この記事では「受粉」をテーマにみていきたいと思う。

受粉は植物の生殖の過程で生じる現象です。受粉をきっかけに種子がつくられ、次世代の個体が生育していくことになる。今回は、受粉から始まる種子形成の流れを確認するだけでなく、受粉の種類や花粉の送粉・受粉方法についても学んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

1.受粉

受粉(じゅふん)とは、種をつくる植物=種子植物で、めしべの先端=柱頭に花粉が付着することを言います。受粉が起きて初めて、種子植物で種子の形成過程が始まるのです。

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なお、高校で学ぶ生物学以降では”めしべ(雌しべ)”という言葉は使わずに”雌蕊(しずい)”と呼ぶことが増えます。これと対になる用語が、花粉のつくられる場所である”おしべ(雄しべ)”を表す”雄蕊(ゆうずい)”です。雌蕊・雄蕊という言葉の方が、より専門的な感じがしますよね。

ただし、今回の記事では見やすさ・読みやすさを考慮し、あえて「めしべ」や「おしべ」という用語を使っていきたいと思います。

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受粉すると何が起きるのか?

受粉から始まるのが種子の形成です。一般的な被子植物における種子形成の流れを少し復習しておきましょう。

めしべの先端である柱頭に花粉が付くと、花粉からは花粉管という管が伸びていきます。花粉管が向かう先はめしべの根本、子房の中にある胚珠です。胚珠の内部には胚のう(胚嚢)とよばれる雌性配偶体があります。

胚のうにたどり着いた花粉管を経由して、精細胞が送り込まれると、胚のう中の卵細胞と受精。卵細胞は胚へと発達していきます。さらに、もう1つの精細胞によって中央細胞という細胞でも同時に受精が起き、胚乳が出来ていくのです。

自家受粉と他家受粉

みなさんは、「自家受粉(じかじゅふん)」と「他家受粉(たかじゅふん)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?園芸や農作物の栽培など、植物の育成に関係する人にとっては身近なキーワードかもしれません。

自家受粉とは、花粉が同じ個体にある花のめしべで受粉することを指します。”同じ個体にある”というのは、「1本の樹木につくおしべとめしべ」だとか、「一株の苗につくおしべとめしべ」といったような関係です。

自家受粉の中でも特に、おしべの花粉が同じ花のめしべに受粉することは同花受粉とよばれます。

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反対に、花粉が別の個体の花まで何らかの方法で移動し、その先で受粉することが他家受粉です。ちなみに、花粉を移動させることは送粉といいます。

どちらも”受粉”であることに変わりはないのですが、自家受粉と他家受粉では、送粉効率受粉後にできる種子の特徴に大きな違いがあるんです。

送粉の効率

一般的に、他家受粉よりも自家受粉の方が送粉効率が良いです。

このあと詳しく紹介しますが、他家受粉の場合、花粉は虫や風などの力を借りて、自分以外の個体の花にたどり着かなくてはいけません。せっかく飛ばした花粉が、運悪くなかまのいない方向へ行ってしまえば、受粉は失敗です。めしべの方も、準備ができたところで花粉がやってこなければ、役目を果たすことができませんよね。

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自家受粉が許される植物であれば、この問題は簡単に解決します。同じ個体につく別の花や、同じ花のめしべへたどり着くだけならば、距離も近く、受粉成功の確率が高くなるはずです。効率の良い送粉ができるのであれば、つくる花粉の量も少なくて済みます。

…ここまで見ると、自家受粉にはメリットが多く、良いことばかりのように見えますよね。しかし、他家受粉には自家受粉で得られない長所がちゃんとあるのです。

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遺伝的な多様性

他家受粉の最大のメリットは、受精でできた種子の遺伝的な多様性が増すことにあります。別々の個体の精細胞と卵細胞のDNAが混ざり合うことで、遺伝子のバリエーションが増えるのです。遺伝的な多様性が増すと、それまで見られなかったような新しい形質の個体が生じる可能性があります。

自家受粉では、もともと同じ個体がつくりだした配偶子同士の融合になるわけですから、遺伝的な多様性はあまり増えません。できた種子から発芽した新しい個体のDNAは、親のものとそっくりになります。

