この記事では「一顧だにしない」について解説する。
端的に言えば一顧だにしないの意味は「少しも考えないこと」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
元国語科教員のminを呼んです。一緒に「一顧だにしない」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/min
高等学校の国語科教員として、授業や受験対策、小論文の講座を3年間経験。主に現代文を担当し、言葉に関する指導を幅広く経験してきた。現在はWebライターを目指して勉強中。
「一顧だにしない」には、次のような意味があります。
一顧だにしない
読み方:いっこだにしない
わずかに振り返ってみることもしない。まったく顧みない。顧慮しない。歯牙にも掛けない。一顧の価値もないことを「一顧だに値しない」とも言う。
出典:実用日本語表現辞典
「いっこだにしない」と読み、「ちょっと振り返ってみることもしない」など、簡単に言えば「無視をする」という意味であるとも言えます。
「一顧」は「ちょっと振り返ってみること・考えてみること・注意を払うこと」という意味です。そこに「〜さえしない」という意味の「だにしない」という言葉がセットになって、こうした表現となっています。それぞれの言葉の詳しい意味については、次の語源のコーナーで説明していきますね。
次に「一顧だにしない」の語源を確認しておきましょう。
「一顧」の意味は先ほども説明しましたが、さらに詳しく見ていきます。「顧」という漢字は「後方や過去を振り返る」という意味を持った漢字で、「顧みる(かえりみる)」とも読む言葉です。「もう一度来て見る」「背後を振り向く」の意味の他に、「回想する」「反省する」「気に掛ける」「心配する」などの意味で使われます。
次に「だに」ですが、「〜さえ」「〜すら」という意味の副助詞です。基本的には下に打ち消しの言葉を伴って「〜さえ(すら)しない」という形で用いられます。古文を勉強している方は「打ち消しを伴う呼応表現」として学習しているかもしれませんね。
つまり、これらの語がセットになることで「一顧だにしない」は「ちょっと振り返ってみることもしない」「わずかですら考えたり注意を払ったりしない」という意味になっているのです。
\次のページで「「一顧だにしない」の使い方・例文」を解説!/
「一顧だにしない」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.その企画を見直してはどうかと提案したものの、上司は一顧だにしなかった。
2.一度目の失敗を一顧だにしなかった彼女は、またもや同じ失敗を繰り返した。
3.彼が適当に考えたこのプランは一顧だに値しない。
「わずかに振り返ってみることもしない」「ちょっと考えてみることもしない」という意味ですので、例文のような文脈で用いられます。
1は、せっかく提案した企画を上司が「少しも考えてくれなかった、検討してくれなかった」という意味ですね。2は、「少しも振り返ったり、反省したりしなかった」ために同じ失敗をしてしまったという場面で使われています。
3については、辞書の解説で紹介されていた「一顧だに値しない」の言い回しで例文を用意しました。「ちょっと考えるほどの価値さえもない」という意味にしたいときはこの「一顧だに値しない」という表現も使うことができますので、合わせて覚えておくと良いでしょう。
辞書の引用文でちらっと登場していました。「しがにもかけない」と読むことわざで、「無視をする」という意味を持っています。「一顧だにしない」の言い換えによく使われる言葉です。
「歯牙」は漢字の通り、元々は「歯」「牙」を表す言葉でしたが、どちらも口の中にあるもの、ということから転じて「ことばの議論」の意味を持つようになりました。「歯牙にも掛けない」は「わざわざ取り上げて議論の対象にしない」ということから「無視をする」という意味で解釈されています。
こちらの表現も「一顧だにしない」と同じ意味の言葉としてぜひ知っておいてください。
\次のページで「その2「一瞥」」を解説!/
「いちべつ」と読み、意味は「ちらっと目をやること」「横目で見ること」です。「一顧」と似た使い方をされる表現として紹介します。
「一瞥」は「相手を軽蔑する場合」「無視する場合」によく使われる言葉です。「一瞥」だけではそうした意味になりませんが、「こちらを一瞥しただけで立ち去っていった」「一瞥もくれない」といった言い方をすれば、そうしたニュアンスを出すことができます。
「一顧だにしない」を「一瞥」を使って言い換える場合は、否定表現をセットにすることで「無視をする」という表現にすることができるので、覚えておきましょう。
次に、「一顧だにしない」の対義語について見てみましょう。「一顧する」がそのまま対義語にもなり得ますが、ここではせっかくなので違う表現を挙げていきます。
「いっこう」と読むこの言葉を対義語として紹介します。「一考」は「改めて一度考えてみること」を指し、このまま使えば「一顧だにしない」とは反対の意味です。つまり、「一顧だにしない」の否定表現を省いた「一顧」と似た意味の言葉、ということですね。「一考を要する」「一考をお願いいたします」といった形で使われます。
他にも「よくよく考えること」という意味の「熟考(じゅっこう)」も対義語として挙げられるでしょう。
「一顧だにしない」の英訳を考えるときは、「一顧」という表現からアプローチしていきましょう。「顧」は「考えること」「注意すること」「振り返ること」という意味でした。どの意味を強調したいかによって置き換える英単語も変わってきますが、代表的なものは「配慮・注意」を指す「attention」、「考慮・考察」であれば「considerarion」といった単語になるでしょう。
これに「少しも〜ない」という表現を足すことができれば「一顧だにしない」の英訳の完成です。「no 〜」や、「否定表現+”少し”という意味の英単語」など、方法はさまざまですので、例文を参考にしてみてください。
また、「無視する」と表現する場合は、類義語で紹介した「一瞥」の英訳の「glance」という単語を使って言い回すこともできます。こちらも例文で紹介しておりますので、ぜひチェックしてみてください。
He paid no attention to a person’s warning.
彼は人の警告に対して一顧だにしなかった。
He didn’t give the slightest consideration to the plan.(slightestは「slight(少し)」の最上級)
彼はその計画を一顧だにしなかった。
This work isn’t worth even glance.
この作品には一顧の価値もない。
\次のページで「「一顧だにしない」を使いこなそう」を解説!/
この記事では「一顧だにしない」の意味・使い方・類語などを説明しました。
1つの言い回しの中に大切なことが多く詰まった表現でした。日本語の難しい言葉や表現は多く存在しますが、その言葉自体は知らなくとも、自分の持つ知識を駆使することで意味を推測していくことも可能です。そのためには、日々知らない言葉に出会った時にどうアプローチしていくかが大切、ということですね。