このページでは「受動輸送」をテーマに勉強していきます。

われわれの体は細胞でできているが、細胞が生きていくためには栄養や老廃物、酸素や二酸化炭素などの物質のやりとりが必要になる。受動輸送はその方法の一つです。生物学の学習者にはもちろんのこと、栄養学や薬学、看護学を学ぶ際にも重要な内容です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

膜輸送とは?

今回学んでいく受動輸送(じゅどうゆそう)は、生物の細胞内外で物質をやり取りするしくみの一つです。

皆さんご存じの通り、細胞は細胞膜(生体膜)とよばれる膜によって形作られています。細胞内外での物質のやりとりは、膜を介した輸送であることから、全部ひっくるめて膜輸送とよばれるんです。「受動輸送は膜輸送の仕組みの一種である」などと書いてある本もあるでしょう。

その通りです。細胞内外での輸送の仕組みを知ることは、純粋な細胞学としてはもちろんのこと、薬や栄養素を細胞に届けるための方法にもつながります。医学、薬学、看護学、栄養学…いろいろな分野で、基礎的な内容として学習する項目の一つに含まれているんですよ。

受動輸送と能動輸送

膜輸送には、今回のテーマである受動輸送に加え、能動輸送(のうどうゆそう)というものもあります。受動輸送の詳細を学んでいく前に、まずは受動輸送と能動輸送の違いを把握しておきましょう。

受動輸送と能動輸送の大きな違いは、「輸送にエネルギーを必要とするか否か」、「濃度勾配(のうどこうばい)に逆らった輸送か否か」です。

受動輸送では、物質が濃度勾配に逆らわず移動します。つまり、濃度の高い(濃い)ほうから低い(薄い)方へ、物質が動いていくのです。

これは、とても自然な現象ですよね。ブラックコーヒーに真っ白なミルクを注げば、カフェオレになります。一度混ざってしまったコーヒーとミルクは、元に戻すことができません。コーヒーだけ、ミルクだけが一か所に集まることはないはずです。

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液体でも気体でも、濃度の高いところから低いところへ物質が移動し、徐々に均一になっていきます。一般的な物理現象の一つです。このような現象は「拡散」とよばれます。

細胞でもこの拡散によっていろいろな物質が輸送されているのです。受動輸送では、基本的にエネルギーを必要としません。拡散は、移動する物質自身のもつ熱運動によって行われます。

反対に、能動輸送では物質を濃度勾配に逆らって移動させます。ある物質の濃度の高いところと低いところがあったとき、低いところからさらに高いところへ物質を送っていく輸送です。これは、受動輸送と違い、自然に起きる物理現象ではありません。

細胞内外で能動輸送を行うためには、エネルギーが必要です。例えば、細胞膜に存在する「ポンプ」とよばれる機構を、エネルギーを使って動かすことで、物質を移動させます。

image by Study-Z編集部

細胞では、受動輸送と能動輸送を上手に使い分けて物質の輸送を行っているのです。この、両者の違いは高校の生物学でも抑えておきたいポイントですね。

では、今回のテーマである受動輸送について、もう少し詳しく学んでいくことにしましょう。

受動輸送の種類

\次のページで「1.単純拡散」を解説!/

1.単純拡散

単純拡散は、細胞膜を介して物質が自然に拡散することを言います。この方法で輸送される物質は、脂溶性の分子や、酸素や二酸化炭素などの極性のない小さな分子です。

Scheme simple diffusion in cell membrane-en.svg
LadyofHats Mariana Ruiz Villarreal - Own work. Image renamed from Image:Simple_difussion_in_cell_membrane.svg, パブリック・ドメイン, リンクによる

脂溶性とは、「油に溶けやすい」性質。極性とは、電気的な”偏り”のことをいいます。「分子に極性がない」というと、その分子全体では電気的にプラスやマイナスに偏っている場所がない、ということだとお考え下さい。

細胞膜の内外でこれらの物質の濃度差(濃度勾配)があると、それぞれの物質が自然に濃度の低い方へ移動していきます。

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ただし、この単純拡散で輸送できる物質は、前述のような『脂溶性の分子や、酸素や二酸化炭素などの極性のない小さな分子』に限られます。水溶性の分子や大きな分子は、単純拡散で細胞の内外を移動することがむずかしいのです。

その理由は、細胞膜の構造にあります。細胞膜は、リン脂質の膜が二重になっている、脂質二重層とよばれる構造です。

「油と油は混ざりやすい」ですが「油と水は混ざりにくい」ですよね。水となじみやすい親水性の物質は、油っぽい細胞膜を通過することが難しいのです。

そうなんです。ほかにも、水にとけているイオンなんかも、細胞膜にはじかれてしまいます。いうまでもありませんが、水分子やナトリウムイオンなどのイオン類は、細胞のはたらきに必須の物質です。

