この記事では「憑き物が落ちる」について解説する。

端的に言えば「憑き物が落ちる」の意味は「正気に戻る」です。これは、古来の日本人の考えが非常に色濃く表れた言葉と言える。

小学校教諭として言葉の授業を何度もしてきた「こと」と一緒に、「憑き物が落ちる」の意味や使い方・類語・対義語などを見ていこう。

ライター/こと

元小学校教諭のwebライター。先生や子どもたちから「授業が分かりやすい!」との定評があった教育のプロだ。豊富な経験を活かし、どんな言葉も分かりやすく解説していく。

「憑き物が落ちる」の意味や使い方

image by iStockphoto

では早速「憑き物が落ちる」の意味や使い方を見てみましょう。読み方は「つきものがおちる」です。

「憑き物が落ちる」の意味は「正気に戻る」

まずは「憑き物(つきもの)」の意味を辞書で確認します。

人に乗り移って、その人に災いをなすと信じられている動物霊や生霊・死霊。物の怪 (け) 。「―が落ちる」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「憑き物」

「憑き物」とは「災いをもたらす霊の総称」のこと。この霊に取りつかれた人は、精神が錯乱して言動がおかしくなったり、人間らしさをなくしたりと良くない症状があらわれると考えられていました。

つまり「憑き物が落ちる」とは「人や事物にとりついていた霊が取り除かれ、元の姿に戻った」という意味を表します。 転じて、「何かに夢中になっている状態から正気に戻る」という意味でも使われる表現です。

「憑き物が落ちる」の使い方を例文で紹介

「憑き物が落ちる」の使い方を例文で紹介します。

1.一時は殺意を抱くほどだったのに、あの出来事をきっかけにまるで憑き物が落ちたように憎しみが消えてしまった。
2.今日の彼はどうしたというんだろう。憑き物が落ちたような、晴れ晴れとした表情をしている。
3.以前は寝食を忘れて熱中した趣味なのに、憑き物が落ちたかのようにふっと興味が無くなってしまった。

例文で示したように、「憑き物が落ちる」は「憑き物が落ちたように〇〇」という言い回しで使われることが多い言葉です。祟りや災い、良くないことをもたらす「憑き物」が取り除かれたわけですから、「〇〇」にはポジティブで良いニュアンスの言葉が入るということも押さえておきましょう。

 

「憑き物が落ちる」の語源は?

image by iStockphoto

「憑き物が落ちる」の語源を探っていきましょう。

「憑き物」は霊的現象

昔から日本人は、万物に霊が宿るという考えを持っています。中でも動物の霊が人間や事物にとりついたとされる霊的現象を「憑き物(つきもの)」と言いました。

全国的に最も多い「憑き物」は狐、次いで蛇や犬です。特に狐に取りつかれることは「狐憑き」と言って恐れられていました。現代のように科学が発達していない昔の時代は、人間の力ではどうしようもない災難や病気、人々が納得できない出来事や感覚などを「霊」のしわざだと考えることで、安心を得ようとしてきたのですね。「憑き物」も人々が暮らしの中で生み出した民間信仰の一種だとされています。

「落ちる」の意味は「以前の場所を離れる」

次は「落ちる」に注目してみましょう。「落ちる」の意味はよく使われる「下の方へ動き移る」と、もう一つ「前からの、または本来の位置を離れる」という意味があります。「憑き物」が「以前の場所を離れる」という意味で、「憑き物が落ちる」という言葉ができたのですね。

「狐(きつね)」が霊とされる理由

最も多い「憑き物」は狐でしたね。ではなぜ、昔の日本人は狐を霊と考えるようになったのでしょうか。

日本人は古来から「狐」を特別視してきました。「狐憑き」という言葉や、狐を祀った「稲荷神社」の存在からも、その様子がうかがえます。また、狐は人を化かすという昔話があるのも特徴的です。しかし、なぜ狐だけが特別視されるようになったのか、その経緯は実はまだよく分かっていません。

一説によると、狐は穀物を食い荒らすネズミを捕食することから重宝がられ、また狐の色や尻尾の形が実った稲穂に似ていることからも、人々の注目を集める存在だったと言われています。

「憑き物が落ちる」の類語

image by iStockphoto

「憑き物が落ちる」の類語を見てましょう。

「狐(きつね)落とし」:狐の霊を身体から追い出す

まずは「狐落とし」です。「狐の霊を身体から追い出して退治すること」という意味があります。狐は「憑き物」の中でも最も多いとされる霊でしたね。ここでの「狐」は「憑き物」とほぼ同じ意味で使われていることが分かります。

