この記事では「憮然」について解説する。

端的に言えば憮然の意味は「失望した様子」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「憮然」の意味や例文、広く誤用されている例などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

小説などに登場する「憮然」の意味を勘違いしており、文化庁の調査で誤用に気づいたらしい。憮然とはどんなときに使う言葉なのか、似た言葉との使い方の違いについても解説してもらう。

「憮然(ぶぜん)」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「憮然」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「憮然」の意味は?

「憮然」には、次のような意味があります。

失望・落胆してどうすることもできないでいるさま。また、意外なことに驚きあきれているさま。[補説]近年、「憮然たる面持ちで」とした場合、「腹を立てているような顔つき」の意味で使われることが多くなっているが、本来は誤り。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

辞書にも「補説」として触れられているとおり、「憮然」は本来の意味とは異なった使い方をしてしまう人がとても多い言葉です。

文化庁が過去3回、「憮然」の意味として「失望してぼんやりしている様子」と「腹を立てている様子」のどちらだと思うか調査しています。その結果、3回すべてで誤用である「腹を立てている様子」を選んだ人のほうが多いという結果でした。

ぼんやりしている様子なら「呆然(ぼうぜん)」のほうが思い浮かびやすいことや、「ぶぜん」という音から「ぶすっと」とか「ぶつぶつ言う」など不機嫌な様子をイメージしやすいことが背景にあるのかもしれませんね。

「憮然」の語源は?

次に「憮然」の語源を確認しておきましょう。

まず「憮」という字には、「がっかりする、いつくしむ」の意味があります。また、「然」は状態を表す語を作るときに用いる字。「公然」「同然」などと言いますね。

この憮然の使用例は、古くは論語にも見られます。「微子第十八」に登場する「夫子(ふうし)憮然としていわく」という表現。これは「先生ががっかりして言われることには」を表します。

\次のページで「「憮然」の使い方・例文」を解説!/

「憮然」の使い方・例文

「憮然」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・教え子たちの女性とは思えないマナーの悪さを目にして、教師は憮然とした表情になった。

・今日は政府の無責任さを露呈した意外すぎるニュースを聞いて、憮然としてため息をつくしかなかった。

・かんしゃく持ちの彼は、怒りのあまり憮然として立ち去った。

1つ目は失望している様子、2つ目は驚き呆れている様子を表す例文です。3つ目では、誤用ではありますが不機嫌な様子について使われる「憮然」も挙げておきました。

なお、言葉の意味や辞書での解説は時代とともに変化するものです。この「憮然」の意味としても、最近の辞書では「不機嫌、不満」を挙げているものも出てきています。小学館の「精選版日本国語大辞典(平成18年)」や三省堂の「大辞泉第3版」がその例です。

 

「憮然」の類義語は?違いは?

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では、「憮然」と似た意味の言葉を見ていきましょう。「失望してがっかり」と「驚きあきれる」の両方の意味を併せ持つ言葉はほかに見当たらないので、それぞれの意味の類義語を紹介します。

その1「悄然(しょうぜん)」

元気がなくしょんぼりしている様子を表します。「悄」の訓読みは「うれえる」で、ほかに「しおれる」という意味もありますよ。

何か嫌なこと、重大な悲しみに触れ、憂いに沈む様子を「しょんぼり」と表してもいいのですが、文章に書くなら「悄然として」と使うと格調高く感じますね。

なお、「悄然」には「憮然」の持つ「驚きあきれる」の意味はありません。

\次のページで「その2「呆然(ぼうぜん)」」を解説!/

その2「呆然(ぼうぜん)」

気が抜けてぼんやりしている様子を表します。思いがけない出来事に遭遇し、言葉も出ないようなときのこと。「呆然として立ち尽くす」といった表現を見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。この驚いた内容ですが、サプライズで誕生日パーティーをしてもらったといった「うれしいこと」には「呆然」はふさわしくないので注意しましょう。

ほぼ同じ意味で、「唖然(あぜん)」も驚きのあまり絶句する場合に用いられます。

「呆然」「唖然」ともに、とにかく驚いたことを強調できる語で、「失望、落胆」といったニュアンスは持っていません。

・日本人を代表して現状について意見を言ったが、まったく興味を持ってもらえず悄然として帰路についた。

・先週発表されたの石油価格の高騰ぶりには呆然としてしまった。

・「うそ偽りなく真実を述べる」という宣誓とは裏腹の供述に、唖然として言葉もなかった。

「憮然」の対義語は?

