今日は食材の話です。俺はそんなグルメじゃないが、最近食材で「熟成〇〇」と聞くよな。「熟成」がつくと味がより深くなって美味しい、なんだか格上な感じがするよな。一見サイエンスに関係しないような話ですが、「熟成」には多くのサイエンスの視点から説明できるぞ。生物に詳しいライターmimosa(ミモザ)と一緒に解説していきます。

ライター/mimosa

もともと文系出身で、独学で生物学、生化学を勉強し、現在医学系研究所の研究アシスタントとして理系の世界へ飛び込んだ。理科が苦手な方へも興味を持ってもらうべくわかりやすい説明を心掛けている。

熟成と発酵の違い

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食材を熟成させるのは、かつては現在ほど物流が盛んではなく、生鮮食品の鮮度が落ちてもおいしく食べられるようするために先人の知恵で活用されました。また、オールシーズンある食材をある一定の数を確保することが難しかったので保存食にするためにも活用されましたよ。

「熟成」に似たものとして「発酵」がありますが、両者は少し違います。熟成と発酵について説明していきますね。熟成は畜肉についての説明になります。

熟成とは

熟成とは、食品を柔らかくし、うま味や風味を出し、品質を向上させるための工程になりますよ。なぜお肉が柔らかくなったりおいしくなったりするかというと、自然に含まれる酵素によって、タンパク質が分解されてアミノ酸へ変化するからですよ。(細菌の酵素を利用することもあります。)

英語ではエイジング(aging)とも言いますね。時間をかけて食材をねかせることを指しますよ。エイジングにはドライエイジングウェットエイジングがありますよ。一般的にはよくドライエイジングの製法が使われており、風を当て続けることでお肉が含む余分な水分を飛ばし、タンパク質やミネラル成分を凝縮します。ウェットエイジングは、真空包装して熟成させる方法ですよ。

発酵とは

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発酵とは、酵母菌や乳酸菌などの微生物が糖質を分解して有機酸や二酸化炭素、アルコールなどを作り出すことですよ。発酵食品をつくる過程で、発酵させたのち「ねかせる」など熟成の工程を経るので、広義では、発酵は熟成の内に入りますよ。

発酵食品は、味噌、醤油、お酒(日本酒)、ワイン、チーズ、ヨーグルトなど古くから食卓に馴染みのあるものばかりですね。

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熟成させるとなぜおいしいのか

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熟成とは、簡単に言うと、素材を寝かせることです。そして熟成をエイジングとも言います。新鮮なお肉はみずみずしくて柔らかいのですが、味は淡白な感じです。これを腐敗させずにお肉を柔らかくうま味を引き出さなければなりません。

熟成はタンパク質が酵素によって分解されることというのは上記で触れましたが、具体的にどのような仕組みか見ていきましょうね。

お肉のタンパク質について

お肉のタンパク質について

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食肉として流通している畜肉(赤身肉)はもちろん筋肉ですよね。筋肉にも平滑筋(内臓筋)、横紋筋(骨格筋)、心筋がありますが、赤身肉は横紋筋です。赤身肉を構成するのは、何本もの強い収縮性のある筋原線維タンパク質と結合組織タンパク質(コラーゲン)ですよ。筋原線維タンパク質はアクチン、ミオシン、アクトミオシンなどであり、加熱することで収縮して硬くなります。結合組織タンパク質は、加熱を続けるとゼラチン化してほぐれやすくなりますよ。

熟成の仕組み

熟成の仕組み

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お肉が柔らかくなるのは、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が筋肉の中の筋原線維を弱くし切断され、コラーゲンを分解することによりますよ。

タンパク質はアミノ酸がペプチド結合で連結しているものであり、プロテアーゼがペプチド結合を切断することにより、アミノ酸ができます。うま味成分はグルタミン酸ということは聞いたことがあるかもしれませんんが、グルタミン酸はアミノ酸の一種ですよ。熟成することによってこれでうま味が増すのですね。

プロテアーゼにはいろいろな種類がありますが、食品に含まれるプロテアーゼを利用することは家庭料理でもなじみがあると思います。しょうが、こうじ、キウイ、パイナップルにはプロテアーゼが含まれていますよ。お肉の臭みを消すためだけではなかったのですね。

自宅で熟成肉は作れるのか

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お肉を熟成するのにあたって、特別な場所はいりませんが、上記でも触れたように、うまみや薫りを引き出すのはいかに水分を飛ばすかなので、温度、湿度、微生物が混入の管理がしっかりしていることが条件となりますよ。温度や湿度の管理がうまくいかないと、微生物の活動が活発になり、せっかくのお肉が腐敗してしまいます。

