化学において重要な用語の一つに「化学平衡」という言葉がある。これは「AからB」という化学反応と「BからA」という逆反応が同じ速度で起こっている状態で、このときに成り立つ法則が「質量作用の法則」です。
質量作用の法則は高校化学の受験やテスト問題でよく出てくる項目です。そこで今回は例題を解きながら質量作用の法則、化学平衡について詳しく学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学んだ後、メーカーで研究職として勤務。大学時代の専門である物理化学を中心に、化学全般の知識が豊富なライター。

1.質量作用の法則と濃度の関係

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原子や分子が反応することで別の物質を生み出す化学反応、これは化学の中心にあるとも言える現象です。ただしすべての化学反応が完全に進行するわけではありません。途中で反応が停止しているように見える化学反応も多数あります。このように反応が止まっているように見える状態を「化学平衡」と呼び、このときに成り立つのが「質量作用の法則」です。

化学平衡、ならびに質量作用の法則は物質の濃度や物質量(モル)を用いた式で表されます。この式は受験でよく使うものであり、理系の方々は予備校の講習などで学んだかもしれませんね。この章では質量作用の法則について学んだ後、実際に式を使って濃度などの計算をしてみましょう。

1-1.質量作用の法則とは

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一般的な化学反応として「反応物AとBが生成物CとDに変化する」というものを考え、化学反応式におけるそれぞれの係数をa,b,c,dとします。この反応でAとBがすべてCとDに変換されるのではなく、反応物が一定量消費されたところで見かけの反応が停止、すなわち「平衡状態」に達したとしましょう。このとき、以下の式が成り立ちます。

つまり平衡状態においてはA,B,C,Dの濃度がどんな値だとしてもKが一定になるわけです。この式のことを「質量作用の法則」と呼び、Kを「平衡定数」と呼びます。なお、Kが一定になるのは温度や圧力が一定のときであることに注意してください。

1-2.物質濃度を用いた平衡定数計算法

質量作用の法則は平衡状態における濃度を計算する上で非常に重要です。以下では実際に質量作用の法則を用いて物質の濃度や平衡定数を計算してみましょう。

\次のページで「1-3.平衡定数を用いた濃度計算法」を解説!/

【問題】

ある一定の体積Vを持った容器の中に2.50molの水素H2と2.50molのヨウ素I2を入れて一定の温度に保った。これらの気体からヨウ化水素HIが生成する反応が平衡状態になったとき、水素は0.50molであった。このときの平衡定数Kの値を求めよ。

【解答】

まずは化学反応を書いてみましょう。水素分子とヨウ素分子は2つの原子が結合した分子ですので、ヨウ化水素HIとの化学平衡と平衡定数の式は以下のように表されます。

ここで平衡状態における水素は0.50molであるので、2.00molの水素が消費された、すなわち平衡状態のヨウ素は0.50mol、ヨウ化水素は4.00molです。濃度に換算するには体積Vで各成分の物質量を割れば良いので、平衡定数は以下のようになります。

1-3.平衡定数を用いた濃度計算法

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次は逆に平衡定数から濃度を求めてみましょう。変数xを使った2次方程式を用いるので、解の公式などを思い出しながら解いてみてください。

【問題】

以下の水溶液反応の平衡定数Kは0.70である。0.30molのAと0.50molのBを水1Lに溶かしたとき、平衡における各成分の濃度を求めよ。

【解答】

各係数はすべて1であるため、平衡におけるC,Dの濃度がx(mol)ならばAは0.30-x(mol),Bは0.50-x(mol)となりますね。また水1Lに溶かした場合なので、今回はモル濃度としてそのまま平衡定数の式に代入できます。

2次方程式の解の公式を使ってxを求めてみましょう。なお、xは濃度なので正の値を持つ必要がある点に注意してください。

従ってAは0.13mol,Bは0.33mol、CとDは0.17molとなります。

2.質量作用の法則と化学平衡

前の章では質量作用の法則の式を用いて化学平衡の計算を行いました。この章では質量作用の法則や化学平衡について、もう少し詳しく見ていきましょう。はじめに反応速度と平衡定数の関係を学び、その後に温度や圧力変化が起こったときの平衡定数の変化を学んでいきましょう。

2-1.反応速度と平衡定数

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化学反応において重要なキーワードの一つが「反応速度」です。反応速度は化学反応の種類によって異なりますが、実験から求めることができます。例えば先程の例題で使った水素とヨウ素からヨウ化水素が生成する反応では、反応速度定数kを用いて反応速度を以下のように表すことが可能です。