「瘧(おこり)を落とす」:急激にさめて冷静になる

次は「瘧を落とす」です。「熱病にかかったかのように何かに夢中になっていた状態から、急激にさめて冷静になること」という意味。「瘧」は難しい文字ですが、マラリアのように毎日または隔日、時を定めて発熱する病気を指します。

「憑き物が去る」:正気に戻る

「憑き物が去る」という言い方もあります。「憑き物が落ちる」の言い換え表現なので、意味は同じく「正気に戻る」と考えていいでしょう。

\次のページで「「憑き物が落ちる」の対義語」を解説!/

「憑き物が落ちる」の対義語

「憑き物が落ちる」の対義語を見てみましょう。

「憑依(ひょうい)」:霊などが乗り移ること

「憑依」とは「霊などが乗り移ること」を表す言葉です。「憑き物が落ちる」が霊が取り除かれるという意味でしたから、霊が取り付く意味の「憑依」は対義語だと言えますね。一般的には「憑依する」のように「する」を付けて使うことが多いでしょう。

ちなみに「憑依」には「頼りにすること。よりどころにすること。」という意味もあります。

「神懸り(かみがかり)」:言動が常軌を超えている

次は「神懸り」です。読み方は「かみがかり」ですが、「かむがかり」や「 かんがかり」とも読みます。 意味は「神霊が人に乗り移ること。また、その状態やその人」。そこから「 極端に論理を飛躍させたり科学的には考えられないことを狂信したりして、言動が常軌を超えていること」という意味にもなります。

ちなみに「懸り」とは「(物が上から)おおいかぶさること。 また、そのようす。」という意味です。

「神降ろし(かみおろし)」:神霊を乗り移らせる

「神降ろし」も「憑き物が落ちる」の対義語と言えるでしょう。意味は「祭りの初めに、祭場に神霊を招き迎えること」、また「神の託宣を聞くために、巫女 (みこ) がわが身に神霊を乗り移らせること」です。

またその反対に「神降ろしをした神を、祭りが終わったあと、天上へ帰すこと」を「神上げ」と言います。

「憑き物が落ちる」の英語表現

「憑き物が落ちる」の英語表現を見てみましょう。「憑き物」とは日本の古代信仰から生まれた言葉ですが、英語ではどのように言い表すのでしょうか。

「be dispossessed of an evil spirit」が「憑き物が落ちる」に相当します。「dispossess」は「取り除く、取り上げる、処分する」、「evil」は「悪霊」、「spirit」は「精神」という意味です。「be dispossessed of an evil spirit」を直訳すると「悪魔の精神を取り上げ、処分する」という意味になります。「憑き物」が悪魔に置き換わっている点が西洋らしいですね。

「憑き物が落ちる」は昔も現代も同じ

この記事では「憑き物が落ちる」の意味や使い方・語源・類語・対義語などを説明しました。「憑き物が落ちる」には「正気に戻る」という意味がありましたね。また、語源や類語・対義語を見ても、古来の日本人の考え方が強く表れた言葉だと分かりました。

しかし、現代の考え方にも通じるところは多くあると思います。「スピリチュアル」という言葉が定着しているように、人は自分ではどうすることもできない事象を、他の見えない存在に頼りたくなるのでしょう。どれだけ科学が発達しても、人間の本質は変わっていないようにも思います。

" /> 「憑き物が落ちる」の意味は?語源は霊の存在にあり!使い方・類語・対義語などを元小学校教諭がわかりやすく解説 – Study-Z
国語言葉の意味

「憑き物が落ちる」の意味は?語源は霊の存在にあり!使い方・類語・対義語などを元小学校教諭がわかりやすく解説

この記事では「憑き物が落ちる」について解説する。

端的に言えば「憑き物が落ちる」の意味は「正気に戻る」です。これは、古来の日本人の考えが非常に色濃く表れた言葉と言える。

小学校教諭として言葉の授業を何度もしてきた「こと」と一緒に、「憑き物が落ちる」の意味や使い方・類語・対義語などを見ていこう。

ライター/こと

元小学校教諭のwebライター。先生や子どもたちから「授業が分かりやすい!」との定評があった教育のプロだ。豊富な経験を活かし、どんな言葉も分かりやすく解説していく。