ではどうすればいいのか。どの家庭にでもある食塩を使えばできそうです。塩分で水分を吸着することはできます。お漬物や塩漬けも同じような原理ですね。

\次のページで「自宅で熟成肉を作るときの注意点」を解説!/

自宅で熟成肉を作るときの注意点

自宅で熟成肉を作るときの注意点

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一番気をつけておかないといけないのは、衛生面です。一般家庭の台所は、細菌や真菌(カビ)などの病原体が目には見えなくてもたくさん存在しています。無菌状態に空間を保つのは無理です。お肉に微生物が付着したとしても、温度や湿度を低くして微生物の活動を抑えることが大切ですね。食中毒の原因菌である黄色ブドウ球菌、大腸菌、カンピロバクターは37℃くらいで活動が活発になり繁殖します。

これらの菌よりも致死率の高い食中毒の原因菌はボツリヌス菌です。嫌気性の菌なので、真空状態を好んで繁殖します。ハチミツはボツリヌスの芽胞に汚染されている場合があるので、1歳未満の乳児には与えたらいけません。念のため記載しておきますね。

寄生虫についてですが、まず寄生虫がついた肉は流通しないのですが、こちらも念のため記載します。肉質中の寄生虫の卵はお肉を長い期間熟成させて乳酸発酵させると死滅しますよ。⁻5℃で4日間冷凍処理をするのも有効ではありますよ。

熟成か劣化によるものかの判断も素人では難しいですね。これらのことにより、食中毒のリスクを考えたら、初心者では難しいようです。

サイエンスの力でお肉がおいしくなる

熟成は、お肉自らのタンパク質を分解する酵素の働きによってなされるものです。特別な機械や薬品を使わずに行われますよ。お肉の可食部位は筋肉であり、それを構成する筋線維には数種類のタンパク質がありました。タンパク質分解酵素がそれぞれのタンパク質に働きかけ、変性させることで食感が柔らかくなりますよ。食感だけでなく、かたいペプチド結合しているタンパク質の連結を解き、うまみ成分であるアミノ酸をつくりだすのです。

このように、熟成の仕組みはサイエンスの力のたまものですね。

今回は深く話題を掘り下げませんでしたが、発酵も微生物の力を借りて糖の代謝をしているのでサイエンスの力のたまものです。熟成の仕組みを知っていると、家庭で料理するときもちょっと応用できそうですね。

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理科生物

「熟成」の仕組みとは?食材に深みやうまみが増すのはなぜ?サイエンスの視点から理系ライターがメカニズムをわかりやすく解説

今日は食材の話です。俺はそんなグルメじゃないが、最近食材で「熟成〇〇」と聞くよな。「熟成」がつくと味がより深くなって美味しい、なんだか格上な感じがするよな。一見サイエンスに関係しないような話ですが、「熟成」には多くのサイエンスの視点から説明できるぞ。生物に詳しいライターmimosa(ミモザ)と一緒に解説していきます。

ライター/mimosa

もともと文系出身で、独学で生物学、生化学を勉強し、現在医学系研究所の研究アシスタントとして理系の世界へ飛び込んだ。理科が苦手な方へも興味を持ってもらうべくわかりやすい説明を心掛けている。

熟成と発酵の違い

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食材を熟成させるのは、かつては現在ほど物流が盛んではなく、生鮮食品の鮮度が落ちてもおいしく食べられるようするために先人の知恵で活用されました。また、オールシーズンある食材をある一定の数を確保することが難しかったので保存食にするためにも活用されましたよ。

「熟成」に似たものとして「発酵」がありますが、両者は少し違います。熟成と発酵について説明していきますね。熟成は畜肉についての説明になります。

熟成とは

熟成とは、食品を柔らかくし、うま味や風味を出し、品質を向上させるための工程になりますよ。なぜお肉が柔らかくなったりおいしくなったりするかというと、自然に含まれる酵素によって、タンパク質が分解されてアミノ酸へ変化するからですよ。(細菌の酵素を利用することもあります。)

英語ではエイジング(aging)とも言いますね。時間をかけて食材をねかせることを指しますよ。エイジングにはドライエイジングウェットエイジングがありますよ。一般的にはよくドライエイジングの製法が使われており、風を当て続けることでお肉が含む余分な水分を飛ばし、タンパク質やミネラル成分を凝縮します。ウェットエイジングは、真空包装して熟成させる方法ですよ。

発酵とは

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発酵とは、酵母菌や乳酸菌などの微生物が糖質を分解して有機酸や二酸化炭素、アルコールなどを作り出すことですよ。発酵食品をつくる過程で、発酵させたのち「ねかせる」など熟成の工程を経るので、広義では、発酵は熟成の内に入りますよ。

発酵食品は、味噌、醤油、お酒(日本酒)、ワイン、チーズ、ヨーグルトなど古くから食卓に馴染みのあるものばかりですね。

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