「失望してがっかり」と「驚きあきれる」両方の意味を持つ「憮然」には、その両方を満たす対義語は存在しません。それぞれの意味の反対を表す語を見てみましょう。

その1「昂然(こうぜん)」

自信に満ちて意気盛んな様子を表します。「昂」は上昇する、感情が高ぶるの意味で、「激昂する」とも使いますね。なお「昴(すばる」」という字ととても紛らわしいので気をつけましょう。

その2「泰然(たいぜん)」

落ち着き払って動じないさまをいいます。「泰然自若(たいぜんじじゃく)」と四字熟語にしても意味は同じです。「泰」の字に「落ち着いている、やすらか」の意味があり、「天下泰平」などとも使われますね。

「憮然」の英訳は?

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最後に、英語で「憮然」と言いたい場合の表現をご紹介します。

\次のページで「その1「sadly」」を解説!/

その1「sadly」

「憮然」を「失望してがっかり」のニュアンスで用いる場合の英訳は、「悲しげに」という意味のsadlyが一番簡単でしょう。

もう少し形式ばった表現をするならdispiritedlyもありますよ。辞書では「しょんぼりと、悄然と」と訳されています。

その2「dumbfounded」

「憮然」を「驚きあきれる」の意味で使うときは、英語表現は「dumbfounded」がいいでしょう。「物が言えないほどびっくりして」という意味で、「唖然」の英訳としても使うことができます。

その3「glumly」

そもそもは誤用ではありますが、「不機嫌な」の意味で「憮然」が使われる場合の英訳は「glumly」をおすすめします。「ぶすっと、憮然として、不機嫌そうに」の意味があるためです。

同様に、「morosely」も「不機嫌な態度で」という意味を持っていますよ。

「憮然」を使いこなそう

この記事では「憮然」の意味・使い方・類語などを説明しました。世論調査でも意味を誤解している割合が高いと判明している「憮然」。こうした言葉は、正しい意味だけでなく誤用例も知っておかないと、相手の意図を正確に把握することができませんね。類義語や対義語として「○然」とつく用語もたくさん紹介しました。ぜひ併せて覚えておき、使いこなせるようにしてください。

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国語言葉の意味

「憮然」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「憮然」について解説する。

端的に言えば憮然の意味は「失望した様子」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「憮然」の意味や例文、広く誤用されている例などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

小説などに登場する「憮然」の意味を勘違いしており、文化庁の調査で誤用に気づいたらしい。憮然とはどんなときに使う言葉なのか、似た言葉との使い方の違いについても解説してもらう。

「憮然(ぶぜん)」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「憮然」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「憮然」の意味は?

「憮然」には、次のような意味があります。

失望・落胆してどうすることもできないでいるさま。また、意外なことに驚きあきれているさま。[補説]近年、「憮然たる面持ちで」とした場合、「腹を立てているような顔つき」の意味で使われることが多くなっているが、本来は誤り。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

辞書にも「補説」として触れられているとおり、「憮然」は本来の意味とは異なった使い方をしてしまう人がとても多い言葉です。

文化庁が過去3回、「憮然」の意味として「失望してぼんやりしている様子」と「腹を立てている様子」のどちらだと思うか調査しています。その結果、3回すべてで誤用である「腹を立てている様子」を選んだ人のほうが多いという結果でした。

ぼんやりしている様子なら「呆然(ぼうぜん)」のほうが思い浮かびやすいことや、「ぶぜん」という音から「ぶすっと」とか「ぶつぶつ言う」など不機嫌な様子をイメージしやすいことが背景にあるのかもしれませんね。

「憮然」の語源は?

次に「憮然」の語源を確認しておきましょう。

まず「憮」という字には、「がっかりする、いつくしむ」の意味があります。また、「然」は状態を表す語を作るときに用いる字。「公然」「同然」などと言いますね。

この憮然の使用例は、古くは論語にも見られます。「微子第十八」に登場する「夫子(ふうし)憮然としていわく」という表現。これは「先生ががっかりして言われることには」を表します。

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