この記事では「建立」について解説する。

端的に言えば「建立」の意味は「築き上げること」です。寺社仏閣など仏教的な建造物を建てる例を挙げる辞書が多いが実は言葉の持っている意味の幅はもっと広い。正確なニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「建立」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。寺社仏閣好き。

「建立」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「建立」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。今回検討していく「建立」は読み方は特殊ですが「こんりゅう」と読むのが一般的ですが、辞書には「けんりつ」という読み方で項目が掲載されているものもありますので注意が必要です。「建立」は、一般的に寺社仏閣など仏教的な建造物を建てることを指すことが多いのですが、詳しく調べてみると、仏教用語に限定されているわけではなく、もう少し語の使用範囲が広いことがわかります。一緒に「建立」の意味するものについて迫っていきましょう。

「建立」の意味は?

「建立」の意味について、まずは辞書の記述を参照してみましょう。辞書には以下のような説明が掲載されています。参照するのは『精選版日本国語大辞典』(小学館)です。ここでは「建立(こんりゅう)」と「建立(けんりつ)」の項目を引用します。

こん‐りゅう ‥リフ【建立】

〘名〙 (「こん」は「建」の呉音、「りゅう」は「立」の正音)
1. 宗派を新たに開くこと。また、寺院やその建物を新たに作ること。けんりつ。
※霊異記(810‐824)中「今磐田の郡の部内に建立せる磐田寺の塔是れなり」
2. (1から転じて) 1のため寄進を募ること。勧進。また、寄進すること。
※洒落本・娼妓絹籭(1791)二「あの如意輪観音が箔しろのこんりうに出たといふ身でほうづへをして居る女郎は」
3. うちたてること。建物のような具体的なものから、事業のような形のないものや心の中の観念のようなものまでいう。
※申楽談儀(1430)序「殊に此げいとは衆人あひぎゃうを以て、一ざこんりうのじゅふくなれば」

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「建立」より

けん‐りつ【建立】



〘名〙 建て設けること。築き設けること。

※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一「不泯の名声を建立せしむることを知るべきなり」 〔書経‐洪範〕

 

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「建立」より

と、いうわけで、「建立」に関する2つの項目をご覧いただきました。辞書に掲載されている用例の年代を見ると「建立(けんりつ)」の方が「建立(こんりゅう)」より新しいですが、辞書の記載を見る限り読み方の変遷については明らかにされていません。さて、それでは「建立」の意味について整理してみましょう。なお、読み方については次の項目で取り扱いますので読み方の謎に迫りたい方はこの後の項目を先にご覧ください。

『精選版日本国語大辞典』によると、「建立(こんりゅう)」の第一の意味は「宗派を新たに開くこと」とあります。仏教に関する用語ではありますが、一般的に知られている寺社仏閣の建設よりずっとスケールの大きな意味を持っていることをいきなり突きつけられるわけです。そして同じ項目の中に、「寺院やその建物を新たに作ること」という世間一般に知られている意味とそれに該当する『日本霊異記』の用例が続いています。また、項目の最後に「けんりつ」とある点にも注目です。つまり、「建立」の第一の意味で「けんりつ」という用法もあるということですね。

続いて、第二の意味で出てくるのが、第一の意味での「建立」を果たすために勧進や寄進をすることという意味です。説明の文に出てくる「勧進」と「寄進」とは、寺社に金品を寄付することに関する言葉で、「勧進」は他者に寄付を募ることを表すのに対して、「寄進」は自ら進んで寄付をするという意味を持っています。

そして、第三の意味として掲載されている語の意味なのですが、とても範囲が広いです。「うちたてる」という意味で用いることができるわけで、その対象は「建物のような具体的なもの」から「事業」、「観念」など形のないものにまで及びます。これが、「建立」が寺社仏閣の建設に限らないという所以なのです。

\次のページで「「建立」の読み方に隠されている謎とは?」を解説!/

「建立」の読み方に隠されている謎とは?

