「頭角を現す」の語源は?
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それでは、「頭角を現す」の語源となった故事について確認していきましょう。ここで、小学館の『故事成語を知る辞典』の記述を参照してみましょう。
頭角を現す
[使用例] 彼は以前日雇大工をやっていたので補充兵のなかでは作業の面で頭角をあらわして便利がられていたが[野間宏*真空地帯|1952]
[由来] 八~九世紀の中国の文人、韓愈の文章の一節から。亡くなった友人の柳宗元が、若いころからすでに大成していて、科挙の試験にも合格して才能を見せたことを、「嶄然として頭角を見す(山がそびえるようにその頭の先を見せた)」とたとえています。
このように、「頭角を現す」とは中国の唐の時代の詩人・思想家である柳宗元のことをほめたたえる文章の中で用いられたということがわかりました。
また、「頭角を現す」にはその前につくフレーズがあり、合わせて「嶄然として頭角を現わす」ということも明らかになりました。「嶄然」(よみかたは”ざんぜん”)とは日常生活では見慣れない言葉ですね。「嶄」という漢字は「険しい山が高くそびえたつ」と言う意味を持っており、韓愈が、柳宗元の若くから多くの優秀なライバルたちに優って科挙(古代中国の公務員任用試験)に合格したというその抜きんでた才覚を(他の山から抜きんでて)高くそびえたつ山にたとえたということになります。
そうして高い山がそびえるようにして他の優秀な者たちの中から頭を出してきたという意味で「頭角を現す」と言う表現が用いられたわけです。ここでは「頭角」を、頭、もしくは頭の先の意味で用いていますね。これで、抜きんでて優れた才能を表すのに「頭角」という言葉が使われる謎が解決されました。
「頭角を現す」の使い方・例文
今度は「頭角を現す」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.作曲家として有名なベートーヴェンだが7歳でコンサートデビューをするとたちまち鍵盤楽器奏者として頭角を現した。
2.北条早雲の下克上により戦国時代の関東地方は後北条氏が頭角を現していった。
3.高名な先生の指導のもと、彼は数学者としてめきめきと頭角を現した。
「頭角を現す」は、1.の例文のように稀有な才能のを持った個人が台頭する様子を表すのにも使われますし、2.で示したように戦国時代のような群雄割拠の状態で○○氏のような一族が勢力を伸ばしていく場面でも用いることができます。例えば企業の中で出世していく人に対して、その企業の中で「頭角を現す」ということもできますし、その企業が成長して業界内で「頭角を現す」ということもできるわけです。
また、「頭角を現す」ということばはしばしば「めきめきと」という副詞とともに用いられます。
「頭角を現す」の類義語は?違いは?
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頭角を現すは中国の故事から生まれた語ですが、似たような意味を持つ外来語として「プレゼンス」と言う言葉を類義語として挙げます。ビジネスシーンで用いられることの増えてきた言葉で、「プレゼンスが高まっている」であるとか、「プレゼンスを増す」のように使う言葉です。
「プレゼンス」
外来語「プレゼンス」は英語の単語”presence”から来ている言葉です。”presence”には「存在感」という訳があり、そこから業界における企業や、国際社会における特定の国などが、競合する組織や国の中で存在感を持ったり影響力を持ったりしたときに「プレゼンスを持ち始めた」だとか、「プレゼンスを増している」のように用います。外来語ということもあり、主に政治やビジネスの場面で用いられることが多い言葉です。
「頭角を現す」の対義語は?
厳密にいうと「頭角を現す」と反対の意味の言葉ではないのですが、語の構成が似ている「馬脚を露す」と言う言葉を挙げます。
「馬脚を現す」
「頭角を現す」が「頭」を現すのに対し、「馬脚を現す」は「馬の脚」を現すという点で意味は全く異なりますが見た目の似ている言葉で、「隠していた悪いことが明るみになる」という意味を持っています。
こちらも中国で生まれた言葉といわれていて、複数の語源説があるようなのですが、中国の演劇で馬の足の役を務める演者がうっかり姿を見せてしまうというエピソードがもとになっているという説が有力のようです。
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