「憑き物が落ちる」の意味や使い方

image by iStockphoto

では早速「憑き物が落ちる」の意味や使い方を見てみましょう。読み方は「つきものがおちる」です。

「憑き物が落ちる」の意味は「正気に戻る」

まずは「憑き物(つきもの)」の意味を辞書で確認します。

人に乗り移って、その人に災いをなすと信じられている動物霊や生霊・死霊。物の怪 (け) 。「―が落ちる」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「憑き物」

「憑き物」とは「災いをもたらす霊の総称」のこと。この霊に取りつかれた人は、精神が錯乱して言動がおかしくなったり、人間らしさをなくしたりと良くない症状があらわれると考えられていました。

つまり「憑き物が落ちる」とは「人や事物にとりついていた霊が取り除かれ、元の姿に戻った」という意味を表します。 転じて、「何かに夢中になっている状態から正気に戻る」という意味でも使われる表現です。

「憑き物が落ちる」の使い方を例文で紹介

「憑き物が落ちる」の使い方を例文で紹介します。

1.一時は殺意を抱くほどだったのに、あの出来事をきっかけにまるで憑き物が落ちたように憎しみが消えてしまった。
2.今日の彼はどうしたというんだろう。憑き物が落ちたような、晴れ晴れとした表情をしている。
3.以前は寝食を忘れて熱中した趣味なのに、憑き物が落ちたかのようにふっと興味が無くなってしまった。

例文で示したように、「憑き物が落ちる」は「憑き物が落ちたように〇〇」という言い回しで使われることが多い言葉です。祟りや災い、良くないことをもたらす「憑き物」が取り除かれたわけですから、「〇〇」にはポジティブで良いニュアンスの言葉が入るということも押さえておきましょう。

 

「憑き物が落ちる」の語源は?

image by iStockphoto

「憑き物が落ちる」の語源を探っていきましょう。

「憑き物」は霊的現象

昔から日本人は、万物に霊が宿るという考えを持っています。中でも動物の霊が人間や事物にとりついたとされる霊的現象を「憑き物(つきもの)」と言いました。

全国的に最も多い「憑き物」は狐、次いで蛇や犬です。特に狐に取りつかれることは「狐憑き」と言って恐れられていました。現代のように科学が発達していない昔の時代は、人間の力ではどうしようもない災難や病気、人々が納得できない出来事や感覚などを「霊」のしわざだと考えることで、安心を得ようとしてきたのですね。「憑き物」も人々が暮らしの中で生み出した民間信仰の一種だとされています。

「落ちる」の意味は「以前の場所を離れる」

次は「落ちる」に注目してみましょう。「落ちる」の意味はよく使われる「下の方へ動き移る」と、もう一つ「前からの、または本来の位置を離れる」という意味があります。「憑き物」が「以前の場所を離れる」という意味で、「憑き物が落ちる」という言葉ができたのですね。

「狐(きつね)」が霊とされる理由

最も多い「憑き物」は狐でしたね。ではなぜ、昔の日本人は狐を霊と考えるようになったのでしょうか。

日本人は古来から「狐」を特別視してきました。「狐憑き」という言葉や、狐を祀った「稲荷神社」の存在からも、その様子がうかがえます。また、狐は人を化かすという昔話があるのも特徴的です。しかし、なぜ狐だけが特別視されるようになったのか、その経緯は実はまだよく分かっていません。

一説によると、狐は穀物を食い荒らすネズミを捕食することから重宝がられ、また狐の色や尻尾の形が実った稲穂に似ていることからも、人々の注目を集める存在だったと言われています。

「憑き物が落ちる」の類語

image by iStockphoto

「憑き物が落ちる」の類語を見てましょう。

「狐(きつね)落とし」:狐の霊を身体から追い出す

まずは「狐落とし」です。「狐の霊を身体から追い出して退治すること」という意味があります。狐は「憑き物」の中でも最も多いとされる霊でしたね。ここでの「狐」は「憑き物」とほぼ同じ意味で使われていることが分かります。

「瘧(おこり)を落とす」:急激にさめて冷静になる

次は「瘧を落とす」です。「熱病にかかったかのように何かに夢中になっていた状態から、急激にさめて冷静になること」という意味。「瘧」は難しい文字ですが、マラリアのように毎日または隔日、時を定めて発熱する病気を指します。

「憑き物が去る」:正気に戻る

「憑き物が去る」という言い方もあります。「憑き物が落ちる」の言い換え表現なので、意味は同じく「正気に戻る」と考えていいでしょう。

\次のページで「「憑き物が落ちる」の対義語」を解説!/

次のページを読む
1 2
Share: