この記事では「手をこまねく」について解説する。

端的に言えば手をこまねくの意味は「何もしないで傍観している」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

今回は難関私大の文学部を卒業し、表現技法にも造詣が深い十木陽来を呼んです。一緒に「手をこまねく」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/十木陽来

難関私大の文学部卒ライター。現代文芸の表現技法を学びながら趣味で小説を書いたりもしてきた。その知識を使って様々な言葉の意味をわかりやすく丁寧に解説する記事を書いている。

「手をこまねく」の意味や語源・使い方まとめ

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皆さんは「手をこまねく」の正しい意味を知っていますか? 実は意味を勘違いしている人が非常に多い慣用句であるといわれています。この記事を読むことで正しい意味を理解し、日常で活用してもらえると幸いです。

それでは早速「手をこまねく」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「手をこまねく」の意味は?

「手をこまねく」は意味を誤解している人が多いと先ほど述べましたが、辞書には次のような意味が書かれています。

1.両手の指を胸の前で組んで敬礼する。中国で行われたあいさつの方法。
2.腕組みをする。手をつかねる。
3.何もしないで傍観している。手をつかねる。腕をこまぬく。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「手をこまねく」

特に注目してほしいのは3の意味です。「手をこまねく」の本来の意味は「何もしないでいる」なのですが、「準備をして待ちかまえる」という意味で覚えている、使っている例が非常に多くなっています。

令和元年度に文化庁が行った『国語に関する世論調査』では、「手をこまねく」を本来の意味で使用している人は37.2パーセント、後者の意味で使用している人は47.4パーセントという調査結果が出ました。平成20年度にも同様の調査を行っているのですが、当時の調査の結果は、本来の意味で使用している人は40.1パーセント、後者の意味で使用している人は45.6パーセントだったので、本来の意味ではない方で使っている人が増えていることがわかります。将来この差が更に広まっていくのか、それとも本来の意味の方が盛り返してくるのか、注目したいところです。

「手をこまねく」の語源は?

次に「手をこまねく」の語源を確認しておきましょう。「こまねく」は「こまく」が変化したものといわれており、どちらも漢字では「拱く」と書きます。では「こまぬく」がどういう状況をさすのかといいますと、実は先ほど引用した辞書の意味1にも書かれていましたが、指を胸の前で組む動作が中国の敬礼の手法の一つなのです。また、その様子が腕を組んでいるように見えることから、単純に腕を組むこともさします。何もしないでいる時には腕を組んでいる場合が多いことから、「何もしないでいる」という意味で「手をこまねく」という慣用句が使われるようになりました。

しかし、腕を組んでいる様子が待ち構えているようにも見えることから、「待ち構える」という意味が広まったものと思われます。言葉の由来を調べれば本来の意味を理解できる場合が多いのですが、「手をこまねく」に関しては、例外的に語源で誤解を解消するのは難しいかもしれません。

\次のページで「「手をこまねく」の使い方・例文」を解説!/

「手をこまねく」の使い方・例文

それでは「手をこまねく」の本来の意味での使い方を、例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.ニュースでは最新の新型ウイルス関連の情報が毎日たくさん発信されているが、日々の生活に対する具体的な対策は出ないまま手をこまねいている。
2.全国に対して最新のオンラインソフトの開発を今日発表したいが、サイト管理人に何か問題が発生したのか会場に現れず、自分はそのまま手をこまねくしかできなかった。

例文1では何かをしなければならないのにしていない、というニュアンスで用いられています。一方で例文2では本当に何もすることができない、というニュアンスです。このように「手をこまねく」は主体となる本人に行動する能力があるか否か、行動するべきかそうでないかに関わらず使用することができます。ただし、動くことが可能なのにあえて何もしないという場面ではあまり使われません。

「手をこまねく」の類義語は?違いは?

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「手をこまねく」と似たような意味を持つ言葉はいくつかあります。ここではその一例をご紹介しましょう。

その1「指をくわえる」

「指をくわえる」は「うらやましがりながらも、何も手を出せずにいる」という意味の慣用句です。積極的に加わりたい、手を出したいと思っているにも関わらず「手をこまねいて」いるというニュアンスですね。「手をこまねく」は行為に対して積極的でも消極的でもどちらでも使うことができますが、「指をくわえる」は行為に対して積極的である場合に用いられることがほとんどです。

\次のページで「その2「座して死を待つ」」を解説!/

その2「座して死を待つ」

「座して死を待つ」は「戦うことをせず、そのまま滅んでいこうとする態度や姿勢」を表す慣用句です。何か行動を起こさなければ滅んでしまうのに、ただ「手をこまねいて」いるといったニュアンスで用いられます。「手をこまねいた」先に待つのは必ず悪い結果であることが、この慣用句の特徴です。

その3「袖手傍観」

「袖手傍観」とは「ただ何もせずその場で見ていること」を表す四字熟語です。「手を拱く」と書いて「拱手傍観」と書かれることもあります。こちらは特に重要な事柄などに対してやらなければならないことがあるのに、手をこまていて何もしないでいることに批判するニュアンスで用いられることが多いです。四字熟語の出典は韓愈の「柳子厚を祭るの文」からとなっています。

「手をこまねく」の対義語は?

