この記事では「漁夫の利」について解説する。

端的に言えば「漁夫の利」の意味は「当事者どうしが争っている間に、第三者が利益を横取りすること」です。これはずるいのか、それともラッキーなのでしょうか。

小学校教諭として言葉の授業を何度もしてきた「こと」と一緒に、「漁夫の利」の意味や使い方・類語・対義語などを見ていこう。

ライター/こと

元小学校教諭のwebライター。先生や子どもたちから「授業が分かりやすい!」との定評があった教育のプロだ。豊富な経験を活かし、どんな言葉も分かりやすく解説していく。

「漁夫の利」の意味と使い方

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では早速「漁夫の利」の意味と使い方を見ていきましょう。

「漁夫の利」の意味は「当事者どうしが争っている間に、第三者が利益を横取りすること」

「漁夫の利」の意味を辞書で確認します。

《シギとハマグリが争っているのを利用して、漁夫が両方ともつかまえたという「戦国策」燕策の故事から》両者が争っているのにつけ込んで、第三者が利益を横取りすることのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「漁夫の利」

つまり「漁夫の利」とは「双方が争っているすきにつけいり、他の者がなんの苦労もなく利益をおさめることのたとえ」です。当事者どうしが争っている間に、関係のない第三者が利益を横取りすることを表しています。

「漁夫の利」の使い方を例文で紹介

「漁夫の利」の使い方を例文で紹介します。

1.仕事の進め方で同期と揉めていたら、後輩にプロジェクトを取られてしまい、まさに後輩の漁夫の利となった。
2.兄と姉がおやつのことで喧嘩をするたびに、弟の僕が一番に食べさせてもらえたので、いつも漁夫の利を得ることができた。
3.あのベンチャー企業は、問題の起きている分野に参入して漁夫の利を占めるようなやり方をしているので好かれていない。

このように、すべて「誰かと誰かが争っている最中に、別の者が利益を持って行ってしまう」という様子を表していますね。

1の例文ように「漁夫の利」だけでももちろん使いますが、2のように「漁夫の利を得る」や3のように「漁夫の利を占める」という表現もよくされるので覚えておきましょう。

「漁夫の利」の語源は?

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「漁夫の利」の語源を探っていきましょう。辞書にも《シギとハマグリが争っているのを利用して、漁夫が両方ともつかまえたという「戦国策」燕策の故事から》という記述があります。詳しく見ていきましょう。

「戦国策」燕策(えんさく)の故事

まず「漁夫(ぎょふ)」とは「漁業に従事する人」のこと。つまり「漁師」です。

「漁夫の利」は、中国、戦国時代の書物『戦国策(せんごくさく)』に登場する逸話が元になっています。「燕(えん)」に攻め込もうとする「趙(ちょう)」の王に対して語られた話なのです。辞書で確認してみましょう。

紀元前四世紀、中国の戦国時代、趙という国が隣国の燕に攻め込もうとしたとき、ある人が、趙王に次のような話をしました。「さっき、私が川辺を歩いていますと、はまぐりが貝を開いて日向ぼっこをしていました。そこへ鳥のシギがやってきて、はまぐりを食べてやろうとつついたところ、はまぐりは貝を閉じて、シギのくちばしを挟み込んでしまいました。シギは逃げられなくなりましたが、はまぐりも貝を開けばシギに食べられてしまいます。どちらもどうにもできないでいるところに漁夫が通りかかって、両方を捕まえてしまいました。今、趙が燕と戦争をすると、ほかの国が漁夫のように得をすることになりますよ」それを聞いて、趙王は燕に攻め込むのをやめたということです。

出典:コトバンク「漁夫の利」

趙が燕に攻め込み両国が疲弊すると、そこを秦(しん)という強国の第三者に攻め込まれて両方とも滅ぼされてしまうというたとえなのです。ここから「漁夫の利」という故事成語が生まれました。

なお「戦国策」の原文では「漁父」ですが、日本語では「漁夫」と書く方が定着しています。

「漁夫の利」はラッキー?ずるい?

