この記事では「お伺いを立てる」について解説する。
端的に言えばお伺いを立てるの意味は「目上の人に判断をお願いする」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
さまざまな分野の本に触れ、知識を培ってきた「つゆと」を呼んです。一緒に「お伺いを立てる」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/つゆと
子供の頃からの筋金入り読書好きライター。むずかしい言葉や複雑な描写に出会っても、ねばり強く読みこんで理解することをポリシーとする。言葉の意味も、妥協なくていねいに解説していく。
「お伺いを立てる」には、次のような意味があります。
ある事案について、問題がないかどうかなどの判断を上司などに確認すること。または、伺うこと。
出典:実用日本語表現辞典「お伺いを立てる」
「お伺いを立てる」とは、目上の人に判断をお願いすることです。「これで進めて良いかどうか、部長にお伺いを立ててみましょう」のように使います。「目上の人」にお願いするという意味である以上、この言葉自体が敬語です。お願いするのは自分ですから、謙譲語ですね。
この例でいうと、目上の人に当たるのは「部長」です。「お伺いを立てる」が、目の前の話し相手ではなく「判断をお願いする第三者」に対する敬語となっているのが分かるでしょうか。このように、その場にいない目上の人に判断をお願いしようとする状況でよく使います。
目の前の相手に対する敬語としても、使わないわけではありません。例えば「修正したものを用意しますので、それで進めて良いかどうか、後日あらためてお伺いを立てさせていただきます」という場合。目の前の相手に対し「後日判断をお願いします」と言っていますね。
次に「お伺いを立てる」の語源を確認しておきましょう。「お伺い」は「伺い」に接頭辞の「お」がついた形。「伺い」の意味については、下に引用を載せたので確認してください。
現在では1の意味で「進退伺い」と使ったり、3の意味で「ご機嫌伺い」と使ったりすることが多いですね。しかし明治時代頃には、2の「神仏のお告げを求める」という意味で使っていました。相手は神仏ですから、かしこまって聴くものであったのは間違いありません。謙譲のニュアンスはここから続くものと考えられます。
「立てる」には、「年長者を立てる」のように「うやまうべきものとして尊重する」という意味がありますね。また、「人を行かせる」という意味で「使いを立てる」と使うとき、人を行かせる先にいるのは「地位の高い人」でしょう。このように「立てる」は相手を敬ってなにかするときに使う言葉でもあるのです。
\次のページで「「お伺いを立てる」の使い方・例文」を解説!/
1.目上の人などに指示を仰ぐこと。
2.神仏のお告げを願うこと。
3.「問うこと」「訪問すること」「聞くこと」の意の、その相手を敬って用いる謙譲語。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「うかがい【伺(い)】」
「お伺いを立てる」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.その件については取引先にお伺いを立てているところだと、課長にメール返信しておきましたよ。
2.このプロジェクトの内容で問題ないか、課長の佐藤様にもお伺いを立てておいていただけますでしょうか。お返事いただけるまでの日時には余裕を持たせていただきますので、もし疑問点や質問などありましたら、なんなりと私の方までご連絡いただければと存じます。
3.ママ、あの~、こないだ言った転職の件について、ちょっとお伺いを立てたいことがあって…わりと良い感じの会社があってね、少しだけお時間を頂戴したいのだけれど…。
例文1と2の「お伺いを立てる」相手は、目の前にいる話し相手ではなく、判断をお願いしたい第三者です。例文1では「取引先」、例文2では「課長の佐藤様」ですね。
例文3は、目の前にいる話し相手に対し「お伺いを立てたい」と使っています。良い会社かどうか、妻の目からも判断してみてほしいという夫の言葉です。「お伺いを立てたい」と言いつつも、気持ちはすでに決まっている様子。ことを上手く運ぶために「判断をお願いしたい」と下手に出ているのでしょう。「お時間を頂戴したい」の言葉からもうかがい知れますね。
「〇日にお休みをいただく件についてお伺いを立ててもよろしいですか」というのは、ちょっと不自然な文章ですね。休みをとることを決める主体は自分であり、「判断してもらう」ことではないからでしょう。「〇日にお休みをいただく件について伺ってもよろしいですか」と使うと、不自然さが解消します。
\次のページで「「指示を仰ぐ」」を解説!/
「指示を仰ぐ」は、指図(さしず)や命令を求めるという意味です。判断をお願いする「お伺いを立てる」と似た意味の言葉といえます。
「仰ぐ」には「教えを求める」という意味のほかに「尊敬する」という意味も。「師と仰ぐ」という使い方はその例ですね。そのためか、「教えを求める」という意味でつかうときにも敬語のようなニュアンスを感じますね。敬語である「お伺いを立てる」と似ているのは、そのニュアンスがあるためといえるでしょう。
「お伺いを立てる」の対義語は見つかりません。
「お伺いを立てる」の反対の概念は「お伺いを立てない」ということになります。そこから、ここでは「独断する」を紹介しましょう。
「独断する」は、ひとりで決めるということです。「最終的に社長が独断するのがいつものお約束だ」のように使います。自分だけでことを進めずに、目上の人に判断をお願いする「お伺いを立てる」とは、逆の概念を持つ言葉ですね。
「社長」においては、自分より目上の人というのが存在しない場合もあります。また、組織の中で全員が「独断する」ことが可能なわけではないでしょう。「お伺いを立てる」も「独断する」も、主体となる人があらかじめ限定されている言葉といえますね。
「ask」は「たずねる・質問する」という意味ですね。「opinion(意見)」や「instruction(指令)」という言葉と合わせると「お伺いを立てる」というニュアンスをあらわすことができます。
「ask」を使わない表現もありますよ。例で確認しましょう。
Please ask your boss for his opinion about the meeting.
(会議についてどう思われたか上司にお伺いを立てておいてください。)
Could you do me a favour and know what the chairman wants to do about it?
(この問題について、社長にお伺いを立ててもらえませんか?)
\次のページで「「お伺いを立てる」を使いこなそう」を解説!/
この記事では「お伺いを立てる」の意味・使い方・類語などを説明しました。
「お伺いを立てる」は、「目上の人に判断をお願いする」という意味です。この言葉自体が敬語であり、お願いするのは自分であるため、謙譲語となります。
自分で判断をして進めるべきときと、自分だけで判断しない方が良いとき。いつでも正解を選べるとは限りませんが、お伺いを立ててばかりでは逆に評価を下げることもあるかもしれませんね。