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「手をこまねく」とは反対の意味を持つ言葉はいくつかあります。ここではその一例をご紹介しましょう。

「当たって砕けろ」

「当たって砕けろ」とは「成功するかどうかわからなくても、思い切ってやってみろ」という意味の慣用句です。「手をこまねく」が行動すべきであってもそうでなくても何もできないでいるのに対し、「当たって砕けろ」は成功するか否かに関わらずとにかく行動するべきというニュアンスで用いられます。

「手をこまねく」を使いこなそう

この記事では「手をこまねく」の意味・使い方・類語などを説明しました。皆さんは本来の意味で正しく使えていたでしょうか? 「間違って覚えてた!」という方も、今回を機にしっかりと理解を深めていきましょう。決して「手をこまねいて」いる場合ではありませんよ。

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国語言葉の意味

【慣用句】「手をこまねく」の意味や使い方は?例文や類語を文学部卒Webライターがわかりやすく解説!

この記事では「手をこまねく」について解説する。

端的に言えば手をこまねくの意味は「何もしないで傍観している」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

今回は難関私大の文学部を卒業し、表現技法にも造詣が深い十木陽来を呼んです。一緒に「手をこまねく」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/十木陽来

難関私大の文学部卒ライター。現代文芸の表現技法を学びながら趣味で小説を書いたりもしてきた。その知識を使って様々な言葉の意味をわかりやすく丁寧に解説する記事を書いている。

「手をこまねく」の意味や語源・使い方まとめ

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皆さんは「手をこまねく」の正しい意味を知っていますか? 実は意味を勘違いしている人が非常に多い慣用句であるといわれています。この記事を読むことで正しい意味を理解し、日常で活用してもらえると幸いです。

それでは早速「手をこまねく」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「手をこまねく」の意味は?

「手をこまねく」は意味を誤解している人が多いと先ほど述べましたが、辞書には次のような意味が書かれています。

1.両手の指を胸の前で組んで敬礼する。中国で行われたあいさつの方法。
2.腕組みをする。手をつかねる。
3.何もしないで傍観している。手をつかねる。腕をこまぬく。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「手をこまねく」

特に注目してほしいのは3の意味です。「手をこまねく」の本来の意味は「何もしないでいる」なのですが、「準備をして待ちかまえる」という意味で覚えている、使っている例が非常に多くなっています。

令和元年度に文化庁が行った『国語に関する世論調査』では、「手をこまねく」を本来の意味で使用している人は37.2パーセント、後者の意味で使用している人は47.4パーセントという調査結果が出ました。平成20年度にも同様の調査を行っているのですが、当時の調査の結果は、本来の意味で使用している人は40.1パーセント、後者の意味で使用している人は45.6パーセントだったので、本来の意味ではない方で使っている人が増えていることがわかります。将来この差が更に広まっていくのか、それとも本来の意味の方が盛り返してくるのか、注目したいところです。

「手をこまねく」の語源は?

次に「手をこまねく」の語源を確認しておきましょう。「こまねく」は「こまく」が変化したものといわれており、どちらも漢字では「拱く」と書きます。では「こまぬく」がどういう状況をさすのかといいますと、実は先ほど引用した辞書の意味1にも書かれていましたが、指を胸の前で組む動作が中国の敬礼の手法の一つなのです。また、その様子が腕を組んでいるように見えることから、単純に腕を組むこともさします。何もしないでいる時には腕を組んでいる場合が多いことから、「何もしないでいる」という意味で「手をこまねく」という慣用句が使われるようになりました。

しかし、腕を組んでいる様子が待ち構えているようにも見えることから、「待ち構える」という意味が広まったものと思われます。言葉の由来を調べれば本来の意味を理解できる場合が多いのですが、「手をこまねく」に関しては、例外的に語源で誤解を解消するのは難しいかもしれません。

\次のページで「「手をこまねく」の使い方・例文」を解説!/

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