元の話では、趙の王ははまぐりやシギの立場です。しかし、故事成語としては漁夫の視点に立って他人の苦労を利用して当人だけが利益を得る場合に使うのが基本。ラッキーといえばラッキーなことですが、ずるいというイメージも含んでいますね。

現在も、ラッキーな場合とずるいという意味を込めて使う場合があるので、状況によって判断が必要です。

\次のページで「名作に登場する「漁夫の利」」を解説!/

名作に登場する「漁夫の利」

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語り継がれる名作にも「漁夫の利」という表現が登場します。二作品をご紹介しましょう。

松本清張『或る「小倉日記」伝(あるこくらにっきでん)』

まずは松本清張(まつもとせいちょう)の短編小説『或る「小倉日記」伝』です。その中で「ふじのような美人を得たことは、いわば漁夫の利といえないこともなかった」という一節があります。 福岡県小倉市在住であった松本清張が地元を舞台に、森鷗外が軍医として小倉に赴任していた3年間の日記「小倉日記」の行方を探すことに生涯を捧げた人物を主人公として描いている作品です。

末広鉄腸『花間鶯(かかんおう)』

次に、ジャーナリストであった末広鉄腸(すえひろてっちょう)の政治小説『花間鶯(かかんおう)』です。その中では「百事意の如くになり独り漁父の利を収ることが出来るであろう」とあります。『花間鶯』は明治中期の作品で『雪中梅(せっちゅうばい)』の続編。青年政治家国野基 (もとい) が反対派と対立し、さまざまな苦闘の末に政界に乗り出し、その属する自由党が総選挙に大勝するという内容です。

「漁夫の利」の類語

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「漁夫の利」の類語を見てみましょう。

「犬兎の争い(けんとのあらそい)」:両者が争って共に弱り第三者に利益を横取りされる

まずは「犬兎の争い」です。両者が争って共に弱り第三者に利益を横取りされることを表す言葉。

犬兎の争いの出典は『戦国策(斉策)』の寓話。「犬がウサギを追いかけ回してどちらも力尽きて倒れたところを、通りかかった農夫は何の苦労もせず獲物を独り占めすることができた」いう話です。戦国策が語源であるところや話の中の状況が、「漁夫の利」と大変よく似ていますね。

「濡れ手で粟(ぬれてであわ)」:苦労せずに多くの利益を得ること

次に「濡れ手で粟」です。濡れた手で粟をつかめば粟粒がたくさんついてくるように、苦労せずに多くの利益を得ること。の粒は乾燥して軽い状態なので、濡れた手を入れると大量に手にくっついきます。その様子から「濡れ手で粟」という表現ができました。

「漁夫の利」のように横取りという意味はありませんが、ずるいというニュアンスがあり良い意味では使われません。

「棚からぼたもち」:努力せずに幸運が舞い降りてくる

そして「棚からぼたもち」です。棚から意図せずぼた餅が落ちてきたように、とくに努力をしていないのに思いがけない幸運が舞い降りてくること。ぼた餅が良いことの象徴になっているんですね。「たなぼた」と略されれることも。予想もしなかった場面でラッキーなことが起こった時に使います。

\次のページで「「漁夫の利」の対義語」を解説!/

「漁夫の利」の対義語

「漁夫の利」の対義語を見てみましょう。

「二兎(にと)追うものは一兎(いっと)をも得ず」:どちらも失敗に終わる

まずは「二兎追うものは一兎をも得ず」です。うさぎを二兎同時に追いかけても、結局両方とも捕らえることはできない。 そこから転じて、二つのことを同時に成し遂げようとしても、結局どちらも失敗に終わるという意味です。

「虻蜂(あぶはち)取らず」:欲を出しすぎると失敗する

次に「虻蜂取らず」です。二つのものを同時に取ろうとして両方とも得られないこと。欲を出しすぎると失敗することのたとえです。クモの巣を張ったクモが、虻と蜂のどちらも取ろうとあちこちしている間に虻にも蜂にも逃げられてしまい、結局どちらも取れなくなってしまうことからできた言葉ですね。

「漁夫の利」の英語表現

「漁夫の利」の英語表現も見てみましょう。

「profiting while others fight」と表現することができます。「profiting」は「利益」、「while」は「その間」、「others」は「他のもの」、「fight」は「喧嘩」です。「他のものが喧嘩をしている間に利益を得る」となるので、まさに「漁夫の利」と同じ意味になりますね。

「漁夫の利」を「ラッキー!」と受け取れる人になろう。

この記事では「漁夫の利」の意味や使い方・類語・対義語などを説明しました。語源にも歴史があり、戦国策が由来とは重みを感じる言葉ですよね。

さて、みなさんは「漁夫の利」を得るような経験をしたことがありますか。現代は、理不尽なことで溢れています。努力が報われずに辛いことも多いでしょう。そんな時に「漁夫の利」に巡り合えたらうれしいですね。それはずるいのではなく、普段がんばっている人こそ「ラッキー!」とありがたく受け取っていいのだと思います。

