今日は授業でこんな話をしたんです。集団で物事を進めていくとき、自分と意見の合わない人達と対立してしまうことがあるでしょう。そういう時は相手の"搦め手"から攻めると良い…と俺は言ったんです。

ですがな、今はあまり「搦め手」という言い方はしないからか、あまり伝わらなかった…。この「搦め手」は簡単に言えば「相手の弱点」という意味なんだけどな。ということで、今回はその「搦め手」について、院卒日本語教師の"むかいひろき"に解説してもらうことにしたぞ。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「搦め手」の意味や語源は?

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「搦め手(からめて)」という言葉、歴史や時代劇好きの人以外は聞きなれない言葉かもしれません。ただ、意外と日常でも使われることがあるこの「搦め手」。覚えておいて損はないでしょう。まずはその「搦め手」の意味と語源を見ていきます。

「搦め手」の意味は「相手の弱点」

最初に、「搦め手」の意味を辞書を参考に確認していきましょう。国語辞典には「搦め手」には次のような意味が掲載されています。

1.城の裏門。敵陣などの後ろ側。また、そこから攻める軍勢。
「―から攻める」
2.相手が注意を向けていないところ。相手の弱点。
「―から説得する」

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「からめ-て【搦め手】」

「搦め手(からめて)」は「相手の注意が向いていないところ、弱点」という意味の慣用表現です。国語辞典に掲載されている2番目の意味が、現代語での意味となります。1番目の意味は元々の意味、つまり語源ですね。次のコーナーで詳しく解説しましょう。

「搦め手」の語源は日本の兵法やお城!

「搦め手」の語源は、古来からの日本の兵法やお城です。かつては、敵を正面から攻める軍勢を大手勢、若しくは大手軍、敵を側面や背後から攻める軍勢を搦手勢、若しくは搦手軍と言いました

例えば源平の合戦における多くの戦いで、正面から平家軍を攻めたのは大手勢の源範頼ですが、注意散漫になりがちな側面や背後から平家軍を攻め翻弄し、その名を天下にとどろかせたのが源義経です

時代が進み、お城が作られるようになると、正門は「大手門」、裏門は「搦め手」と言われるようになります自軍の側面や背後、城の裏門はどうしても守りが手薄になりがちです。これらのことから、「相手の注意が向いていないところ、弱点」という意味でも「搦め手」という言葉が使用されるようになりました。

\次のページで「「搦め手」の使い方を例文とともに確認!」を解説!/

「搦め手」の使い方を例文とともに確認!

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次に、「搦め手」の使い方を例文とともに確認していきましょう。「搦め手」は他者との議論や論争、その対応について話題になっている場面で使用されることが多い言葉です。

1.その批判ではB党はビクともしないよ。搦め手から批判しなきゃ。ほら見てみろよ。B党の議員で違法献金の疑いのある人物リストだ…。
2.A高校はウチの山田と村上を徹底的にマークしている。ただ、その分左サイドの西浦へのマークが薄い。ここがA高校の搦め手だ。西浦を起点に攻めるぞ。
3.議論で相手方と意見が揉めた時は、相手の搦め手を攻めるのが常識だ。

例文1は、議会でのB党に対する追及について、「相手の弱点から批判しなきゃ」という意味で「搦め手」を使用しています。ここでの「搦め手」が指しているのは、B党の違法献金の疑いのある議員リスト。これはB党にとっては大きな弱点ですよね。

例文2はサッカーの試合で作戦を話している場面です。A高校は山田と村上へのマークが厳しい分、左サイドの西浦へのマークが手薄になっています。つまり、この西浦側のサイドが弱点、「搦め手」というわけですね

例文3は、議論での常識について話している場面です。相手と揉めて意見がまとまらない時は、相手のよく考えられていない点や言われたくない点、つまり「搦め手」を攻めるのが良い、と言っています。

「搦め手」の類義語は?

続いて「搦め手」の類義語を確認していきましょう。「搦め手」の類義語は「ウイークポイント」「弱み」「痛いところ」です。意味を確認し、「搦め手」との比較を行っていきます。

「ウイークポイント」:弱点

「ウイークポイント」は「弱点」という意味の英語由来の表現です。(英語の「weak point」については、後のコーナーで説明します。)「搦め手」との違いは、「ウイークポイント」は自身の弱点についても言い表せる点です。「搦め手」は相手の弱点にしか使用しません

\次のページで「「弱み」:後ろめたい部分、弱点」を解説!/

「弱み」:後ろめたい部分、弱点

「弱み」は「後ろめたい部分」「弱点」という意味の単語です。何か悪いことや、他者に見られると恥ずかしいことをしてしまった場合、その悪いことや恥ずかしいことが「弱み」となります。「搦め手」よりも「後ろめたい」というニュアンスが強く出ますね。また、「弱み」も自身の弱点について言い表すことができます

「痛いところ」:欠点や弱点

「痛いところ」は「欠点や弱点など、指摘された人が心苦しく思うところ」という意味の表現です。「痛いところを衝く」「痛いところを衝かれる」といった形で使用することがほとんどですね。こちらも、自身の弱点や欠点を言い表すことができる点が、「搦め手」との違いです。

「搦め手」の英語表現は?

