今回は「重複受精」というキーワードをテーマに勉強していきたい。

高校の生物学、種子形成についての内容でこの用語が登場する。種子ができるまでの過程のうちでも、非常に重要な現象なのですが…細胞の名前など覚えることも多く、苦手とする生徒も少なくない。一つ一つの名称や流れをしっかり確認していけば、それほど複雑ではなのです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

1.重複受精

重複受精(ちょうふくじゅせい)とは、被子植物が受精するとき、胚のうの2か所で同時に受精が起きる現象のことを言います。これは、被子植物に特有の受精方式です。

被子植物で”受精”がおきると、その後何ができるでしょうか?動物であれば次世代の子どもができますが、被子植物では種子(いわゆる”種”)が形成されます。

\次のページで「2.花粉と胚珠」を解説!/

そうなんです。中学校の理科くらいまでは、植物が次世代を残すまでの過程を以下のように習うでしょう。

植物の花にはおしべめしべがある。
おしべの先端にある葯(やく)でつくられた花粉がめしべの先端である柱頭につく。
子房にある胚珠が受精すると、発達して種子ができる。
種子が発芽し、次の世代の植物が育っていく。

このような説明は、種子ができるまでの過程をかなり簡略化したものです。高校生物では、「花粉が柱頭についてから、どのように種子ができていくのか」を、より細かく学ばなくてはいけません。

せっかくですので、種子形成に関係する細胞の名前や流れを一通り見ていきましょう。

2.花粉と胚珠

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種子形成の流れを説明する前に、花粉胚珠の形成過程やつくりを確認しておきたいとおもいます。

花粉は、葯の中にある花粉母細胞(かぶんぼさいぼう)という細胞が減数分裂してできるものです。

1つの花粉母細胞は減数分裂を経て、花粉四分子(かふんしぶんし)とよばれる4つの細胞になります。

4つの細胞それぞれが一つの花粉になっていきますが、完全な花粉になる前には1度だけ核分裂を行います。これによってできるのが、雄原細胞花粉管細胞とよばれる2つの細胞。両者がワンセットになったのが成熟した花粉となります。

一方で、めしべのもつ胚珠はもう少し複雑な構造です。

胚珠は将来的に種子になる部分。未熟な胚珠の中には胚のう母細胞という細胞があり、胚のう母細胞は減数分裂によって4つの細胞になります。

\次のページで「3.受粉から重複受精まで」を解説!/

この先から、胚珠と花粉のでき方に違いが出てきます。胚のう母細胞からできた4つの細胞のうち1つを残して、ほかの3つの細胞は退化してしまうのです。さらに、のこった一つの細胞は核分裂を3回連続で行い、8つの核をもった状態になります。

image by Study-Z編集部

8つの核は7つの細胞へ分配されます。1つの卵細胞、2つの助細胞、3つの反足細胞、そして、体積の大部分を占める中央細胞です。こうして、7つの細胞をひとまとまりとした胚のう(胚嚢)が完成します。

そのとおり!中央細胞に核が2つあります。この中央細胞と卵細胞が、今回のメインテーマである重複受精に関係する細胞です。

では、以上の知識をふまえたうえで、受粉から重複受精までの流れを見ていきましょう。

3.受粉から重複受精まで

柱頭に花粉が付く=受粉すると、花粉からは花粉管という管がのびていきます。花粉管が向かうのは、子房の胚珠…その中にある胚のうです。

花粉管は、卵細胞の隣にある助細胞によって誘導されていると考えられています。

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花粉に存在していた雄原細胞は、花粉管のつくった道を通りながら胚のうへ向かいます。その途中、雄原細胞は1回の体細胞分裂を行い、2つの細胞に。これが精細胞とよばれる、人間に置き換えれば「精子」に当たる細胞です。

胚のうにたどり着いた2つの精細胞は、それぞれ別の細胞の核と合体=受精します。一方は卵細胞と、そしてもう一方は中央細胞との受精です。この時起きた、2か所での受精。これがまさしく重複受精ということになります。

4.重複受精のその後

重複受精のあと、胚のうのそれぞれの細胞がどうなっていくのかも知っておきましょう。

卵細胞は受精を終えて受精卵になり、さらに発生がすすんでになります。発芽した種子から現れる、子葉や幼根を備えた植物体こそ、胚が生長した姿です。

一方、重複受精した中央細胞ですが、その行く末は植物によって異なります。

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イネのなかまなどでは、中央細胞は胚乳とよばれる組織になります。胚乳は、胚が発芽するまでの栄養源となる存在です。胚乳ができる種子は有胚乳種子とよばれます。

私たちの食卓に上る”お米”はイネの胚珠の部分です。パンやお菓子作りに使われる”小麦粉”も、コムギの胚珠などが細かく粉砕されたものにほかなりません。私たちは、胚が使うはずだった養分をいただいているんです。

はい。重複受精後、中央細胞だったところが退化してしまうと無胚乳種子となります。無胚乳種子では、胚乳ではなく、子葉に養分を蓄えて発芽までの期間を乗り切るんです。

身近な例でいうと、大豆や小豆などの豆類は、丸々と太った子葉がその大部分を占めています。

助細胞の挙動に関しては、近年の顕微鏡技術の発達で面白いことが分かってきました。

花粉管の誘導は、助細胞の一つが崩壊し、ある物質を分泌することで引き起こされるということが判明したのです。助細胞は2つありますので、一つ目の助細胞の崩壊で受精がうまくいけば、もう一つの助細胞がのこります。残った助細胞は、胚乳の細胞と融合してしまうのだそうです。

仮に一つ目の助細胞の崩壊で受精が失敗に終わると、もう一つの助細胞が崩壊して再度の花粉管誘導を促すということも、研究で明らかになってきました。

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反足細胞については、植物によってその後の経過が異なるようです。重複受精後に退化・消失してしまう植物もあれば、細胞分裂する植物もあるといいます。そもそも反足細胞は、何のためにあるのかも明確になっておらず、謎の多い存在なんです。

植物の発生に興味をもたれた方、ぜひ研究してみてはいかがでしょうか?

重複受精をマスターしよう!

多くの高校生にとっての悩みどころとなる”重複受精”についての解説でした。

重複受精をマスターするには、まず「流れを把握すること」と「関係する細胞の名前を覚えること」を意識しましょう。とくにしっかり覚えてほしいのは、めしべの子房の中の構造です。胚珠の内部の胚のう、背嚢を構成する細胞の名前…これらがはっきりしていないと、重複受精の説明をするのは難しいでしょう。

多くの人が”苦手”と感じる学習分野ではありますが、一度マスターしてしまえば、他の人との差をつけることができる”おいしい”内容です。頑張って学習したいところですね。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

種子植物の「重複受精」とは!被子植物特有の受精方法?現役講師がサクッとわかりやすく解説します

今回は「重複受精」というキーワードをテーマに勉強していきたい。

高校の生物学、種子形成についての内容でこの用語が登場する。種子ができるまでの過程のうちでも、非常に重要な現象なのですが…細胞の名前など覚えることも多く、苦手とする生徒も少なくない。一つ一つの名称や流れをしっかり確認していけば、それほど複雑ではなのです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

1.重複受精

重複受精(ちょうふくじゅせい)とは、被子植物が受精するとき、胚のうの2か所で同時に受精が起きる現象のことを言います。これは、被子植物に特有の受精方式です。

被子植物で”受精”がおきると、その後何ができるでしょうか?動物であれば次世代の子どもができますが、被子植物では種子(いわゆる”種”)が形成されます。

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