ライター/Caori
国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。
1.メセルソンースタールの実験とは
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1957年アメリカの研究者マシュー・メセルソンとフランクリン・スタールは、窒素の同位体と密度勾配遠心法を用いてDNAの2本鎖はもとの鋳型からコピーされて半保存的に複製されて出来ていることを示しました。この証明に用いた実験を、2人の名前をとってメセルソン-スタールの実験と呼びます。
1953年、ジェームス・ワトソンとフランシス・クリックによってDNAの二重らせん構造が提唱され、塩基配列が遺伝情報を担っていることや、遺伝がDNAの複製によって起こることが説明できるようになりました。当然、DNAの複製のしくみにも大きな関心が寄せられ、ワトソンとクリックはDNAの複製について3つの仮説を立てましたが残念ながら証明には至りませんでした。その後、この3つの仮説をもとにDNAの半保存的複製を証明した実験がメセルソンースタールの実験です。
ワトソンとクリックによるDNA複製の3つの仮説

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細胞が分裂したとき、それぞれの娘細胞は親の細胞のDNAの正確なコピーを受け継いでいます。細胞は分裂するときに新しいDNAの2本鎖を複製しているものとして、ワトソンとクリックは、表のようなDNAの複製の3つの仮説を立てました。
1つめは、元のDNA鎖はそのままに保存し、それと同じものを複製する。全く元の通りの鎖と全く新しい鎖ができる保存的複製。2つめは、元の鎖は部分部分に分かれ、それを補う形で新しい鎖が作られる。新しい二重鎖は、それぞれに部分的に古い鎖を含む不連続的複製(分散的複製)。3つめはもとのDNA鎖を二つに分け、それぞれを鋳型として新しいDNA鎖を作る。新たに生じた二本の二重鎖はそれぞれに古い鎖を一本ずつ含む半保存的複製です。ワトソンとクリックはこの仮説の証明には至りませんでしたが、のちにメセルソンとスタールによってDNAは半保存的複製であることが証明されました。
2.メセルソン-スタール実験の方法-窒素の同位体の利用-
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メセルソンとスタールは、ワトソンとクリックが立てた3つの仮説のうちどの仮説が正しいかを窒素同位体と密度勾配遠心法を利用して検証することにしました。
二人はDNAの構成成分である窒素に目をつけ、窒素の同位体である窒素15と窒素14を用いました。大腸菌は分裂する際に、周りの培養液を取り込んでDNAの複製を行うため、まず窒素15を含む培地で大腸菌を培養すると、窒素15で構成されたDNAをもつ大腸菌が生成されます。次に、この大腸菌を窒素14を含む培地に移して分裂させると、今度は窒素14を使ってDNAを合成するので、もともとの窒素15を持つDNA鎖とは重さで区別できる仕組みです。窒素14の培地に移してから1回分裂した時、2回分裂した時に沿ってDNAを取り出し、その重さを調べることで複製のしくみを明らかにしようとしました。
密度勾配遠心法
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窒素15と窒素14を含む培養液で分裂させた後は、それぞれの培養液の大腸菌がもつDNAの重さの違いを調べなければなりません。しかし、その重さの差はわずかのため、メセルソンとスタールは「密度勾配遠心法」という方法を開発しました。
まず濃い塩溶液(塩化セシウム液)を試験管に入れて高速で遠心分離をすると、遠心力により、試験管の底の方ほど塩濃度が高く、上に行くほど塩濃度が低い勾配を作ります。ここにDNAを溶かして遠心分離すると、DNAは塩の密度と釣り合う位置に沈み、狭いバンドを形成する仕組みです。つまり、「窒素15のみ」を含むDNA分子は重たいので試験管の底の方に引っ張られ、「窒素14のみ」を含むDNAは「窒素15のみ」のバンドより試験管の上の部分に。そして「窒素15と14の両方を含むDNA」は、その含有割合により「窒素15のみ」と「14のみ」のバンドの中間の位置に存在すると推測されます。
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