この記事では「帷幄」について解説する。

端的に言えば帷幄の意味は「垂れ幕」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元予備校校舎長で国語指導歴の長い教育系ライターのみゆなを呼んです。一緒に「帷幄」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/みゆな

元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。

「帷幄」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

「帷幄」とは見慣れない言葉ですね。読み方は「いあく」です。話し言葉では耳にする機会はほとんどありませんが、歴史に関する話やかしこまった場面で使われます。由来や関連表現を含めて「帷幄」をしっかり理解しましょう。次に「帷幄」を見かけたときに、得意げに人に話せますよ。

それでは早速「帷幄」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「帷幄」の意味は?

「帷幄」には、次のような意味があります。

1.垂れ幕と引き幕。幕。
2.《昔、陣営に幕をめぐらしたところから》作戦を立てる所。本営。本陣。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「帷幄」

「帷幄」とは垂れ幕や引き幕といった「幕」を表す言葉です。また「作戦を立てる本営」という意味もありますが、これは戦において指揮官がいる本陣を幕で囲った様子に由来します。時代劇などで見たことがあるかもしれませんね。

ちなみに中国語にも「帷幄」という言葉があります。読み方は「ウェイウォ」で、意味は「兵営のテント、張り幕」です。

「帷幄」の語源は?

次に「帷幄」の語源を確認しておきましょう。漢字1文字ずつ見ていくと、よく理解できますよ。

」は「とばり」とも読み、室内に垂れ下げて、隔てにする布のことを指します。平安時代の絵巻物で、貴族の屋敷内についたてのような役割を果たしている布を見たことはありせんか?その「ついたてのような布」が「とばり」です。「」も「布」という意味を持っていますが、「上から四方を覆う幕」という意味になります。いわゆるテントの役割を果たすものですね。

「帷」と「幄」、いずれも「四方を覆う、あるいは隔てにする役割を持つ布」という意味を持つ漢字が組み合わさってできたのが「帷幄」です。

「帷幄」の使い方・例文

「帷幄」の使い方を例文を使って見ていきましょう。たとえば以下のように用いられます。

「彼は一介の兵卒に過ぎなかった。しかし自軍を勝利に導く謀略を持って、将軍に帷幄に参じた。」

「帷幄」は「帷幄に参上する」という表現で使われることがあります。「帷幄」、つまり軍の本営に参上するということは「軍事上の機密の相談に参加する。秘密の話し合いに加わる」という意味ですね。

例文は「立場は一兵卒だが、勝利を確信できる謀略が思いついたので作戦本部に行き、相談に参加した」という意味を表します。

「太平洋戦争の戦後処理において、戦争責任は昭和天皇に帷幄上奏した政治家や軍人にあるとされた。」

「帷幄」は「帷幄上奏(いあくじょうそう)」という四字熟語でも使われます。「帷幄上奏」とは「明治憲法のもとで、陸海軍大臣・参謀総長(陸軍)・軍令部総長(海軍)などが軍機・軍令について、閣議を経ずに直接天皇に上奏したこと」という意味です。

例文は太平洋戦争の戦争責任の所在について言及していますね。現在の日本国憲法は戦後に制定されましたから、戦時中は明治憲法が最高法規です。戦争の遂行を決定したのは昭和天皇ですが、昭和天皇の戦争責任論にはさまざまな意見があります。例文は「天皇を戦争遂行の方向に利用すべく直接伝え続けた政治家や軍部にこそ、責任はある」という趣主旨です。

古参兵である彼を、私は帷幄之臣と信じ切っていた。しかし戦局を決する場面で相手陣営に寝返ってしまった。いまだ信じられない。

「帷幄」は「帷幄之臣(いあくのしん)」という四字熟語でも使われます。「帷幄之臣」とは「主君のそばにいてこれを補佐する臣。参謀」という意味です。古代中国の歴史書『漢書』の「張良伝」に登場します。

張良とは漢帝国の始祖・劉邦に仕えた大変優秀な軍師でした。有名なエピソードには「鴻門の会」があります。これは敵将・項羽の刺客によって主君である劉邦が窮地に陥ったときに、機転を利かせて救い出したというものです。主君のそばにあり、常に主君を助け補佐する忠実な臣下が「帷幄之臣」なのですね。

籌を帷幄に運らし、勝ちを千里の外に決す。

例文の4つ目は「帷幄」を使ったことわざをご紹介します。「籌を帷幄に運らし、勝ちを千里の外に決す(はかりごとをいあくにめぐらし、かちをせんりのほかにけっす)」とは、計画や戦略が大変巧妙であることをたとえたことわざです。「籌」は計略、「帷幄」は本陣、「千里の外」は遠い場所という意味を表します。

