この記事では「差し当たり」について解説する。
端的に言えば「差し当たり」の意味は「この場合、今のところ、当面、突然」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
ライターのflickerを呼んです。一緒に「差し当たり」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/flicker

仕事柄、言葉からひらめきをもらうことがよくある。「なるほど。そういうことか!」と言葉への知識・関心がさらに一層広がるように、さらに編プロでの編集経験を活かし理解しやすい精確な解説を心掛ける。

「差し当たり」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「差し当たり」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「差し当たり」の意味は?

「差し当たり」には、次のような意味があります。

(多く副詞的に用いて)先のことはともかく、今のところ。今しばらくの間。

出典:コトバンク

「差し当たり」は将来のことは考慮に入れずに現在の状況に対応する様子を表します話者が現在の状況はどうかと内省している様子を表し、とても冷静で客観的な表現になっていますよ。ただし「差し当たり」が示す現在とは現時点から未来に向かってやや幅がある時間を表し現時点そのものを指すのでない点で「目下」「当面」と異なります。したがって「彼はさしあたり試験勉強で必至だ」「さしあたっての問題をまず解決する」は誤用で、正しくは「彼は目下試験勉強で必至だ」「当面の問題をまず解決する」とそれぞれ表現しますよ。

「差し当たり」の語源は?

次に「差し当たり」の語源を確認しておきましょう。「差し当たり」は「差し当る」から派生した言葉。それでは「当」の漢字の成り立ちについて説明しますね。「当」は田んぼをあらわす「田」と、見合う意味の音を示す「尚」とを合わせた字。田んぼの広さに見合った金額のことから、「つりあう」「あたる」の意味を表します。

\次のページで「「差し当たり」の使い方・例文」を解説!/

「差し当たり」の使い方・例文

「差し当たり」の使い方について例文を挙げて解説していきます。この言葉は、たとえば以下のように用いられますよ。

1.彼女はさしあたり必要な物だけを持ってふるさとを出た。当分の間はあなたとビジネスホテルに泊まることにするわ。その後は温泉旅館に身を寄せて今後のことをじっくり考えましょう。

2.さしあたって不満な点は何もなかったので、当社は見積書に基づき製品の発注を行っていくとメールで回答した。

3.「突然会社をやめてどうするつもりだ」「まあ、さしあたりは失業保険で食いつなぎ、少しのんびりするさ」

例文1からは女性が駆け落ちをした相手と今後について相談している様子が伝わってきますし、例文2からはほぼほぼ納得できる見積内容だったことが読み取れます。また例文3からは無計画に退職する同僚を心配する気持ちが伝わってきますね。このように「差し当たり」は述語にかかる修飾語になることが多いです。

「差し当たり」の類義語は?違いは?

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「差し当たり」と似たような意味をもつ言葉をご紹介します。さっそく見ていきましょう。

その1「目下」

「目下」は事態が進行している現在を表す副詞。「連立政府は政治改革がもっかの急務である」や「新幹線は岐阜米原間で不通になっているが、もっかのところ復旧のめどは立っていない」は名詞にかかる修飾語、「妹はもっか試験勉強で必至だ」は述語にかかる修飾語の用法です。事態が進行している現在ただ今というニュアンスで、誓い将来には状況が変化す暗示がありますよ。この「目下」は「差し当たり」や「当面」に似ていますが、「差し当たり」は将来のことは考慮に入れずに現在の状況に対応する様子を表し、現時点から未来に向かってやや幅のある時間を指しますし、「当面」は現時点から未来に到る幅のある現在を表し、問題が近未来に解決される暗示があります。

\次のページで「その2「この頃」」を解説!/

その2「この頃」

「この頃」は現在を表します。「彼のように純粋な人はこのごろでは珍しくなった」は名詞の用法、「このごろの若い者の言葉遣いはなってない」は名詞にかかる修飾語、「このごろちっとも来てくれないのね」は述語にかかる修飾語の用法。「暑さの厳しい今日このごろです」は「今日このごろ」という形で慣用句となり、最近の様子という意味ですよ。話者にとっての漠然とした現在を表しますが、現時点という意味ではなく誓い過去から近い未来までを含むある幅を持った現在です。また「この頃」は「このところ」や「近頃」「最近」などに似ていますが、「このところ」は示す時間の幅が長くその時間の間中ある事柄が続いている継続の暗示がありますし、「近頃」や「最近」は近い過去から現時点に至るまでの時間の幅の暗示が強いでしょう。ちなみに「差し当たり」との違いは、「差し当たり」は将来のことは考慮に入れずに現在の状況に対応する様子を表すという点です。

その3「このところ」

「このところ」は近い過去から現時点までの時間の幅を表しますよ。「このところの低温で農作物に被害が出始めた」は名詞にかかる修飾語、「彼女はこのところ会社を休みがちだ」は述語にかかる修飾語の用法です。近い過去から現時点に至る時間の幅に視点があり、その時間の幅の中である状態が継続している暗示があるでしょう。「このところ」は「近頃」「最近」や「この頃」に似ていますが、「近頃」や「最近」が暗示する時間はとても漠然としているのに対して、「このところ」は話者が具体的なある時間の幅を考えていることが多いです。「この頃」は時間の幅は暗示しません。なお「差し当たり」との違いは「差し当たり」は話者が現在の状況はどうかと内省している様子を表し、とても冷静で客観的な表現だという点です。

「差し当たり」の対義語は?