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国語言葉の意味

「漁夫の利」の意味は?中国の故事が語源!使い方・類語・対義語などを元小学校教諭がわかりやすく解説

この記事では「漁夫の利」について解説する。

端的に言えば「漁夫の利」の意味は「当事者どうしが争っている間に、第三者が利益を横取りすること」です。これはずるいのか、それともラッキーなのでしょうか。

小学校教諭として言葉の授業を何度もしてきた「こと」と一緒に、「漁夫の利」の意味や使い方・類語・対義語などを見ていこう。

ライター/こと

元小学校教諭のwebライター。先生や子どもたちから「授業が分かりやすい!」との定評があった教育のプロだ。豊富な経験を活かし、どんな言葉も分かりやすく解説していく。

「漁夫の利」の意味と使い方

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では早速「漁夫の利」の意味と使い方を見ていきましょう。

《シギとハマグリが争っているのを利用して、漁夫が両方ともつかまえたという「戦国策」燕策の故事から》両者が争っているのにつけ込んで、第三者が利益を横取りすることのたとえ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「漁夫の利」

つまり「漁夫の利」とは「双方が争っているすきにつけいり、他の者がなんの苦労もなく利益をおさめることのたとえ」です。当事者どうしが争っている間に、関係のない第三者が利益を横取りすることを表しています。

「漁夫の利」の使い方を例文で紹介

「漁夫の利」の使い方を例文で紹介します。

1.仕事の進め方で同期と揉めていたら、後輩にプロジェクトを取られてしまい、まさに後輩の漁夫の利となった。
2.兄と姉がおやつのことで喧嘩をするたびに、弟の僕が一番に食べさせてもらえたので、いつも漁夫の利を得ることができた。
3.あのベンチャー企業は、問題の起きている分野に参入して漁夫の利を占めるようなやり方をしているので好かれていない。

このように、すべて「誰かと誰かが争っている最中に、別の者が利益を持って行ってしまう」という様子を表していますね。

1の例文ように「漁夫の利」だけでももちろん使いますが、2のように「漁夫の利を得る」や3のように「漁夫の利を占める」という表現もよくされるので覚えておきましょう。

「漁夫の利」の語源は?

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「漁夫の利」の語源を探っていきましょう。辞書にも《シギとハマグリが争っているのを利用して、漁夫が両方ともつかまえたという「戦国策」燕策の故事から》という記述があります。詳しく見ていきましょう。

「戦国策」燕策(えんさく)の故事

まず「漁夫(ぎょふ)」とは「漁業に従事する人」のこと。つまり「漁師」です。

「漁夫の利」は、中国、戦国時代の書物『戦国策(せんごくさく)』に登場する逸話が元になっています。「燕(えん)」に攻め込もうとする「趙(ちょう)」の王に対して語られた話なのです。辞書で確認してみましょう。

紀元前四世紀、中国の戦国時代、趙という国が隣国の燕に攻め込もうとしたとき、ある人が、趙王に次のような話をしました。「さっき、私が川辺を歩いていますと、はまぐりが貝を開いて日向ぼっこをしていました。そこへ鳥のシギがやってきて、はまぐりを食べてやろうとつついたところ、はまぐりは貝を閉じて、シギのくちばしを挟み込んでしまいました。シギは逃げられなくなりましたが、はまぐりも貝を開けばシギに食べられてしまいます。どちらもどうにもできないでいるところに漁夫が通りかかって、両方を捕まえてしまいました。今、趙が燕と戦争をすると、ほかの国が漁夫のように得をすることになりますよ」それを聞いて、趙王は燕に攻め込むのをやめたということです。

出典:コトバンク「漁夫の利」

趙が燕に攻め込み両国が疲弊すると、そこを秦(しん)という強国の第三者に攻め込まれて両方とも滅ぼされてしまうというたとえなのです。ここから「漁夫の利」という故事成語が生まれました。

なお「戦国策」の原文では「漁父」ですが、日本語では「漁夫」と書く方が定着しています。

「漁夫の利」はラッキー?ずるい?

元の話では、趙の王ははまぐりやシギの立場です。しかし、故事成語としては漁夫の視点に立って他人の苦労を利用して当人だけが利益を得る場合に使うのが基本。ラッキーといえばラッキーなことですが、ずるいというイメージも含んでいますね。

現在も、ラッキーな場合とずるいという意味を込めて使う場合があるので、状況によって判断が必要です。

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