平安時代日本史

平安時代に日本とインドをつないだ「今昔物語集」について元大学教員が5分で解説

no-img2″>
 <figcaption class=桜木建二

たび重なる戦乱や社会変動による民衆の不安が増大。そのような時代に今昔物語は生れたのではないかと言われている。今昔物語が知られるようになったのは近世になってから。それまではほとんど世に知られていなかった。

2.楽しく読める今昔物語の構成

image by PIXTA / 70916139

今昔物語は、インド、中国、日本にわたるアジア文化圏の説話を集めたもの。そのため、すべてを読むというのはなかなかたいへんです。それでも、本朝(日本)の説話はこっけいな話、恋愛、盗賊談、鬼の話、化け物の話、親孝行の子(孝子)の話など、楽しく読めるものばかり。そのため古典の初心者におすすめです。

異国の話が満載の今昔物語

当時の日本人にとって世界はふたつ。現在のインドである天竺と、現在の中国と韓国の一部を含む震旦だけでした。そして、古代アジアの国々にとって共通な思想は仏教。今昔物語は、まず天竺から始まります。1巻から3巻はお釈迦さまの生誕から入滅(死)までの話。4巻は、お釈迦さま亡き後の弟子たちの話。5巻は、お釈迦さまが生れる前の天竺の世界。仏教がどんなふうに、どんな形で広まっていったかの話です。

6巻から9巻は震旦の仏教にまつわる話。10巻は震旦の国の歴史にまつわる話です。当時の日本にとって中国は文化の源で憧れの的でした。さらには見習うべき国でもあります。中国の文化である漢字こそ唯一の文字。そのため、天竺から伝わってきた仏教を震旦の人々がどのように受け止め、吸収しながら広めていったのかを知りたい気持ちは大きかったのです。

本朝(日本)の話はいきいきとした人間話

インドと中国はまじめな話が多いのですが、日本の話はもっと気軽なもの。生き生きとした人間の姿が描かれていることが特徴です。仏法部は、仏教渡来,流布、僧侶にまつわること。世俗部は、合戦、歌物語。恋愛、天狗、妖怪、武士、日本の四季の美しさや、芸能にまつわる話などが含まれました。武士が活躍するなど中世が近づいてくる様子を感じさせる話もあります。

雨宿りをきっかけに一夜を共にした純愛物語、カブを食べて妊娠した話、色恋に落ちて身を滅ぼした僧侶の話、滝の裏側に別世界があった話など、その話の内容はとても豊富で個性的。キツネになった女の話、旅の途中、病気になった男が美しい女に一晩中介抱され、目が覚めたら女は盗賊だったというドラマのような話もあります。大きな津波で村が消えた話は実話だったのかもしれません。

no-img2″>
 <figcaption class=桜木建二

今昔物語にはユーモラスな話も多い。面白いのは平中という男がある女に夢中になった話だ。女の便器を盗み出して、なかをのぞいてみたところ、丁子のよい香りがして便は金色に輝いていたという話は、思わずくすっと笑ってしまう。

3.近代作家に大きな影響を与えた今昔物語

image by PIXTA / 74759414

平安時代に成立した今昔物語。実は、芥川龍之介、武者浩二実篤、堀辰夫、海音寺潮五郎など多くの近代作家に大きな影響を与えたことでも知られています。芥川龍之介は今昔物語について「野性的な美しさにあふれている」と評価。古い時代の説話であるのに、内容は人間の本質的な弱さ、愚かさ、こっけいさなどが描かれている今昔物語。古典であると同時に今にも通じる心があります。

芥川龍之介の作品における今昔物語

「鼻」は芥川龍之介が書いた初期の作品。今昔物語の20巻に由来したものです。京都のある僧は、鼻が長いことからいつも周囲の人に笑われていました。ある時に鼻を短くする方法を知った僧はやさっそくチャレンジ。めでたく成功して鼻が短くなりました。すると周囲の人から前よりも笑われるように。しかしある朝、目がさめると前のように長い鼻に戻っていて、それから笑われなくなったというストーリーです。

もう一つ芥川龍之介の「羅生門」は、今昔物語の29巻と31巻を元にした作品。仕事を失った身分の低い男が羅城門の近くを通りかかると、死んだ女の髪の毛を抜いてかつらにし、それを売っている老婆に出会います。なぜそのようなことをするのか質問してみると「生きるため」という答えが。それなら自分も生きるためだと言って、老婆の着物をはぎ取って逃げたところで物語は幕を下ろします。

次のページを読む
1 2 3 4
Share:
hikosuke