この問題点を解決するのが、次にご紹介するチャネルという仕組みになります。

2.チャネルを介した輸送

チャネルとは、細胞膜を貫通するように存在し、受動輸送に関わるタンパク質です。このチャネルは、特定の物質を通過(透過)させることのできるトンネルのような役割をもちます。

たとえば、水分子はアクアポリン(または水チャネル)というチャネルを通過し、細胞膜の内外を移動するのです。

\次のページで「3.担体(輸送体)による輸送」を解説!/

Scheme facilitated diffusion in cell membrane-en.svg
LadyofHats Mariana Ruiz Villarreal - Own work. Image renamed from Image:Facilitated_diffusion_in_cell_membrane.svg, パブリック・ドメイン, リンクによる

各種イオンが移動するために必要なチャネルはまとめてイオンチャネルとよばれます。通すイオンによって、ナトリウムチャネル、カリウムチャネル、カルシウムチャネルなど、いくつもの種類があるんです。

イオンチャネルの多くは、常に開きっぱなしというわけではありません。何らかの刺激を受けることで、開閉を行う”ゲート”という機能をもっています。刺激の種類はチャネルによって異なりますが、開閉の際にはエネルギーを必要としません。

イオンチャネルが適切に機能することで、細胞内外のイオンの量が調節され、各細胞のはたらき方が変わってきます。

たとえば、神経細胞における活動電位の発生や筋肉の収縮、ホルモンの分泌など、さまざまな細胞の活動はイオンの量の変化に関連して引き起こされているのです。

逆に考えれば、イオンチャネルが正常に動かないと、細胞の活動がうまくいかなくなってしまいます。チャネルやその関連タンパク質などに原因がある病気は「チャネル病」などとよばれているんです。

3.担体(輸送体)による輸送

チャネルによく似たものに担体(輸送体)とよばれるものがあります。こちらも細胞膜に存在するしくみの一つ。タンパク質やアミノ酸などの物質と結合すると形が変わり、その物質を膜の反対側へ通過させることができます。

このように、細胞膜には物質を通過させるいくつもの仕組みが存在しているのです。

「チャネル」「担体」と「ポンプ」

細胞膜を貫通し、物質を出入りさせる仕組みをもつ「チャネル」や「担体」。これによく似たものに「ポンプ」があります。記事の上の方でも出てきましたが、ポンプはエネルギーを必要とする能動輸送の際、細胞内外で物質を輸送する機構です。ポンプはエネルギーを消費することで開閉します。

チャネルやポンプのように、細胞膜内外の物質輸送に関わるタンパク質はまとめて「膜輸送体」とよばれているので、覚えておくと良いでしょう。調べてみると、想像以上にたくさんの膜輸送体が細胞に存在することに驚かされるはずです。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

「受動輸送」とはどんな方法?細胞内外での物質のやりとりについて現役講師がわかりやすく解説

受動輸送では、物質が濃度勾配に逆らわず移動します。つまり、濃度の高い(濃い)ほうから低い(薄い)方へ、物質が動いていくのです。

これは、とても自然な現象ですよね。ブラックコーヒーに真っ白なミルクを注げば、カフェオレになります。一度混ざってしまったコーヒーとミルクは、元に戻すことができません。コーヒーだけ、ミルクだけが一か所に集まることはないはずです。

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液体でも気体でも、濃度の高いところから低いところへ物質が移動し、徐々に均一になっていきます。一般的な物理現象の一つです。このような現象は「拡散」とよばれます。

細胞でもこの拡散によっていろいろな物質が輸送されているのです。受動輸送では、基本的にエネルギーを必要としません。拡散は、移動する物質自身のもつ熱運動によって行われます。

反対に、能動輸送では物質を濃度勾配に逆らって移動させます。ある物質の濃度の高いところと低いところがあったとき、低いところからさらに高いところへ物質を送っていく輸送です。これは、受動輸送と違い、自然に起きる物理現象ではありません。

細胞内外で能動輸送を行うためには、エネルギーが必要です。例えば、細胞膜に存在する「ポンプ」とよばれる機構を、エネルギーを使って動かすことで、物質を移動させます。

image by Study-Z編集部

細胞では、受動輸送と能動輸送を上手に使い分けて物質の輸送を行っているのです。この、両者の違いは高校の生物学でも抑えておきたいポイントですね。

では、今回のテーマである受動輸送について、もう少し詳しく学んでいくことにしましょう。

受動輸送の種類

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