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最後に、「搦め手」の英語表現を確認していきましょう。「搦め手」の英語表現は「weak point」です。類義語でご紹介した「ウイークポイント」の元の言葉ですね。

「weak point」:弱点

「weak point」は「弱点」「欠点」「短所」という意味の英語表現です。「弱点」という意味で使用される場合、「搦め手」と同じ意味を示すといってよいでしょう。ただ、「weak point」は自身の弱点についても言い表せるという点が、「搦め手」との違いですね。例文を確認していきましょう。

1.Mr. Tanaka is actually bogged down in a divorce case with his wife. That is his weak point.
田中氏は実は夫人との離婚裁判が泥沼化している。そこが彼の搦め手だ。

2.When you want to win an argument with your opponent, the ironclad rule is to attack him from his weak points.
相手との議論に勝ちたいときは、相手の搦め手から攻めるのが鉄則だ。

\次のページで「どうしても勝ちたいときは搦め手を探そう…」を解説!/

どうしても勝ちたいときは搦め手を探そう…

今回は「搦め手」という表現を解説しました。「搦め手」は「相手の注意が向いていないところ、弱点」という意味の慣用表現です。元々は古来の日本の兵法において敵の側面や背後を攻める部隊や、日本の城の裏門のことを言いました。軍隊の側面や背後、城の裏門は守りが手薄になりがちですよね。そこから「相手の注意が向いていないところ、弱点」という意味が派生したのでしょう。

議論などでどうしても相手に勝ちたいとき、自分の意見を通したいときは、相手の搦め手を探り、そこを攻めるのが良いでしょう…。

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国語言葉の意味

「搦め手から攻める」ってどういうこと?「搦め手」の意味や類義語などを院卒日本語教師がわかりやすく解説

今日は授業でこんな話をしたんです。集団で物事を進めていくとき、自分と意見の合わない人達と対立してしまうことがあるでしょう。そういう時は相手の”搦め手”から攻めると良い…と俺は言ったんです。

ですがな、今はあまり「搦め手」という言い方はしないからか、あまり伝わらなかった…。この「搦め手」は簡単に言えば「相手の弱点」という意味なんだけどな。ということで、今回はその「搦め手」について、院卒日本語教師の”むかいひろき”に解説してもらうことにしたぞ。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修士課程修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「搦め手」の意味や語源は?

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「搦め手(からめて)」という言葉、歴史や時代劇好きの人以外は聞きなれない言葉かもしれません。ただ、意外と日常でも使われることがあるこの「搦め手」。覚えておいて損はないでしょう。まずはその「搦め手」の意味と語源を見ていきます。

「搦め手」の意味は「相手の弱点」

最初に、「搦め手」の意味を辞書を参考に確認していきましょう。国語辞典には「搦め手」には次のような意味が掲載されています。

1.城の裏門。敵陣などの後ろ側。また、そこから攻める軍勢。
「―から攻める」
2.相手が注意を向けていないところ。相手の弱点。
「―から説得する」

出典:明鏡国語辞典 第二版(大修館書店)「からめ-て【搦め手】」

「搦め手(からめて)」は「相手の注意が向いていないところ、弱点」という意味の慣用表現です。国語辞典に掲載されている2番目の意味が、現代語での意味となります。1番目の意味は元々の意味、つまり語源ですね。次のコーナーで詳しく解説しましょう。

「搦め手」の語源は日本の兵法やお城!

「搦め手」の語源は、古来からの日本の兵法やお城です。かつては、敵を正面から攻める軍勢を大手勢、若しくは大手軍、敵を側面や背後から攻める軍勢を搦手勢、若しくは搦手軍と言いました

例えば源平の合戦における多くの戦いで、正面から平家軍を攻めたのは大手勢の源範頼ですが、注意散漫になりがちな側面や背後から平家軍を攻め翻弄し、その名を天下にとどろかせたのが源義経です

時代が進み、お城が作られるようになると、正門は「大手門」、裏門は「搦め手」と言われるようになります自軍の側面や背後、城の裏門はどうしても守りが手薄になりがちです。これらのことから、「相手の注意が向いていないところ、弱点」という意味でも「搦め手」という言葉が使用されるようになりました。

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