ところで平衡状態は反応が止まっているわけではありません。平衡状態とは「正反応と逆反応が同じ速度で起こっている状態」です。つまり上で表した反応速度を用いると以下のように表すことが出来ます。

つまり反応速度の速度定数の比が平衡定数になるわけです。ちなみに平衡定数をさらに厳密に導出するためには大学で学ぶ化学熱力学の知識が必要となります。

\次のページで「2-2.温度や圧力変化と平衡定数の変化」を解説!/

2-2.温度や圧力変化と平衡定数の変化

Lechatelier.jpg
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Lechatelier.jpg, パブリック・ドメイン, リンクによる

今までは定圧、定温時の平衡を学びました。最後に温度や圧力が変化したときに平衡定数がどのように変化するか見ていきましょう。反応が平衡状態のときに温度や圧力、濃度が変化すると正反応、逆反応どちらかの方向に平衡が移動します。この平衡移動に関連するのが「ルシャトリエの原理」です。

ルシャトリエの原理とは、「濃度や圧力、温度が変化したとき、その変化量を抑える方向に平衡が移動する」というもので、簡単な例としては「温度を上げると発熱反応が起きにくくなる」などが挙げられます。そして平衡移動が起こると反応系は新たな平衡状態に落ち着き、そこでの平衡定数も一定の値です(ただし、元の平衡定数と値は異なります)。

化学平衡は非常に重要な項目なので計算に慣れておこう

今回は化学平衡において重要な質量作用の法則を学びました。化学平衡は高校化学の試験で頻出な項目であり、大学での化学でもテキストでよく見かける項目です。また化学平衡は溶液、気体、更には水蒸気と水などの気液平衡など様々な場面で登場します。条件によって式の形は少し変わりますが、基本的には同じなので化学を学ぶ人は今からしっかり慣れておきましょう。

ちなみに余談ですが、なぜ「質量」が式に入っていないのに「質量作用の法則」と呼ぶのでしょうか。実はこれは法則を発見したC.グルベルとP.ウォーゲが式に登場する[A]などを「活性質量」と呼んでいたことに由来するようです。実際はモル濃度などで成り立つ式で質量は関係ないので気をつけてくださいね。

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化学化学平衡物質の状態・構成・変化理科

5分で分かる「質量作用の法則」受験でよく出る式を計算して理解を深めよう!京大卒の研究者が丁寧にわかりやすく解説!

化学において重要な用語の一つに「化学平衡」という言葉がある。これは「AからB」という化学反応と「BからA」という逆反応が同じ速度で起こっている状態で、このときに成り立つ法則が「質量作用の法則」です。
質量作用の法則は高校化学の受験やテスト問題でよく出てくる項目です。そこで今回は例題を解きながら質量作用の法則、化学平衡について詳しく学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学んだ後、メーカーで研究職として勤務。大学時代の専門である物理化学を中心に、化学全般の知識が豊富なライター。

1.質量作用の法則と濃度の関係

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原子や分子が反応することで別の物質を生み出す化学反応、これは化学の中心にあるとも言える現象です。ただしすべての化学反応が完全に進行するわけではありません。途中で反応が停止しているように見える化学反応も多数あります。このように反応が止まっているように見える状態を「化学平衡」と呼び、このときに成り立つのが「質量作用の法則」です。

化学平衡、ならびに質量作用の法則は物質の濃度や物質量(モル)を用いた式で表されます。この式は受験でよく使うものであり、理系の方々は予備校の講習などで学んだかもしれませんね。この章では質量作用の法則について学んだ後、実際に式を使って濃度などの計算をしてみましょう。

1-1.質量作用の法則とは

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一般的な化学反応として「反応物AとBが生成物CとDに変化する」というものを考え、化学反応式におけるそれぞれの係数をa,b,c,dとします。この反応でAとBがすべてCとDに変換されるのではなく、反応物が一定量消費されたところで見かけの反応が停止、すなわち「平衡状態」に達したとしましょう。このとき、以下の式が成り立ちます。

つまり平衡状態においてはA,B,C,Dの濃度がどんな値だとしてもKが一定になるわけです。この式のことを「質量作用の法則」と呼び、Kを「平衡定数」と呼びます。なお、Kが一定になるのは温度や圧力が一定のときであることに注意してください。

1-2.物質濃度を用いた平衡定数計算法

質量作用の法則は平衡状態における濃度を計算する上で非常に重要です。以下では実際に質量作用の法則を用いて物質の濃度や平衡定数を計算してみましょう。

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