今回の記事では「アミロプラスト」という用語について学習していこう。

アミロプラストは植物にみられる細胞小器官の一種です。中学や高校の理科では登場しない単語かもしれませんね。実は、アミロプラストは我々のよく知っている”ある細胞小器官”の仲間です。どのような構造・機能をもっているのか、ザックリ学んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

アミロプラストとは?

アミロプラスト(amyloplast)とは、植物細胞に見られる細胞小器官である色素体(読み:しきそたい)の一種です。

一般的に、「色素体」とよばれる細胞小器官には、名前の通り”色”のついている色素をもっているものが多くあります。たとえば、光合成をする細胞小器官である葉緑体は、同じ色素体の仲間です。

しかしながら、アミロプラストは、この色素体の仲間でありながら、緑や赤などの色素がふくまれていません。色素体の中でも色がない(白っぽい)ものはまとめて白色体などとよばれます。そのため、「アミロプラストは白色体の一種」と紹介している文章もありますね。

アミロプラストの構造

アミロプラストは内外2枚の膜で形作られています。これは、他の色素体にも共通した構造です。

内部には、大きなデンプン粒が存在します。それも、容積のほとんどをデンプン粒が占めているのです。このデンプン粒のため、アミロプラストは顕微鏡で観察すると白っぽく見えます。

Potato - Amyloplasts.jpg
CC 表示-継承 3.0, リンク

アミロプラストには、デンプン粒が一つだけ含まれているものと、複数のデンプン粒がアミロプラスト内にみられるものがあります。

\次のページで「アミロプラストがたくさん見られるところ」を解説!/

そうですね。では、植物の中でどんなところにアミロプラストが多く見られるか、具体例を見てみましょう。

アミロプラストがたくさん見られるところ

読者の皆さんの中には、小学校や中学校の理科の時間に、デンプンの存在を確認する簡単な実験をやった経験がある方もいらっしゃるでしょう。ヨウ素溶液(ヨウ素ヨウ化カリウム溶液)をかけると、デンプンのあるところは紫色になる…「ヨウ素デンプン反応」をみる、あの実験です。

そのような実験でよく使われる植物の代表が、ジャガイモサツマイモ。イモ類のほくほくとした触感は、デンプンがたっぷり含まれているからこそ得られるものです。

お米(ごはん粒)でも同じような実験ができます。お米はイネという植物の胚乳部分ですが、ここにもたくさんのデンプンが含まれていますね。

お米は私たち日本人にとっての重要な主食ですが、パンや麺類の材料となるコムギも、デンプンのたくさん含まれた胚乳部分を利用します。

また、アズキやダイズといったマメ類にもデンプンが多く含まれますね。

image by iStockphoto

以上のような植物の部分には、たくさんのアミロプラストがみられます。

ちなみに、同じイネ科のイネとコムギでも、アミロプラスト内にあるデンプン粒の数には違いがあるようです。イネの胚乳では一つのアミロプラスト内に複数のデンプン粒がみられますが、コムギでは一つのデンプン粒があるのがふつうだといいます。

また、形状にも少しづつ違いがあるようです。

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いえいえ、そういうわけではないんです。上にご紹介したのは、あくまでアミロプラストが「たくさんみられる部分」。上記の植物でも、またそれ以外の植物でも、根や葉、茎などにアミロプラストは存在しています。

アミロプラストの役割

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アミロプラストの役割で代表的なものは、デンプンの貯蔵です。植物は光合成によってデンプンをつくり出し、細胞の栄養源としています。

十分に光合成ができるとき、豊富にできたデンプンをアミロプラストに蓄積しておくことで、光合成ができない場合でも養分を得ることができるのです。

さて、ここからはやや専門的な話をしましょう。

じつはアミロプラストには、もうひとつの重要な役割が提唱されています。それが、「根が重力を感じるしくみ」にアミロプラストが関わっているというものです。

重力とアミロプラスト

植物を注意深く観察していると、刺激に反応してからだの一部を曲げる屈性(くっせい)という性質がみられます。

例えば、光のさす方向に向かって茎が伸びていくような現象。これは、光を刺激とした屈光性です。光合成をしなくてはならない植物にとって、光のさす方向へからだを伸ばすことは、とても意味のあることでしょう。

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根に注目すると、そこでは重力屈性という性質がみられます。重力に引っ張られるように、地中深くへ根を伸ばしていく現象です。根は地中からの水分を吸い上げる器官ですから、間違って地上に出てしまわないよう、”下へ生長する”ということが必要になりますよね。

\次のページで「細胞小器官の研究に期待!」を解説!/

なんと、植物では根に存在するアミロプラストが沈む方向を、重力の方向として感受しているようなのです。

根の中でも、根冠という部分にコルメラ細胞とよばれる細胞があります。ここにあるアミロプラストが重力によって動き、その方向に応じて植物ホルモンのオーキシンが輸送され、根が曲がっていくことが近年わかってきました。

image by Study-Z編集部

”認識”という言葉を使うのが正しいかどうかはわかりませんが…アミロプラストが根の方向を制御・調節する機構に深く関連しているということは、間違いないようです。

「根が深く伸びていく」という当たり前に思える現象ですが、このアミロプラストのはたらきが最近分かったように、その仕組みはまだ完全は解明されていません。近頃になって、遺伝子レベルの解析も進められるようになってきました。今後、さらに詳しい仕組みが分かっていくと期待されています。

細胞小器官の研究に期待!

アミロプラストは、デンプンをため込むだけのものではなく、重力屈性にも関係している細胞小器官でした。私は初めにこれを知ったとき、とても驚いたのですが…皆さんはどうでしょうか?

何気ない細胞小器官でも、研究が進むことで「別の役割も持っていた!」という事実が発見されることがあります。生物の体や細胞には、まだまだ隠された謎や秘密がたくさん存在しているのです。これからどんな新しい発見があるのか、期待がふくらみますよね。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

細胞小器官のひとつ「アミロプラスト」とは?重力にも関係あり?現役講師がかんたんわかりやすく解説!

なんと、植物では根に存在するアミロプラストが沈む方向を、重力の方向として感受しているようなのです。

根の中でも、根冠という部分にコルメラ細胞とよばれる細胞があります。ここにあるアミロプラストが重力によって動き、その方向に応じて植物ホルモンのオーキシンが輸送され、根が曲がっていくことが近年わかってきました。

image by Study-Z編集部

”認識”という言葉を使うのが正しいかどうかはわかりませんが…アミロプラストが根の方向を制御・調節する機構に深く関連しているということは、間違いないようです。

「根が深く伸びていく」という当たり前に思える現象ですが、このアミロプラストのはたらきが最近分かったように、その仕組みはまだ完全は解明されていません。近頃になって、遺伝子レベルの解析も進められるようになってきました。今後、さらに詳しい仕組みが分かっていくと期待されています。

細胞小器官の研究に期待!

アミロプラストは、デンプンをため込むだけのものではなく、重力屈性にも関係している細胞小器官でした。私は初めにこれを知ったとき、とても驚いたのですが…皆さんはどうでしょうか?

何気ない細胞小器官でも、研究が進むことで「別の役割も持っていた!」という事実が発見されることがあります。生物の体や細胞には、まだまだ隠された謎や秘密がたくさん存在しているのです。これからどんな新しい発見があるのか、期待がふくらみますよね。

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