今回のテーマは「始原生殖細胞」です。始原生殖細胞は受精後早期の初期胚で形成される、将来的には卵子もしくは精子の起源となる細胞です。今回は「受精卵から始原生殖細胞が発生する過程」や「始原生殖細胞が精子や卵子になるまで」。そしてiPS細胞を用いたヒトの始原生殖細胞の最新研究を含めて、生物に詳しい現役大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

始原生殖細胞とは

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細胞生物学の考えでは、私たちの身体は細胞と細胞が作り出したものから出来ています。私たちを構成する多くの細胞のすべては、もとをたどれば卵子と精子が受精して生じるたった一つの受精卵から作りだされているのです。このことからも生殖細胞は他の体細胞とは違う「特別な細胞」である事を感じるのではないでしょうか。そのため生殖細胞は他の体細胞とは違った形成過程をたどるのです。

始原生殖細胞(primordial germ cell、略称:PGC)とは、有性生殖をおこなう生物が発生する過程で、将来的に配偶子(精子や卵子などの生殖細胞)のもとになる未分化の細胞のことをいいます。メスの場合は卵原細胞に分化するまでを始原生殖細胞といい、その後卵母細胞を経て卵子に分化オスの場合は、ゴノサイトから精原細胞に分化するまでをいい、その後、精母細胞、精細胞を経て、最終的に精子に分化します。

体細胞と生殖細胞の違い

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私たちの身体は約37兆個、200種類以上の細胞と細胞が作り出したものから出来ています。細胞の分け方は色々ありますが、最も基本的な細胞の分類方法は、「体細胞」「生殖細胞」という分け方です。体細胞と生殖細胞は役割も性質も全く異なり、体細胞は体を構成する機能の基本単位。体細胞は個体の生存に必須ですが、個体の寿命とともにその役割を終える運命をたどります。

一方で、生殖細胞の役割は親の遺伝情報を子供に伝えることです。生殖細胞とは、具体的には精子や卵子のことで、その遺伝情報は子孫へと受け継がれていきます。体細胞と生殖細胞との最も大きな違いは、染色体の数です。人間の体細胞の核には46本の染色体がありますが、生殖細胞には半分の23本しかありません。両親から23本ずつ、計46本の染色体を得ることで両方の親の遺伝情報を受け継ぎます。

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受精卵からヒトになるまで

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生物はたったひとつの受精卵が細胞分裂と細胞分化、成熟を繰り返して個体へと発生していきます。まずはヒトの発生の流れから解説を始めますね。精子と卵子が受精して生じた1つの細胞である受精卵は卵割(細胞分裂)により2細胞、4細胞、8細胞と倍々に増加します。3~4日で割球同士の境目が曖昧になり、まとまって見える「桑実胚」へ。さらに卵割が進行し、細胞が互いにくっつき卵割腔が形成され「胚盤胞」へと変化。やがて細胞層の一部が卵割腔の内部に入り込む形で新たな袋状の構造が形成され「原腸胚」となります。原腸胚のころになると、胚葉は三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)に分化し、 その後、外胚葉は表皮や神経などになり、中胚葉は筋肉や腎臓心臓血管、生殖腺などになり、内胚葉は消化管などに分化する流れです。ここまでは生物の授業でも習うのではないでしょうか?

始原生殖細胞から生殖細胞になるまで

始原生殖細胞から生殖細胞になるまで

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始原生殖細胞になる細胞は比較的早い時期に決まっており、ヒトの場合は受精してから3週間ほどです。原腸陥入と同時期に三胚葉とは独立した場所、胚盤葉上層のうち将来、胚体外中胚葉に分化する領域から数個の細胞集団として誘導されます。生殖細胞系列に入った細胞は、その後、細胞分裂を繰り返して細胞数を増やし、将来は生殖細胞になる元の細胞、すなわち始原生殖細胞に分化。その後、始原生殖細胞は染色体の性に従い、女性の場合は卵原細胞、男性の場合は精原細胞へと誘導されます

女性の場合は卵原細胞が成長し、一次卵母細胞へ。この一次卵母細胞が分裂して2つの細胞になるとき、DNAの複製が行われず46本の染色体(2n)は2つの細胞に公平に分配されて23本(n)になります(減数分裂)。その後二次卵母細胞→卵細胞→卵子へ分化成熟。男性の場合は精原細胞から同じ分裂形式で、染色体を23本持つ精子が形成されます。

iPS細胞を用いた始原生殖細胞の最新研究

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2021年に国際学術誌「Life Science Alliance」にて、京都大学iPS細胞研究所のグループがヒトiPS細胞を始原生殖細胞様細胞へと分化誘導できる遺伝子を特定したことが掲載されました。これまでの研究でEOMES遺伝子、SOX17遺伝子、TFAP2C遺伝子、BLIMP1遺伝子の発現がないと分化できないことを発見しており、今回の研究では、さらにGATA3遺伝子(またはGATA2遺伝子)をSOX17遺伝子、TFAP2C遺伝子とともに発現させることで、始原生殖細胞へと分化が開始することを発見しました。

始原生殖細胞はマウスなどではよく研究されてきましたが、ヒトは生体試料が手に入らないこと、倫理的な問題のためためほとんど研究されていませんでした。この研究はヒトの生殖細胞への分化の進行を制御する因子が明らかになり、生殖細胞発生の遺伝子制御のネットワークを解明に貢献しています。

生殖細胞の理解は生命の理解につながる

今回は「始原生殖細胞」について解説しました。私は生物の発生や、生殖細胞を理解することは、私たちの生命の本質を理解することのひとつだと思っています。始原生殖細胞から精子や卵子に至るには、数多くの生殖細胞にしか見られない重要なプロセスがありますが、まだまだ分からないことが多いのです。生殖細胞の発生、形成をさらに詳しく研究することによって、生命現象の解明や、不妊や先天性疾患の原因を突き止めることができると予想されています。倫理的な問題があることも事実ですが、この問題の解決に始原生殖細胞の研究は大きな役割を果たすのではないでしょうか。

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3分で簡単「始原生殖細胞」卵子や精子の元となる細胞について現役大学院生がわかりやすく解説!

今回のテーマは「始原生殖細胞」です。始原生殖細胞は受精後早期の初期胚で形成される、将来的には卵子もしくは精子の起源となる細胞です。今回は「受精卵から始原生殖細胞が発生する過程」や「始原生殖細胞が精子や卵子になるまで」。そしてiPS細胞を用いたヒトの始原生殖細胞の最新研究を含めて、生物に詳しい現役大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

始原生殖細胞とは

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細胞生物学の考えでは、私たちの身体は細胞と細胞が作り出したものから出来ています。私たちを構成する多くの細胞のすべては、もとをたどれば卵子と精子が受精して生じるたった一つの受精卵から作りだされているのです。このことからも生殖細胞は他の体細胞とは違う「特別な細胞」である事を感じるのではないでしょうか。そのため生殖細胞は他の体細胞とは違った形成過程をたどるのです。

始原生殖細胞(primordial germ cell、略称:PGC)とは、有性生殖をおこなう生物が発生する過程で、将来的に配偶子(精子や卵子などの生殖細胞)のもとになる未分化の細胞のことをいいます。メスの場合は卵原細胞に分化するまでを始原生殖細胞といい、その後卵母細胞を経て卵子に分化オスの場合は、ゴノサイトから精原細胞に分化するまでをいい、その後、精母細胞、精細胞を経て、最終的に精子に分化します。

体細胞と生殖細胞の違い

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私たちの身体は約37兆個、200種類以上の細胞と細胞が作り出したものから出来ています。細胞の分け方は色々ありますが、最も基本的な細胞の分類方法は、「体細胞」「生殖細胞」という分け方です。体細胞と生殖細胞は役割も性質も全く異なり、体細胞は体を構成する機能の基本単位。体細胞は個体の生存に必須ですが、個体の寿命とともにその役割を終える運命をたどります。

一方で、生殖細胞の役割は親の遺伝情報を子供に伝えることです。生殖細胞とは、具体的には精子や卵子のことで、その遺伝情報は子孫へと受け継がれていきます。体細胞と生殖細胞との最も大きな違いは、染色体の数です。人間の体細胞の核には46本の染色体がありますが、生殖細胞には半分の23本しかありません。両親から23本ずつ、計46本の染色体を得ることで両方の親の遺伝情報を受け継ぎます。

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