計略を練るのは「帷幄」がある本陣ですが、その計略によって遠く離れた戦場でも勝利を収めることがあるという意味です。

「帷幄」の類義語は?違いは?

image by iStockphoto

「帷幄」が「本陣・本営をつくる幕」を意味することは分かりました。では他にも同じ意味を表す言葉はあるのでしょうか。見てみましょう。

「陣幕」

「帷幄」の類義語として「陣幕(じんまく)」という言葉があります。「陣幕」とは「戦場における陣地を作るための幕」のことです。まさに「帷幄ですね。

作る際は古来の先例に基づき、露天に幕串を立てて飾り陣地を構成します。時代を経るにつれ庶民の間にも慣習が広がり、外界からの邪気を払う呪術的機能を持つものとして、祭礼や芝居興行に用いられるようになりました。

「帷幄」の対義語は?

「帷幄」に対義語はありません。「幕」という意味に反対言葉はありませんね。

「帷幄」の英訳は?

image by iStockphoto

「帷幄」は英語でどのように表現できるのでしょうか。「幕」という意味と、「本陣」という意味それぞれをご紹介します。

その1「curtain」

「帷幄」の「」という意味を英訳すると「curtain」になります。つまり「カーテン」ですね。英語の「curtain」は意味の幅が広く、部屋のカーテンという意味のほかにも「劇場の幕、どんちょう、おおうもの」全般を指します。また興味深い意味では「一巻の終わり、死、解雇」というものもありますよ。

\次のページで「その2「headquarters」」を解説!/

The curtain falls.
「幕が下りる」

その2「headquarters」

「帷幄」の「本陣、本営」という意味を英語に訳すと「headquarters」となります。「本部、本営、司令部、本署、本社、本局」という意味です。同じ意味の英単語で「general staff」というものもあります。あわせて押さえておきましょう。

The general commanded him to report to headquarters.
「将軍は彼に司令部へ出頭しろと命じた。」

「帷幄」を使いこなそう

この記事では「帷幄」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「帷幄」は漢字こそ難しく見慣れない言葉ですが、軍の本陣や作戦本部、本営を囲った「幕」だということがわかりました。時代劇や大河ドラマの合戦シーンで見かけたら、これが「帷幄」か!と納得してみてくださいね。

" /> 「帷幄」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校校舎長がわかりやすく解説! – Study-Z
国語言葉の意味

「帷幄」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校校舎長がわかりやすく解説!

この記事では「帷幄」について解説する。

端的に言えば帷幄の意味は「垂れ幕」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

元予備校校舎長で国語指導歴の長い教育系ライターのみゆなを呼んです。一緒に「帷幄」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/みゆな

元大手予備校校舎長、現在は教育系のライター。国語、特に現代文の指導経験が豊富。難解な言葉や表現を中高生がスラスラ理解できるように解説するのが大得意。

「帷幄」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

「帷幄」とは見慣れない言葉ですね。読み方は「いあく」です。話し言葉では耳にする機会はほとんどありませんが、歴史に関する話やかしこまった場面で使われます。由来や関連表現を含めて「帷幄」をしっかり理解しましょう。次に「帷幄」を見かけたときに、得意げに人に話せますよ。

それでは早速「帷幄」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「帷幄」の意味は?

「帷幄」には、次のような意味があります。

1.垂れ幕と引き幕。幕。
2.《昔、陣営に幕をめぐらしたところから》作戦を立てる所。本営。本陣。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「帷幄」

「帷幄」とは垂れ幕や引き幕といった「幕」を表す言葉です。また「作戦を立てる本営」という意味もありますが、これは戦において指揮官がいる本陣を幕で囲った様子に由来します。時代劇などで見たことがあるかもしれませんね。

ちなみに中国語にも「帷幄」という言葉があります。読み方は「ウェイウォ」で、意味は「兵営のテント、張り幕」です。

「帷幄」の語源は?

次に「帷幄」の語源を確認しておきましょう。漢字1文字ずつ見ていくと、よく理解できますよ。

」は「とばり」とも読み、室内に垂れ下げて、隔てにする布のことを指します。平安時代の絵巻物で、貴族の屋敷内についたてのような役割を果たしている布を見たことはありせんか?その「ついたてのような布」が「とばり」です。「」も「布」という意味を持っていますが、「上から四方を覆う幕」という意味になります。いわゆるテントの役割を果たすものですね。

「帷」と「幄」、いずれも「四方を覆う、あるいは隔てにする役割を持つ布」という意味を持つ漢字が組み合わさってできたのが「帷幄」です。

「帷幄」の使い方・例文

「帷幄」の使い方を例文を使って見ていきましょう。たとえば以下のように用いられます。

次のページを読む
1 2 3
Share: