この記事では「抉る」について解説する。

端的に言えば抉るの意味は「刃物などを突き刺してくりぬく」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

さまざまな分野の本に触れ、知識を培ってきた「つゆと」を呼んです。一緒に「抉る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/つゆと

子供の頃からの筋金入り読書好きライター。むずかしい言葉や複雑な描写に出会っても、ねばり強く読みこんで理解することをポリシーとする。言葉の意味も、妥協なくていねいに解説していく。

「抉る」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「抉る」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「抉る」の意味は?

「抉る」には、なんと5つの読み方があるのです。それぞれに少しずつ違う意味があるため、全て紹介します。

1.刃物などを深く刺し入れ、回して穴をあける。くりぬく。
2.心に強い衝動や苦痛を与える。
3.物事の隠れた面を鋭く追及する。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抉る(えぐる)」

1.棒などで、穴の中をかきまわす。
2.えぐって中の物を取り出す。
3.堅い物を突き刺して穴をあける。うがつ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抉る(くじる)」

1.すきまなどに物をさし入れてねじる。
2.ひねくれた言い方をしたり、抗議したりする。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抉る(こじる)」

\次のページで「「抉る」の語源は?」を解説!/

土などをすくい取る。また、掘りうがつ。掘る。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抉る(さくる)」

1.中がくぼむように、えぐる。
2.すくうようにして上げる。しゃくう。
3.あごを前に出して頭部をやや後ろに引く。
4.すくうようにして動かす。あやつる。
5.そそのかす。おだてる。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抉る(しゃくる)」

「抉る」だけで「えぐる」「くじる」「こじる」「さくる」「しゃくる」と、5つも読み方があるのです。驚きですね。共通するするイメージは「穴を開ける」「穴に差し込む」「穴から取り出す・すくう」といったところでしょうか。

代表的なのは「えぐる」ですが、他の読み方もまったく見ないわけではありません。例えば「こじる」。「こじ開ける」の形で使いますよね。「閉じたすき間にものを差し込んだりして、むりやりに開ける」という意味です。

「しゃくる」の「あごをしゃくる」という使い方もよく見ます。「釣り糸をしゃくる(釣り糸を動かす)」というのも聞きますし、昭和初期の生まれの人からは「さじでしゃくって食べる(スプーンですくって食べる)」という言い方を聞くこともありますよ。

「抉る」だけで5つの読み方があるという知識は、トリビアとして使えそうですね。このあとは「えぐる」と読む「抉る」について説明していきます。

「抉る」の語源は?

次に「抉る(えぐる)」の語源を確認しておきましょう。「抉」の右側の部分は、コの字型の道具を使ってものを削り取る様子をあらわしています。左側の「手へん」と合わせて「抉」。意味はまさに「抉る(えぐる)」です。

「抉る」は「刃物などを突き刺してくりぬく」という意味ですが、「こころを抉られる」のように「精神的な衝撃や苦しみを与える」という意味でも使います。また「ことの核心を抉る」のように、「真相を鋭く追及する」という意味でも使いますね。これらの意味は、もともとの「鋭い刃物を突き刺し、くりぬいて中のものを取り出す」イメージから派生したと考えられます。

「抉る」の使い方・例文

「抉る」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.香港に住んでいる叔母さんはおやつ作りが得意だった。手軽に作れる焼きりんごや、プロレベルのかぼちゃパイ…。僕は叔母さんが大好きで、りんごの芯を抉るとかかぼちゃを裏ごしするとか、喜んでお手伝いしたものさ。
2.アメリカに到着した私は、親切にしてくれたネイティブの若者と恋に落ちた。私は日本語しか話せなかったし、彼が話すゆっくりの英語もほとんど理解できなかったけど、彼と一緒に山盛りのポテトフライをシェアしていれば、それで幸せだった。胸を抉られるような恋はもうしたくない。私はこれで十分だった。
3.例の事件だけど、防犯カメラに痕跡がまったく映ってないって話題になってるよな。でも逆に、そこから真相を抉りだすことが可能なんじゃないか?

例文1の「抉る」は、刃物などを突き刺してくりぬくという意味です。焼きりんごを作るときには、果物ナイフなどで芯をくりぬく作業をします。

例文2の「抉る」は、精神的な衝撃や苦しみを与えるという意味です。「胸を抉られるような恋」とは、ときに心に突き刺さるような痛みを感じる恋のことでしょう。彼女はアメリカに飛んで、いっとき幸せを得たのです。

例文3の「抉る」は、真相を鋭く追及するという意味。防犯カメラに証拠がいっさい映っていないという特殊な状況が、逆に、真相をつかむ手立てになるのではないかと考えたのですね。

「抉る」の類義語は?違いは?

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「抉る」の類義語には「穿つ(うがつ)」があげられます。

「穿つ(うがつ)」

「穿つ(うがつ)」には「ものごとの本質をとらえる」という意味もあるのですが、「穴をあける」「貫く」という意味もあります。「トンネルを穿つ」とは、穴を掘ってトンネルを通すという意味です。「雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ)」という故事成語も有名ですね(下に引用を掲載)。

「抉る」は、刃物などを突き刺して、回転させるようにして穴をあける動作。「穴をあける」という意味合いが「穿つ」と似ているといえます。

例えば野球の「打者の胸元を抉るようなインコース高めの球」という表現。ピッチャーの手元から打者の胸元近くをかすめてキャッチャーのミットまで、鋭い刃物が突き刺さるように空間を貫くボール、そんなイメージを伝えているのでしょう。「空間をまっすぐ穿つボール」と使えば、同じイメージをあらわせるのではないでしょうか。

雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ)
どんなに小さな力でも、根気よく続けていればいつか成果が得られるということのたとえ。軒下から落ちるわずかな雨垂れでも、長い間同じ所に落ち続ければ、ついには硬い石に穴をあける意味から。

出典:故事ことわざ辞典

「抉る」の対義語は?

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「抉る」の対義語は見つかりません。

「抉る」とは「刃物などを突き刺して穴をあける」またはそうしてあけた穴から「中身を取り出す(くりぬく)」という意味。「刺す」の反対の「抜く」という意味合いまでを自身で持っている言葉のため、対義語になる概念を探すのは困難です。

ここでは「心を抉る」と対になる概念を「心に空いた穴を埋める」と考え、「癒やす(いやす)」を紹介しましょう。

\次のページで「「癒やす(いやす)」」を解説!/

「癒やす(いやす)」

「癒やす(いやす)」とは、苦しみや悲しみをやわらげて、くつろぐ気持ちにさせることです。傷や病気を治す意味もあります。「精神的な衝撃や苦しみを与える」という意味をもつ「抉る」とは、反対の意味の言葉といえるでしょう。

「いやす」は「癒やす」「癒す」と、2つの表記があります。辞書にも二通り載っているのですよ。新聞などでは内閣告示による「送り仮名の付け方」のルールにのっとり、「癒やす」と使われます(「癒える」と送り仮名をそろえるため)。一般的によく使うのは「癒す」の表記のようですね。

「抉る」を使いこなそう

この記事では「抉る」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「抉る(えぐる)」には「刃物などを突き刺してくりぬく」「精神的な衝撃や苦しみを与える」「真相を鋭く追及する」の3つの意味があります。それぞれ「脇腹を抉られるような痛み」「心を抉られる」「核心を抉る」のように使いますね。

「胸元を抉る球」を「カーブのラインを描いて、胸元に近づき離れていく」イメージでとらえていた人はいませんか?正しくは「鋭い刃物が突き刺さるように胸元をかすめていく」ですよ。この記事をきっかけに覚えていただけたら幸いです。

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国語言葉の意味

「抉る」の意味や使い方は?例文や類語を読書家Webライターがわかりやすく解説!

この記事では「抉る」について解説する。

端的に言えば抉るの意味は「刃物などを突き刺してくりぬく」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

さまざまな分野の本に触れ、知識を培ってきた「つゆと」を呼んです。一緒に「抉る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/つゆと

子供の頃からの筋金入り読書好きライター。むずかしい言葉や複雑な描写に出会っても、ねばり強く読みこんで理解することをポリシーとする。言葉の意味も、妥協なくていねいに解説していく。

「抉る」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「抉る」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「抉る」の意味は?

「抉る」には、なんと5つの読み方があるのです。それぞれに少しずつ違う意味があるため、全て紹介します。

1.刃物などを深く刺し入れ、回して穴をあける。くりぬく。
2.心に強い衝動や苦痛を与える。
3.物事の隠れた面を鋭く追及する。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抉る(えぐる)」

1.棒などで、穴の中をかきまわす。
2.えぐって中の物を取り出す。
3.堅い物を突き刺して穴をあける。うがつ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抉る(くじる)」

1.すきまなどに物をさし入れてねじる。
2.ひねくれた言い方をしたり、抗議したりする。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「抉る(こじる)」

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