「差し当たり」と反対の意味に近い言葉をご紹介します。さっそく見ていきましょう。

その1「ながらく」

「ながらく」はある状態が長時間続く様子を表します。「東京はながらく雨が降っていない」「たいへんながらくお待たせいたしました。六番線に中野行が到着いたします」など述語にかかる修飾語として用いられますよ。ややかたい文章語で公式の発言などによく用いられます主体の意図的な行為についてはふつう用いません。また、ある物事と物事の時間的間隔が大きいという場合にも用いられません

その2「終始」

「終始」は始めから終わりまで同じ状態が続く様子を表す表現。「大臣の答弁は弁解にしゅうしした」は「□□に(で)終始する」という形で述語になる用法で、□□には状態を表す名詞が入ります。「□□で」と「□□に」を比べると、「□□で」のほうが主体が意識的に□□という状態を選択して継続させたいという意図の暗示が強く出る。「彼は会議の間じゅうしゅうし沈黙を守っていた」は述語にかかる修飾語の用法です。ややかたい文章語で日常会話にはあまり登場しません

二時点の間で同じ状態が続くという意味であって、必ず始点と終点が想定されています。ちなみに前者は答弁の初めから終わりまでという意味始点から終点までの間、一貫して同じ状態を保ち続ける主体の意図の暗示があります。そこで、自発的に行わない行為などについてはあまり用いられません。「終始」は「しじゅう」に似ていますが、「しじゅう」は頻度が非常に高くて動作や状態に切れ目がないというニュアンスで、始点と終点の暗示はありません。

「差し当たり」の英訳は?

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「差し当たり」の英訳にはどのようなものがあるのでしょうか。英語で「差し当たり」と言い表す時の例をさっそく見ていきましょう。

\次のページで「「for the moment」」を解説!/

「for the moment」

「for the moment」は「さしあたり、当座は、今は」という意味です。「There's nothing troubling me for the moment」で「差し当たり困ったことは何もない」、「I'm going to take a trip for the moment」で「差し当たり旅行にでも行くつもり」と言い表すことができますよ。

「差し当たり」を使いこなそう

この記事では「差し当たり」の意味・使い方・類語などを説明しました。「差し当たり」は将来のことは考慮に入れずに現在の状況に対応する様子を表す副詞だと解説しましたね。また「差し当たり」は「ひとまず」や「とりあえず」に似ていますが、「ひとまず」は物事に区切りをつける様子を表しますし、「とりあえず」は本格的な対応を後回しにしてできることを先に行うというニュアンスで、必ずしも現在の状況についてだけ用いるとは限りません。そのため「卒論を一週間かかってさしあたり書き上げた」は間違った用法であり、正しくは「卒論を一週間かかってひとまず(とりあえず)書き上げた」となります。表現の違いを正しく理解しましょう。

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国語言葉の意味

「差し当たり」の意味や使い方は?例文や類語をプロダクション編集者がわかりやすく解説!

この記事では「差し当たり」について解説する。
端的に言えば「差し当たり」の意味は「この場合、今のところ、当面、突然」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
ライターのflickerを呼んです。一緒に「差し当たり」の意味や例文、類語などを見ていきます。

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仕事柄、言葉からひらめきをもらうことがよくある。「なるほど。そういうことか!」と言葉への知識・関心がさらに一層広がるように、さらに編プロでの編集経験を活かし理解しやすい精確な解説を心掛ける。

「差し当たり」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「差し当たり」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「差し当たり」の意味は?

「差し当たり」には、次のような意味があります。

(多く副詞的に用いて)先のことはともかく、今のところ。今しばらくの間。

出典:コトバンク

「差し当たり」は将来のことは考慮に入れずに現在の状況に対応する様子を表します話者が現在の状況はどうかと内省している様子を表し、とても冷静で客観的な表現になっていますよ。ただし「差し当たり」が示す現在とは現時点から未来に向かってやや幅がある時間を表し現時点そのものを指すのでない点で「目下」「当面」と異なります。したがって「彼はさしあたり試験勉強で必至だ」「さしあたっての問題をまず解決する」は誤用で、正しくは「彼は目下試験勉強で必至だ」「当面の問題をまず解決する」とそれぞれ表現しますよ。

「差し当たり」の語源は?

次に「差し当たり」の語源を確認しておきましょう。「差し当たり」は「差し当る」から派生した言葉。それでは「当」の漢字の成り立ちについて説明しますね。「当」は田んぼをあらわす「田」と、見合う意味の音を示す「尚」とを合わせた字。田んぼの広さに見合った金額のことから、「つりあう」「あたる」の意味を表します。

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