今回は「生産者と消費者の間の物質収支」について解説していきます。

生産者と消費者の間の物質収支という概念は、生態系内における物質やエネルギーの流れを定量的に分析する際に必要になるものです。この概念を知ると、生態系ピラミッドの意味合いも本質的に理解できるぞ。加えて、食料問題の考察においても、同様の概念が活用できる。ぜひ、この機会に生産者と消費者の間の物質収支について学んでくれ。

工学の視点で生態系について学んだことがある学生ライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

工学部所属の現役理系大学生。環境工学を専攻している。高校時代は生物を学んでいなかったが、大学進学後に工学的な視点から生態系について詳しく学んだ。

生態系を構成する生物

今回の記事は生産者と消費者の間の物質収支がメインテーマですが、この内容を理解するためには生態系に関する基礎的な知識が不可欠です。生態系は、生物とそれを取り巻く非生物的環境の集合体を意味します。

今回のテーマを学ぶ際、特に重要になる前提知識は、生態系を構成する生産者・消費者・分解者がそれぞれ担っている役割です。ですから、記事の前半では、生態系を構成する生物の役割について説明します。本題である生産者と消費者の間の物質収支については、記事の後半で解説しますね。

1.生産者

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生産者の最大の役割は、光合成による炭酸同化を行い、二酸化炭素と水から炭水化物である糖を生成することです。無機物から有機物を大量に作り出すことができるのは生産者のみで、生産された有機物は生産者自身と消費者、分解者のエネルギー源になります。ほとんどの植物が生産者となりますよ

そして、生産者は窒素などを吸収し、アミノ酸を合成します。アミノ酸は、生産者の成長のために使われるのです。また、生産者の栄養段階は1ですよ栄養段階とは生物群集を捕食と被食の関係で分類した際に見られる栄養調達の階層のことをさします

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2.消費者

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消費者は、生産者の摂食と消化を行います。そして、消化によって得られた糖を用いて、細胞呼吸をするのです。細胞呼吸によって、消費者が活動するためのエネルギーを獲得しますよ。消化によって、アミノ酸も得られます。アミノ酸は、消費者自身を成長させるために使用しますよ消費者は、一般的に動物と呼ばれる生物群のことです

また、消費者同士においても、被食者と捕食者の関係があります。いわゆる、食物連鎖の関係です。食物連鎖の関係において上側に存在する高次消費者は、栄養段階も大きくなります

3.分解者

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分解者は、枯死した植物や死滅した動物に含まれる有機物を無機物に変換する役割を担っています。このような変換のことを異化と呼びますよ。分解者には、落葉の下にいるミミズなどの生物や細菌などが含まれています

また、分解者によって作り出された二酸化炭素などの無機物は、もう一度生産者が光合成をするために使用されますよ。このように、生産者→消費者→分解者という循環を繰り返すことで、生態系は維持されているのです。

生産者と消費者の間の物質収支

ここからは、本題である生産者と消費者の間の物質収支について解説をしていきます。具体的には、生産者→消費者→分解者という循環の過程で物質がどのように変化し、移動するのかということを考察していきますね。

また、生産者と消費者の間における物質収支とエネルギーの流れは表裏一体の関係にあります。ですから、今回の説明では、物質収支だけでなくエネルギーの流れについても述べますね

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生物生産量と変換効率

生産者と消費者の間の物質収支やエネルギーの流れを考える際に役に立つ概念が生物生産量変換効率です。生物生産量は、生物個体の大きさや個体数が増えることによる現存量の変化量のことをさします現存量とは、単位面積当たりに生息する生物の乾燥重量のことですよ

変換効率は、被食者の生物生産量に対する捕食者の生物生産量の比率のことです。変換効率は、捕食者が食べた物がどの程度の割合で捕食者の成長に使われたかを表しています。一般的に、代謝の過程において損失があるので、変換効率は10%程度だとされていますよ

生態系ピラミッド

生態系ピラミッドについて知ると、生産者と消費者の間の物質収支をよく理解することができます。生態系ピラミッドは、各栄養段階(生産者・第一次消費者・第二次消費者・第三次消費者…)における現存量を表したものです。

一般的に、生産者の現存量が最も多く、高次の消費者になるほど現存量が減少します。このようになる理由は、各栄養段階の間で物質とエネルギーの損失が生じるからです。ある動物1匹が生き延びるためには、草を10束食べなければならいというイメージをもつと理解しやすいかと思います。同様に、より高次の動物1匹が生き延びるには、他の動物を10匹消費しなければならないのです。このように栄養段階の小さな生物が、栄養段階の大きな生物をおみこしのように支える構造になっているのですね

