは逃げることだ」という意味の英語です。これは「三十六計逃げるに如かず」と同様の意味を持っています。古代中国の兵法書『兵法三十六計』は英語では『Thirty Six Stratagames』ですが「三十六計逃げるに如かず」を直訳して「Thirty Six Total Escape」ではまったく通じませんから気をつけてください。

その2「one pair of heels is worth two pair of hands」

「one pair of heels is worth two pair of hands」は逃げる方法として、手より足のほうが役に立つことを表現した英語です。これを訳すと「二組の手より一組の踵のほうが価値がある」となります。確かに逃げるときには、手が何本あったとしても足のほうが役に立ちますね。

その3「discretion is the better part of valor」

「discretion is the better part of valor」を訳すと「慎重であることは勇気の大部分を占める」になります。「discretion」は分別、思慮、慎重さを意味し、「valor」は勇気のことです。つまり猪突猛進するのではなくいったん退いてよく考えることの大切さを教えています。

「三十六計逃げるに如かず」を使いこなそう

この記事では「三十六計逃げるに如かず」の意味・使い方・類語などを説明しました。長い人生は、いつも勝負の繰り返しです。勝つことも負けることもあるでしょうが、最終的に勝利を収めることが大切でしょう。そのためにはいったんその場を退いて、改めて勝機を見つけることも欠かせません。「三十六計逃げるに如かず」ということわざは、そうした人生の知恵を授けてくれるものと言えるでしょう。

" /> 【ことわざ】「三十六計逃げるに如かず」の意味や使い方は?例文や類語を元広報紙編集者がわかりやすく解説! – Study-Z
国語言葉の意味

【ことわざ】「三十六計逃げるに如かず」の意味や使い方は?例文や類語を元広報紙編集者がわかりやすく解説!

この記事では「三十六計逃げるに如かず」について解説する。

端的に言えば三十六計逃げるに如かずの意味は「逃げるが勝ち」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「三十六計逃げるに如かず」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/八嶋弘毅

自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。

「三十六計逃げるに如かず」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

それでは早速「三十六計逃げるに如かず」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「三十六計逃げるに如かず」の意味は?

「三十六計逃げるに如かず」には、次のような意味があります。

形勢が不利になったときは、あれこれと策を用いるよりも逃げてしまうのが最良の方法であるということ。

出典:明鏡国語辞典第三版(大修館書店)「三十六計逃げるに如かず」

戦いには、国同士の戦争から会社や学校での成績争いなどあらゆる種類があります。「三十六計逃げるに如かず」とは、このような戦いの場でどのような戦略をもってしても勝ち目がないと思ったら、まずは逃げるのが最上の策だということを教えることわざです。

もっとも逃げることばかり考えていては、勝てる戦いも勝てなくなってしまいます。一度逃げて、改めて攻略方法を考え、万全な態勢を整えて再度勝負に出ることは大切なことです。逃げることは卑怯だと考えて遮二無二抵抗することは上策とは言えません。周囲の眼を考えると、逃げることには勇気がいります。それでも最終的な勝利を収めるためには必要なことなのです。

「三十六計逃げるに如かず」の語源は?

次に「三十六計逃げるに如かず」の語源を確認しておきましょう。「三十六計逃げるに如かず」とは中国魏晋南北朝時代の兵法書『兵法三十六計』からきています。著者は南朝宋の将軍・檀道済(たんどうせい)で、戦術を六系統・三十六種類に分類したものです。

同書では兵法を「勝戦計」(こちらが戦いの主導権を握っている場合の定石)、「敵戦計」(余裕を持って戦える優勢の場合の作戦)、「攻戦計」(相手が一筋縄ではいかない場合の作戦)、「混戦計」(相手がかなり手強い場合の作戦)、「併戦計」(同盟国間で優位に立つために用いる策略)、「敗戦計」(自分の国が極めて劣勢の場合に用いる奇策)に分けました。

「三十六計逃げるに如かず」とはこのうちの「敗戦計」の策のうちの一つ「走為上」からきています。つまり勝ち目がないとわかったら、戦わないで全力で逃げて損害を避ける策です。「走為上」という中国語は、「走(に)ぐるを上(じょう)と為す」と読み下します。また『南斉書』のうち「王敬則伝」にも「檀公三十六策、走是上計」と檀道済の『兵法三十六計』を引用しており、これらが「三十六計逃げるに如かず」の語源となりました。

\次のページで「「三十六計逃げるに如かず」の使い方・例文」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: