今回は「胚乳」という用語に注目して学習していこう。

植物の種子にあるのが胚乳ですが、何のためにあるのか、すぐに答えられるでしょうか?胚乳の役割や胚乳の有無、胚乳がどうやってできるのかなど、胚乳に関連する知識をここで増やしていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

胚乳とは

胚乳(はいにゅう)は、植物の種子にみられる組織です。英語ではalbumenといいます。

胚乳の役割は、種子が発芽するまで胚に栄養分を与えることです。植物の種子は発芽し、光合成ができるようになるまではエネルギー源を得ることができません。そのため、はじめは胚乳に貯蔵された栄養を使って発生を進める必要があるのです。

有胚乳種子と無胚乳種子

さて、この胚乳なのですが、じつはすべての種子植物の種子で発達するわけではないんです。

はっきりと大きな胚乳部分が確認できる種子もあれば、胚乳がそれほど発達しなかったり、退化してしまう種子もあります。胚乳をもつ種子は有胚乳種子(ゆうはいにゅうしゅし)、胚乳をもたない種子は無胚乳種子(むはいにゅうしゅし)です。

有胚乳種子の例

それではまず、有胚乳種子の例としてよく挙げられるものを見てみましょう。

私たちが普段の食事で食べているお米。イネという名の植物ですが、お米はイネの種子の胚乳部分を食べているんです。白いお米(精米)の先端には、小さく欠けたような部分がありますよね。本来であればこの部分にイネの胚(胚芽)があるのですが、精米の際にはこの部分をとってしまいます。

イネと同じイネ科の植物には、種子の胚乳部分が大きく、デンプンなどの栄養もたくさん含まれているものがいくつもあるのです。そのため、私たちが食料として利用している種も少なくありません。

\次のページで「無胚乳種子の例」を解説!/

image by iStockphoto

例えば、パンやうどんの原材料となる小麦粉は、コムギという植物の胚乳部分を粉末にしたものです。また、トウモロコシもイネ科であり、食用部分のほとんどは胚乳に当たります。ほかにも、アワ(粟)やヒエ(稗)といった、いわゆる”雑穀”と呼ばれる植物も、名前があげられるといいですね。

イネ科植物以外に、もう1つ名前を挙げてほしいのがカキノキ科の植物です。秋の味覚としておなじみのは、正式にはカキノキという植物の果実になります。

カキノキの種子も大きな胚乳をもつことで有名なんです。理科の教科書には、カキノキの種子を半分に割ったようなイラストや写真が使われていることが良くあります。

image by iStockphoto

無胚乳種子の例

無胚乳種子の例としてわかりやすいのがマメ科の植物です。

豆といえば、ダイズ(大豆)やアズキ(小豆)などが身近ですが、それらの発芽の様子は見たことがあるでしょうか?マメ科の種子が発芽すると、非常に分厚くしっかりとした子葉をもっていることが確認できます。

image by iStockphoto

マメ科の植物は、胚乳が発達しない代わりに、胚の一部である子葉に栄養を蓄えているんです。一つ一つの”豆”というのも、その内部の大部分は胚が占めています。つまり、豆を食べているというのは、養分を蓄え肥厚した”子葉”を食べていることに近いのです。

ブナ科の植物をあげられると良いでしょう。ブナ科の植物の種子は、いわゆる”ドングリ”です。カキと同じく秋の味覚の一つである栗(クリ)も、ブナ科なんですよ。

そのほかにも、大部分のラン科やアブラナ科、キク科、ヒシ科…。

\次のページで「一次胚乳と二次胚乳」を解説!/

そうなんです。さまざまな植物が無胚乳種子に当てはまります。無胚乳種子の例を覚えるよりも、代表的な有胚乳種子の種類を覚えてしまう方が楽かもしれませんね。

一次胚乳と二次胚乳

胚乳は、形成されるまでの過程によって2種類に分けて考えられることがあります。一次胚乳二次胚乳です。

いえいえ、違いははっきりとしているので、そんなに難しいものではありません。

まず、ふつう高校で学習する胚乳は、被子植物の種子で発達するものですが、こちらが二次胚乳とよばれるものです。

被子植物の”めしべ”には子房に包まれた胚珠があり、その内部には胚のう(胚嚢)とよばれる雌性配偶体があります。めしべの柱頭に花粉が付く=受精すると、花粉管が胚のうに向かって伸長。2つの精細胞が移動します。

image by Study-Z編集部

胚のうにたどり着くと、精細胞の一つは卵細胞と、もう1つは中央細胞と合体(受精)し、中央細胞の方が胚乳になるのです。

中央細胞には核が二つあるため、精細胞が受精すると3倍体の核ができることになります。

一方で、一次胚乳とよばれるのは裸子植物の種子にできる胚乳です。こちらは、雌性配偶体が受精する前に、その一部が発達することで生じます。

雌性配偶体は減数分裂でつくられますから、一次胚乳の核相は、受精前の卵細胞と同じく1倍体なんです。

\次のページで「内胚乳と外胚乳」を解説!/

内胚乳と外胚乳

先にご紹介したような、被子植物や裸子植物に形成される胚乳は、内胚乳ともよばれます。”内”というのは”胚のうの内部”という意味です。

被子植物には、内胚乳とは異なり、胚のうの”外”に養分を貯蔵する組織ができることがあり、これを外胚乳とよびます。

そうなんです。そもそも胚乳というのが「種子の発生初期に必要な養分を貯蔵する組織」というくくりなので、細かく見るとその形成過程はいろいろなんですね。

外胚乳が発達するのは、スイレン科やコショウ科などの植物の種子です。

image by iStockphoto

感謝しながら”胚乳”をいただく

私たち人間は母親のおなかにいるとき、胎盤を通して養分をもらい、成長します。鳥や爬虫類などの場合は卵の中で発生が進みますが、その時の栄養源は卵黄に蓄えられた養分です。こうして考えると、親の体から離れた個体が成長するための栄養源をもっているというのは、自然なことなんですよね。

本文中にも述べた通り、我々は種子の胚乳部分を食料として利用することがよくあります。あらためて、感謝していただきたいものです。

" /> 植物の種子にある「胚乳」って何?胚乳のある植物・ない植物は?現役講師がわかりやすく解説します! – Study-Z
理科生態系生物細胞・生殖・遺伝

植物の種子にある「胚乳」って何?胚乳のある植物・ない植物は?現役講師がわかりやすく解説します!

今回は「胚乳」という用語に注目して学習していこう。

植物の種子にあるのが胚乳ですが、何のためにあるのか、すぐに答えられるでしょうか?胚乳の役割や胚乳の有無、胚乳がどうやってできるのかなど、胚乳に関連する知識をここで増やしていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

胚乳とは

胚乳(はいにゅう)は、植物の種子にみられる組織です。英語ではalbumenといいます。

胚乳の役割は、種子が発芽するまで胚に栄養分を与えることです。植物の種子は発芽し、光合成ができるようになるまではエネルギー源を得ることができません。そのため、はじめは胚乳に貯蔵された栄養を使って発生を進める必要があるのです。

有胚乳種子と無胚乳種子

さて、この胚乳なのですが、じつはすべての種子植物の種子で発達するわけではないんです。

はっきりと大きな胚乳部分が確認できる種子もあれば、胚乳がそれほど発達しなかったり、退化してしまう種子もあります。胚乳をもつ種子は有胚乳種子(ゆうはいにゅうしゅし)、胚乳をもたない種子は無胚乳種子(むはいにゅうしゅし)です。

有胚乳種子の例

それではまず、有胚乳種子の例としてよく挙げられるものを見てみましょう。

私たちが普段の食事で食べているお米。イネという名の植物ですが、お米はイネの種子の胚乳部分を食べているんです。白いお米(精米)の先端には、小さく欠けたような部分がありますよね。本来であればこの部分にイネの胚(胚芽)があるのですが、精米の際にはこの部分をとってしまいます。

イネと同じイネ科の植物には、種子の胚乳部分が大きく、デンプンなどの栄養もたくさん含まれているものがいくつもあるのです。そのため、私たちが食料として利用している種も少なくありません。

\次のページで「無胚乳種子の例」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: