この記事では「瞋恚」について解説する。

端的に言えば瞋恚の意味は「怒ること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元予備校校舎長で教育系ライターのみゆなを呼んです。一緒に「瞋恚」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/みゆな

元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。

「瞋恚」の意味や語源・使い方まとめ

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瞋恚」は漢字も難しく、見ただけでは読み方の見当もつかない言葉ですよね。「瞋恚」は「しんい」と読みます。仏教用語でもあるため、日常的に使う表現ではありませんね。ただ私たちの中には「瞋恚」と表現するのがピッタリの感情があることも確か、「瞋恚」という言葉を知っておくと表すバリエーションが増えますよ。

早速「瞋恚」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。由来にまでさかのぼり、詳しく説明します。

「瞋恚」の意味は?

「瞋恚」には、次のような意味があります。

1.怒ること。いきどおること。
2.仏語。三毒・十悪の一。自分の心に逆らうものを怒り恨むこと。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「瞋恚」

「瞋恚」は平たく言えば「怒ること、怒りの感情」という意味です。ただし「怒り」なら全て「瞋恚」と表現できるかというとそうではなく、「思い通りにならない事への憤り」「周りの人間への憎しみ」「好ましくない人間に対しての妬み」といった感情が含まれる怒りを「瞋恚」と言います。

怒ることを「頭に血が上る」と言うこともあるように、カッとなったときは分別や見境がなくなりやすいもの。判断を誤りやすいのが「怒り」です。よって仏教では「瞋恚」を「三毒」、つまり人生の苦しみの原因となったり、心を蝕む毒になったいるすものだと教えています。

「瞋恚」の語源は?

次に「瞋恚」の語源を確認しておきましょう。

」は古代仏教の時代から教え伝わってきた煩悩のひとつを指します。「怒り、恨み、憎しみ」を表す漢字です。「」も「怒る、恨む」といった感情を指しています。同じ意味を持つ漢字が2つ重なってできたのが「瞋恚」で、怒りや憎しみ、恨みといった感情強く表しているということですね。

仏教には輪廻転生を繰り返しながら生まれつく6つの世界「六道」という考え方があります。六道とは「地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道」の6つを指し、右に行くほど良い世界です。怒りに身を任せるような未熟な人間が落ちる「地獄道」は、怒り・憎しみに満ちた苦しい世界とされています。

死後、そんな苦しい世界に落ちないよう、怒りたくなる状況でも冷静さを失わず、怒りに心を占拠されないようにすることが大切だという教えです。

\次のページで「「瞋恚」の使い方・例文」を解説!/

「瞋恚」の使い方・例文

「瞋恚」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.妻に裏切られた男は、瞋恚と憎悪のいりまじった表情をしていた。
2.「父の仇を討つ!」と、少年は瞋恚の炎のごとく飛び出していった。
3.昨晩の彼は瞋恚の念に駆られていたが、一晩おいて冷静になったようだ。

「瞋恚」は自分の思い通りにならないことへの怒りや不満、周りの人間への憎しみという意味でしたね。意味を踏まえて例文を見てみましょう。

例文1で「瞋恚」が起きているのは、男から妻に対してです。信じていた妻に裏切られた気持ちが「瞋恚」という強い恨みになって男の表情に表れているという状況を表しています。

例文2は「少年から父の仇(かたき)」に対する「瞋恚」ですね。肉親を殺された恨みの塊になって、仇を追っていく少年の姿が目に浮かびます。

例文3は「瞋恚」のような強い怒りを持っていたが、一晩経って冷静さを取り戻したという意味です。怒りに任せて行動するのは良い結果にはなりにくいもの。時間をおくことは気持ちを鎮めるのに有効な方法ですね。

「瞋恚」の類義語は?違いは?

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「瞋恚」は仏教の教えですが、類義語はあるのでしょうか。「瞋恚」と同じ意味を持つ言葉をご紹介します。

その1「憤怒」

憤怒(ふんど)」は「ひどく怒る」という意味です。「怒り」を罪なことと考える宗教は多く、キリスト教でも「憤怒」は「七つの大罪」の1つとされています。

\次のページで「その2「激憤」」を解説!/

その2「激憤」

激憤(げきふん)」も「瞋恚」の類義語です。「激しくいきどおること。また、そのいきどおり」という意味になります。「激怒」も同じ意味です。

その3「悲憤」

悲憤(ひふん)」とは「悲しみ、憤ること」という意味です。怒りの感情というのは、信じていた相手に裏切られたなどの「悲しみ」からきていることが多いもの。悲しみのあまり怒りになる、という経験がある人も多いのではないでしょうか。

「瞋恚」の対義語は?

「瞋恚」には残念ながら対義語はありません。仏教には「瞋恚」と反対の教えはありませんし、「怒り」という感情の反対を考えてみても思い浮かびませんよね。

もしどうしても「瞋恚」と対義になる言葉を使いたい場合は「心穏やかに」「にこやかに」等、文脈に合った表現を使ってみてください。

「瞋恚」の英訳は?

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「瞋恚」は「思い通りにならない怒り」という意味ですね。では英語ではどのように表現するのでしょうか。

その1「indignation」

indignation」とは「激しい怒り、憤慨」という意味を持つ英単語です。やり場のな怒りといった場合にも使われます。

I could not keep my indignation in.
「私は瞋恚をおさえることができなかった」

\次のページで「その2「hatred」」を解説!/

その2「hatred」

hatred」は「嫌悪、怨恨、憎しみ、憎悪、大嫌い」という非常にネガティブな意味を持つ英単語です。凄まじい憎しみと言いたいときにピッタリですね。

His hatred of his parents began to fade.
「彼の両親に対する瞋恚がなくなり始めた」

「瞋恚」を使いこなそう

この記事では「瞋恚」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「怒り」というのは反射的に起きてしまう感情ですが、人間関係に持ち込むと後悔する結果になることが多いですよね。一方で「怒り」の感情が出たときは、脳から「ノルアドレナリン」と「アドレナリン」というホルモンが分泌され、スポーツなどにおいては パフォーマンスの向上がみられるという研究結果もあります。

大切なのは「怒りに自分が支配されないこと」。怒りという感情と上手に付き合いつつ、理性と冷静さを失わずにいたいですね。その両立こそが仏教の教えの真髄かもしれません。

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国語言葉の意味

「瞋恚」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校校舎長がわかりやすく解説!

この記事では「瞋恚」について解説する。

端的に言えば瞋恚の意味は「怒ること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元予備校校舎長で教育系ライターのみゆなを呼んです。一緒に「瞋恚」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/みゆな

元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。

「瞋恚」の意味や語源・使い方まとめ

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瞋恚」は漢字も難しく、見ただけでは読み方の見当もつかない言葉ですよね。「瞋恚」は「しんい」と読みます。仏教用語でもあるため、日常的に使う表現ではありませんね。ただ私たちの中には「瞋恚」と表現するのがピッタリの感情があることも確か、「瞋恚」という言葉を知っておくと表すバリエーションが増えますよ。

早速「瞋恚」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。由来にまでさかのぼり、詳しく説明します。

「瞋恚」の意味は?

「瞋恚」には、次のような意味があります。

1.怒ること。いきどおること。
2.仏語。三毒・十悪の一。自分の心に逆らうものを怒り恨むこと。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「瞋恚」

「瞋恚」は平たく言えば「怒ること、怒りの感情」という意味です。ただし「怒り」なら全て「瞋恚」と表現できるかというとそうではなく、「思い通りにならない事への憤り」「周りの人間への憎しみ」「好ましくない人間に対しての妬み」といった感情が含まれる怒りを「瞋恚」と言います。

怒ることを「頭に血が上る」と言うこともあるように、カッとなったときは分別や見境がなくなりやすいもの。判断を誤りやすいのが「怒り」です。よって仏教では「瞋恚」を「三毒」、つまり人生の苦しみの原因となったり、心を蝕む毒になったいるすものだと教えています。

「瞋恚」の語源は?

次に「瞋恚」の語源を確認しておきましょう。

」は古代仏教の時代から教え伝わってきた煩悩のひとつを指します。「怒り、恨み、憎しみ」を表す漢字です。「」も「怒る、恨む」といった感情を指しています。同じ意味を持つ漢字が2つ重なってできたのが「瞋恚」で、怒りや憎しみ、恨みといった感情強く表しているということですね。

仏教には輪廻転生を繰り返しながら生まれつく6つの世界「六道」という考え方があります。六道とは「地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道」の6つを指し、右に行くほど良い世界です。怒りに身を任せるような未熟な人間が落ちる「地獄道」は、怒り・憎しみに満ちた苦しい世界とされています。

死後、そんな苦しい世界に落ちないよう、怒りたくなる状況でも冷静さを失わず、怒りに心を占拠されないようにすることが大切だという教えです。

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