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次に「建立」の読み方について迫ってみましょう。「建立」は「こんりゅう」・「けんりつ」と読み方が一つではありません。「建」と「立」の漢字を見てみると、「けんりつ」と読む方が一般的なのでしょうが、言葉として知られているのは「こんりゅう」です。では、「建立」はなぜ「こんりゅう」と読めるのでしょうか

先ほど引用した『精選版日本国語大辞典』の「建立(こんりゅう)」の項目の直後に、読み方に関する記述があります。「「こん」は「建」の呉音、「りゅう」は「立」の正音」と書かれているのですがまずここから明らかにしていきましょう。「呉音」とは最も古く日本に入ってきた漢字の音読みで、「正音」とは「漢音」とも言いますが、その後遣隋使や遣唐使の時代に大陸から持ち込まれた漢字の読み方です。「建立(こんりゅう)」とは、この呉音と漢音が合わさった読みの構成の熟語と言えますね。

また「建立」の「立」の読み方には「慣用音」とか「慣用読み」という問題があります。漢和辞典を引いてみると「リツ」という読みのところには慣用読みという注記がついているのですが、現在一般的に用いられている「リツ」という読み方は正当な読み方ではないのでしょうか。「慣用読み」とは日本で独自に生まれた読み方です。

歴史的に見ると古代中国語で「立」の発音は語末が子音で終わる「入声音(にっしょうおん)」に分類されます。それが日本にわたってきて来たわけですが、日本語には子音で終わる発音はありませんから「リフ」、「リウ(リュー)」と発音されたわけです。その後時代が下るにつれて「リツ」と言う発音が生まれそれが普及し市民権を得るようになりました。「建立」も「こんりゅう」、「けんりつ」と二通りの読み方がありますが、「こんりゅう」の方がより歴史的な漢字の読み方を踏襲した読み、「けんりつ」が後に生まれた読み方が普及したものと分類することができます。

「建立」の使い方・例文

「建立」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.湯島聖堂は17世紀初頭に将軍徳川綱吉が建立した廟がはじまりである。
2.唐にわたった最澄は帰国後、天台宗を建立した。
3.家庭を建立するにあたっては相応の心構えが必要である。

それでは、先に挙げた例文について解説していきましょう。

1の「建立」は現在最も用いられている意味での用法でしょう。「建立」の対象になるものとしては宗教的建造物としては寺院や神殿、墓標や廟などがあります。このほかにも文庫(書籍や文献を収蔵する書庫)や記念碑、モニュメントなど、宗教色のないものについても使われる点は注意が必要です。

2と3については、少々古めかしい言い回しと言えます。2で示した例文は宗教を開くことを表し、また、3の「家庭の建立」は古い文学作品などには見られるのですが、このように形のないものにも「建立」が使われる時代がありました。

「建立」の類義語は?違いは?

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建立の類義語として同じく「立」を「りゅう」と読ませる「造立(ぞうりゅう)」を紹介しましょう。

\次のページで「「造立」」を解説!/

「造立」

「造立」は「建立」と非常に意味の似ている言葉で、建物、特に仏教的建造物を建てる時に使う言葉です。では「建立」との違いは何なのでしょうか。まず一つ言えるのは、「建立」における「宗教の宗派」や「事業」など、その他の領域への意味の拡張が無いということ。そしてもう一つ。ある災害を受けてTwitterで「大仏建立」という言葉がトレンド入りしたときに現役のお坊さんが「建立」は基本的には建物、仏像には「造立」を用いるとアドバイスをするツイートが反響を呼んだことがありました。仏教の世界では建物は「建立」、仏像の場合は「造立」という使い分けがあるようです。

「建立」の対義語は?

仏教的な建物、ものごとを打ち捨てる、取り壊すという意味で日本史で出てくる「廃仏毀釈」の「毀釈」と言う言葉を挙げます。

「毀釈」

日本の歴史の事件として知られる「廃仏毀釈」の時に使われる言葉で「廃仏(排仏)」と一緒に使用するのが普通です。「廃仏毀釈」とは「仏法を廃し、釈迦の教えを捨てる」と言う意味を持っています。「毀釈」の「毀」は「名誉毀損」で使われる漢字ですね。「壊す」と言う意味の漢字です。

「建立」を使いこなそう

この記事では「建立」の意味・使い方・類語などを説明しました。「建立」は主に仏教的な建造物を建てる時に使う言葉ですが、仏教的なもの以外の建造物にも使えるなど対象は広いことが明らかになり、また、歴史的には宗教の宗派や事業など、形のないものを立ち上げる意味でも使われるということもわかりました。

また、「りゅう」という少し変わった読み方についても、歴史的経緯があることもわかりました。このように「建立」は仏教用語として片づけてしまうにはもったいないくらい多様な要素を含んだ言葉です。このような言葉から関心を広げて豊かな言語生活を送っていきたいものですね。

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国語言葉の意味

「建立」の意味や使い方は?例文や類語をが日本語研究家がわかりやすく解説!