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仮に、ある伝染病が植物の群落で流行ったとしましょう。

自家受粉で増えた植物の群落では、全体が同じような遺伝子をもっているため、その病気に弱い性質があった場合、全ての個体が全滅してしまう可能性があります。

一方、他家受粉によって遺伝子にバリエーションのある植物の集団では、その病気に弱い個体だけでなく、強い個体もいるかもしれないのです。

遺伝的な多様性があるということは、いつ起こるかわからない環境の変化に対応できる可能性が高くなることにつながるといってよいでしょう。

2.送粉・受粉の方法

植物はさまざまな手段で花粉をめしべに届けています。同花受粉などであれば、重力で落ちた花粉がめしべにつくこともあるかもしれませんが、他家受粉となると、もっと別の方法が必要です。

植物の送粉・受粉にはどんな方法があるのでしょうか?

風による送粉・受粉

花粉を風に乗せて散布する花は風媒花(ふうばいか)とよばれます。春先になると悩む人が多いスギ花粉などは、気流にのって流れてきますよね。

湿度が高かったり雨がふっていると、花粉はすぐに落下してしまいますが、天候さえよければ長距離を一気に移動させることができる方法です。

水による送粉・受粉

水辺に生える植物には、花粉が水に流されることで送粉・受粉をするものがいるんです。この方法で花粉を移動させ、受粉するタイプの花は水媒花(すいばいか)とよばれます。受粉する側の花は、水中や水面に咲いていなくてはいけません。

虫による送粉・受粉

昆虫を媒介者とし、花粉を移動させる花も少なくありません。このような花は虫媒花(ちゅうばいか)とよばれます。

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花にやってきた虫のからだに花粉が付着。その虫が別の花に移動することで、花粉の移動(送粉)がなされます。

この仕組みでは、とにかく虫に来てもらわないと送粉や受粉ができません。虫媒花には、花弁(花びら)の色や形を工夫したり、虫の好きな蜜を蓄えるなど、昆虫を引き寄せる特徴がみられます。

鳥による送粉・受粉

前述の”虫による送粉・受粉”によく似ていますが、鳥が花粉の媒介者として利用されていることがあります。鳥に送粉を手伝ってもらう花は鳥媒花(ちょうばいか)です。

ハチドリやハナドリといった、花の蜜を好む小さな鳥が、この役割を果たします。鳥を利用する植物の花はたくさんの蜜を出すほか、鳥が蜜を得やすいような構造になっているのです。

虫や鳥以外の”動物”が受粉を助けることもある

植物にとって花粉を送り出し受粉させることは、次世代を残すために必要不可欠です。先にあげたように、各植物はいろいろな手段で送粉・受粉を行っています。

じつは、虫や鳥以外の動物が送粉・受粉を手助けしていることがあるんです。花の蜜を好むコウモリなどがよい例でしょう。

そういえば、私たち人間も、”ヒト”という動物でした。きれいな花やおいしい作物を育てるため、人工授粉という技術がありますが…我々も、いつの間にやら花粉の媒介者となっているようですね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 「受粉」のしくみや種類・方法について!自家受粉と他家受粉について現役講師がわかりやすく解説します – Study-Z
理科生物細胞・生殖・遺伝

「受粉」のしくみや種類・方法について!自家受粉と他家受粉について現役講師がわかりやすく解説します

この記事では「受粉」をテーマにみていきたいと思う。

受粉は植物の生殖の過程で生じる現象です。受粉をきっかけに種子がつくられ、次世代の個体が生育していくことになる。今回は、受粉から始まる種子形成の流れを確認するだけでなく、受粉の種類や花粉の送粉・受粉方法についても学んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

1.受粉

受粉(じゅふん)とは、種をつくる植物=種子植物で、めしべの先端=柱頭に花粉が付着することを言います。受粉が起きて初めて、種子植物で種子の形成過程が始まるのです。

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なお、高校で学ぶ生物学以降では”めしべ(雌しべ)”という言葉は使わずに”雌蕊(しずい)”と呼ぶことが増えます。これと対になる用語が、花粉のつくられる場所である”おしべ(雄しべ)”を表す”雄蕊(ゆうずい)”です。雌蕊・雄蕊という言葉の方が、より専門的な感じがしますよね。

ただし、今回の記事では見やすさ・読みやすさを考慮し、あえて「めしべ」や「おしべ」という用語を使っていきたいと思います。

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