生産者と消費者の間の物質収支と食料問題の関係

人口の増加に伴って起こりうるとされる食料問題ですが、この問題の本質的な部分は生産者と消費者の間の物質収支と深い関係をもっています。しかしながら、生態系における物質収支の考え方は、食料問題について議論する上で見落とされがちな視点です。

そこで、この記事では、生産者と消費者の間の物質収支と食料問題の関係について述べることにしました。食料問題を解決するために有効なアプローチにはどのようなものがあるのかを考えてみてくださいね。

食料問題の原因

食料問題の原因

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食料問題はすべての人に十分な食べ物を供給できなくなることで生じます。この問題の原因には、食料生産が人口増加に追い付かないこと気候などが原因で食料供給量が減少することなどが挙げられますよ。これらの原因は簡単に思いつきますよね。

しかしながら、他にも考えられる要因があります。それは人類が高次の消費者を多く食べてしまうことです。高次の消費者は現存量が少ないため、競合が激しくなります。また、高次の消費者は成長する過程で低次の消費者や生産者を摂取していますよね。そのため、高次消費者を食べると、同時に低次消費者を大量に食べることになってしまうのです

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養殖技術の問題点

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養殖技術によって食料供給は安定化されると考えられる場合がありますが、これは必ずしも正しいのでしょうか。答えはです。養殖技術の中には、マグロなどの高次消費者を育てるものがあります。

高次消費者を養殖するためには、餌として大量の低次消費者が必要になりますよね。当然ながら、これらの低次消費者を人類が直接消費するほうが、より多くの人に食料を届けることができます。ですから、養殖技術は必ず食料問題を解決できるというわけではないのです。

養殖技術の研究を行うには、美味しい魚を育てるという視点だけでなく、変換効率などを向上させるといった観点も持つ必要があるのですね

生産者と消費者の間の物質収支について理解しよう!

今回扱った「生産者と消費者の間の物質収支」というテーマは、多くの方が持っている生態系に対するイメージを、物質やエネルギーという視点で定量化したものになります。地味な学問分野であるように感じますが、このテーマは食糧問題の考察などにも役立ち、実用的なものであると言えますよ。

ぜひこの機会に、生態系を物質の収支という視点で考察してみてください。新しい発見や発想が生まれることもあるかもしれませんよ。

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理科生態系生物

3分で簡単生産者と消費者の間の物質収支!生態系における物質の流れとは?現役理系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「生産者と消費者の間の物質収支」について解説していきます。

生産者と消費者の間の物質収支という概念は、生態系内における物質やエネルギーの流れを定量的に分析する際に必要になるものです。この概念を知ると、生態系ピラミッドの意味合いも本質的に理解できるぞ。加えて、食料問題の考察においても、同様の概念が活用できる。ぜひ、この機会に生産者と消費者の間の物質収支について学んでくれ。

工学の視点で生態系について学んだことがある学生ライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

工学部所属の現役理系大学生。環境工学を専攻している。高校時代は生物を学んでいなかったが、大学進学後に工学的な視点から生態系について詳しく学んだ。

生態系を構成する生物

今回の記事は生産者と消費者の間の物質収支がメインテーマですが、この内容を理解するためには生態系に関する基礎的な知識が不可欠です。生態系は、生物とそれを取り巻く非生物的環境の集合体を意味します。

今回のテーマを学ぶ際、特に重要になる前提知識は、生態系を構成する生産者・消費者・分解者がそれぞれ担っている役割です。ですから、記事の前半では、生態系を構成する生物の役割について説明します。本題である生産者と消費者の間の物質収支については、記事の後半で解説しますね。

1.生産者

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生産者の最大の役割は、光合成による炭酸同化を行い、二酸化炭素と水から炭水化物である糖を生成することです。無機物から有機物を大量に作り出すことができるのは生産者のみで、生産された有機物は生産者自身と消費者、分解者のエネルギー源になります。ほとんどの植物が生産者となりますよ

そして、生産者は窒素などを吸収し、アミノ酸を合成します。アミノ酸は、生産者の成長のために使われるのです。また、生産者の栄養段階は1ですよ栄養段階とは生物群集を捕食と被食の関係で分類した際に見られる栄養調達の階層のことをさします

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