今回は「報酬系」という用語について学習していこう。

「報酬系」という言葉は、中学や高校の生物学では登場しないが、我々の普段の生活に大きく影響している”脳の仕組み”です。動物行動学のほか、心理学の方面でも耳にすることがあるな。スマホ依存やSNS依存といった問題にも大きく関係している。身に覚えのあるやつはぜひ一読してほしい内容です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

楽しいことがやめられない?

皆さんは今、インターネットに接続してこの記事をご覧になっているはずです。インターネットって、楽しいものがいっぱいありますよね。

SNSや動画サービス、好きなアイドルのブログや、興味のある情報がまとめられているサイト…時間がたっぷりあるときにはよい暇つぶしになりますが、勉強や仕事など、やらなきゃいけないことがあるのに「やめられない」ことってありませんか?

「やめたくてもやめられない」「ついその作業を続けてしまう」…そんな行動をするとき、私たちの脳内では”報酬系”とよばれる仕組みが関係していると考えられているんです。最近はSNS依存スマホ依存などの問題で、この報酬系が注目されています。

image by iStockphoto

\次のページで「報酬系の発見」を解説!/

だからこそ、報酬系とよばれる脳の仕組みの基本を知っておいてほしいのです。

報酬系のしくみを知れば、「やめられない」を解決するヒントが得られるかもしれません。また、報酬系を上手く利用することで「やらなきゃいけないこと」「苦手なこと」に取り組む姿勢を改善できる可能性もあります。

報酬系の発見

報酬系についての研究の歴史で有名なのが、1950年代にカナダの大学にて、オールズとミルナーによって行われた実験です。彼らは、ラット(ねずみ)の脳内に電極を埋め込み、レバーを押すと電気が流れるようなしくみを考案しました。

脳内に電気が流れるというのは恐ろしいように感じますが、位置を調節すると、電気刺激はラットにとっては「心地よい刺激」となったようです。ラットは「レバーを押す→良い刺激がくる」ということをすぐに学習し、何回も繰り返しレバーを押し続けました。

この行動は『脳内自己刺激行動』と名付けられます。そして、研究者たちは脳のどの部分がこの行動をとらせるのかを調べたのです。

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そののち、「”報酬”が得られ・欲求が満たされるという期待や、心地よい感情に関係している脳の領域」報酬系とよばれるようになりました。ラットの実験の場合、レバーを押すことで感じられる「心地よい刺激」が”報酬”となっていたのです。

脳内の報酬系の領域が活性化することで、ある行動を積極的に行ったり、その行動をやめなかったりといった”行動の選択”が引き起こされます。

報酬系に深く関係する”中脳”と”線条体”

脳の色々なところが報酬系に関与していることが分かっています。そのなかでもとくに重要なはたらきを示すのが中脳の腹側被蓋野(ふくそくひがいや)と、線条体の側坐核(そくざかく)とよばれる部分です。

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線条体は、大脳のすぐ下に位置している部位です。

大脳の皮質や視床、脳幹は、大脳基底核(だいのうきていかく)とよばれる神経細胞の集まりによって結び付けられています。線条体は、この大脳基底核に含まれる部分なんです。

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中脳の腹側被蓋野には、ドーパミン神経とよばれる神経があります。これは、”ドーパミン”という物質を神経伝達物質として放出する神経です。ドーパミン神経は長くのびていて、その先でドーパミンが放出されると、喜び心地よさといった感情を感じます。

とくに、このドーパミンが線条体の側坐核に放出されると、私たちの脳はその時にしている行動を”強化”しようとする、ということが分かっています。もう少し言い換えれば、(より快感を得るために)その行動を続けようとするのです。

”報酬”が得られる行動を続ければ、また”報酬”が得られ、ますますその行動をやめにくくなっていく…「やめなきゃいけないのにやめられない」という状態は、この報酬系が機能しているために引き起こされるといえます。

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さらに、実際に”報酬”を得られていないときでも、「”報酬”が得られるという期待」があれば、腹側被蓋野は活性化されるといいます。

腹側被蓋野の活性化によりドーパミンが放出され、”報酬”をめざして行動し、実際に”報酬”が得られるとさらにドーパミンが放出される…これは、何か行動を起こすときの「やる気」や「向上心」にも関わってくる仕組みです。

”報酬系”が一因となる問題

野生動物にとって、報酬系における”報酬”は、食料水分子孫を残すパートナーなどであったと考えられます。それらの”報酬”を得るために、積極的な行動をしたり、うまくいった行動を学習し次回につなげる…そのために報酬系は不可欠な仕組みです。

しかしながら、私たち人間の生活では、この報酬系が機能することが一因となり、引き起こされる”問題”がいくつもあります。

\次のページで「報酬系を勉強や仕事に利用するには?」を解説!/

「本人やその周囲がそれによってどれだけ困っているか」という観点も必要なので、一概に”問題”、”悪”とは言い切れないのですが、「やめたいのにやめられない」という悩みがあるのならば、やっぱり”問題”でしょうね。

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他によく知られているものでは、覚せい剤などの薬物依存アルコール依存ニコチン依存などがあげられます。覚せい剤やお酒、タバコは摂取するとすぐにドーパミンの量を増やしてしまう物質です。いうならば、非常に簡単に「快楽」という報酬が手に入ってしまいます。

報酬系を勉強や仕事に利用するには?

報酬系は本来、問題を引き起こすための仕組みではありません。やる気や向上心といった「生きる力」、物事を続ける「やりぬく力」の源となるものです。上手に利用すれば、私たちの生活をよりよくしてくれるでしょう。

勉強や仕事にこれを利用する方法の一つに、「作業の途中で”報酬”を得られるようにする」というものがあります。一度にたくさん作業するのではなく、チェックリストを作って項目を一つずつ消していったり、簡単な小テストをするなどして「達成感」を得られるようにしましょう。たとえ小さくても、「達成感」は私たちの脳にとって十分な”報酬”になります。”報酬”を得た脳は、次の”報酬”にむかってまたドーパミンを出してくれるはずです。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 脳の不思議なしくみ「報酬系」とは?スマホ依存症の仕組みとは?現役講師がわかりやすく解説します – Study-Z
体の仕組み・器官理科生物

脳の不思議なしくみ「報酬系」とは?スマホ依存症の仕組みとは?現役講師がわかりやすく解説します

今回は「報酬系」という用語について学習していこう。

「報酬系」という言葉は、中学や高校の生物学では登場しないが、我々の普段の生活に大きく影響している”脳の仕組み”です。動物行動学のほか、心理学の方面でも耳にすることがあるな。スマホ依存やSNS依存といった問題にも大きく関係している。身に覚えのあるやつはぜひ一読してほしい内容です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

楽しいことがやめられない?

皆さんは今、インターネットに接続してこの記事をご覧になっているはずです。インターネットって、楽しいものがいっぱいありますよね。

SNSや動画サービス、好きなアイドルのブログや、興味のある情報がまとめられているサイト…時間がたっぷりあるときにはよい暇つぶしになりますが、勉強や仕事など、やらなきゃいけないことがあるのに「やめられない」ことってありませんか?

「やめたくてもやめられない」「ついその作業を続けてしまう」…そんな行動をするとき、私たちの脳内では”報酬系”とよばれる仕組みが関係していると考えられているんです。最近はSNS依存スマホ依存などの問題で、この報酬系が注目されています。

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