この記事では「建立」について解説する。

端的に言えば「建立」の意味は「築き上げること」です。寺社仏閣など仏教的な建造物を建てる例を挙げる辞書が多いが実は言葉の持っている意味の幅はもっと広い。正確なニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「建立」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。寺社仏閣好き。

「建立」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「建立」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。今回検討していく「建立」は読み方は特殊ですが「こんりゅう」と読むのが一般的ですが、辞書には「けんりつ」という読み方で項目が掲載されているものもありますので注意が必要です。「建立」は、一般的に寺社仏閣など仏教的な建造物を建てることを指すことが多いのですが、詳しく調べてみると、仏教用語に限定されているわけではなく、もう少し語の使用範囲が広いことがわかります。一緒に「建立」の意味するものについて迫っていきましょう。

「建立」の意味は?

「建立」の意味について、まずは辞書の記述を参照してみましょう。辞書には以下のような説明が掲載されています。参照するのは『精選版日本国語大辞典』(小学館)です。ここでは「建立(こんりゅう)」と「建立(けんりつ)」の項目を引用します。

こん‐りゅう ‥リフ【建立】

〘名〙 (「こん」は「建」の呉音、「りゅう」は「立」の正音)
1. 宗派を新たに開くこと。また、寺院やその建物を新たに作ること。けんりつ。
※霊異記(810‐824)中「今磐田の郡の部内に建立せる磐田寺の塔是れなり」
2. (1から転じて) 1のため寄進を募ること。勧進。また、寄進すること。
※洒落本・娼妓絹籭(1791)二「あの如意輪観音が箔しろのこんりうに出たといふ身でほうづへをして居る女郎は」
3. うちたてること。建物のような具体的なものから、事業のような形のないものや心の中の観念のようなものまでいう。
※申楽談儀(1430)序「殊に此げいとは衆人あひぎゃうを以て、一ざこんりうのじゅふくなれば」

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「建立」より

けん‐りつ【建立】



〘名〙 建て設けること。築き設けること。

※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一「不泯の名声を建立せしむることを知るべきなり」 〔書経‐洪範〕

 

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「建立」より

と、いうわけで、「建立」に関する2つの項目をご覧いただきました。辞書に掲載されている用例の年代を見ると「建立(けんりつ)」の方が「建立(こんりゅう)」より新しいですが、辞書の記載を見る限り読み方の変遷については明らかにされていません。さて、それでは「建立」の意味について整理してみましょう。なお、読み方については次の項目で取り扱いますので読み方の謎に迫りたい方はこの後の項目を先にご覧ください。

『精選版日本国語大辞典』によると、「建立(こんりゅう)」の第一の意味は「宗派を新たに開くこと」とあります。仏教に関する用語ではありますが、一般的に知られている寺社仏閣の建設よりずっとスケールの大きな意味を持っていることをいきなり突きつけられるわけです。そして同じ項目の中に、「寺院やその建物を新たに作ること」という世間一般に知られている意味とそれに該当する『日本霊異記』の用例が続いています。また、項目の最後に「けんりつ」とある点にも注目です。つまり、「建立」の第一の意味で「けんりつ」という用法もあるということですね。

続いて、第二の意味で出てくるのが、第一の意味での「建立」を果たすために勧進や寄進をすることという意味です。説明の文に出てくる「勧進」と「寄進」とは、寺社に金品を寄付することに関する言葉で、「勧進」は他者に寄付を募ることを表すのに対して、「寄進」は自ら進んで寄付をするという意味を持っています。

そして、第三の意味として掲載されている語の意味なのですが、とても範囲が広いです。「うちたてる」という意味で用いることができるわけで、その対象は「建物のような具体的なもの」から「事業」、「観念」など形のないものにまで及びます。これが、「建立」が寺社仏閣の建設に限らないという所以なのです。

\次のページで「「建立」の読み方に隠されている謎とは?」を解説!/

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