この記事では、色々な「生物分布にみられる法則」をまとめていこう。

高校の生物学では、非常に様々な分野を学習する。細胞やDNAの話から始まり、神経やホルモンのはたらき、各種内蔵の役割や構造、遺伝、生態系、生物の分類、進化、生物分布などです。これらのうち、生物の分布についての項目では、いくつかの”法則”の名前や、その内容を覚えなくてはならない。今回は主だったものを紹介してもらおう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウが解説します。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生物分布にみられるいくつもの”法則”

地球上にはあらゆる環境に動植物が生息しています。大きいもの、小さいもの、肉食のもの、草食のもの、カラフルなもの、地味なもの…生物は非常に多様です。たとえ同種であっても、「南部と北部では色が違う・大きさがかなり違う」などというような地域差がみられることもあります。

「さまざまな生物は、この地球上にどのように分布しているのか?」「何が生物の分布域を決定するのか?」に疑問をもった科学者たちは、色々な生物とそれらの住む環境を調査・観察し、ある程度の傾向やルールを見出してきました。それらが、この項目で学習する生物分布の”法則”です。

\次のページで「1.ベルクマンの法則」を解説!/

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ここで一つ、注意していただきたいことがあります。以下に生物分布の代表的な”法則”をご紹介していきますが、ここでいう”法則”は、物理や化学の世界であつかわれる”法則”とはすこし趣の異なったものです

物理や化学の勉強で出てくる”法則”は、「時や場所を選ばず、一定の条件下であれば必ず成立する関係」といえます。

ところが、生物分布にみられる”法則”では、例外的な事例がしばしば登場するのです。”法則”というと、「全てがそれに従う、絶対的なルール」というイメージが強いのですが、生物分布に関してはあくまで”傾向”という程度にかんがえておいてください。

たくさんの研究者がいろいろな”生物分布の法則”を提唱してきましたが、”例外”が多数見つかることで批判が高まったり、論争に発展することも少なくありません。

そもそも、化学や物理の実験と違い、生物分布のような現象は「実験で確かめてみる」ということがとても難しいのです。そのため、”〇〇の法則”という言葉を使わずに、”〇〇の規則”や”〇〇のルール”というキーワードにされることもあります。

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今回は比較的有名かつ、高校の生物学で登場しやすいものに限定して、4つの”法則”をご紹介します。

ただし、今後より有力な”法則”が出てきたり、現在知られている”法則”に反対意見が増える可能性もある、ということはご承知おきくださいね。

1.ベルクマンの法則

ベルクマンの法則は、「恒温動物では、近縁種間では大型の種が寒冷な地域に生息する傾向がある。同種内では、大型の個体が寒冷な地域に生息する傾向がある」という内容の法則です。

極端にかみ砕いて言い直せば「寒いところほど大きな哺乳類や鳥類が住んでいる」といった感じでしょうか。

この法則は1847年にドイツのクリスティアン・ベルクマンが発表しました。

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ベルクマンの法則は、体積と体表面積の関係から説明されます。体積が大きくなると、体積当たりの体表面積は小さくなるのです。

広い体表面積だと、熱がどんどん逃げてしまいます。大きな体では相対的に表面積が小さくなるため、体温の保持に有利です。

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2.アレンの法則

アレンの法則は、「恒温動物では、同種でも寒冷な地域に生息する個体ほど体の突出部が小さくなる傾向がある」という内容の法則です。”突出部”というのは、耳や鼻、腕や脚を指します。

「寒いところにいるものほど小さな耳や鼻をもち、暑い地方のものは耳や鼻が大きくなる」という傾向です。

この法則も、やはり”体の表面積と体温の維持の関係”で説明されます。突出部が大きくなるほど体表面積が増加しますから、熱が奪われやすくなりますよね。反対に、低緯度の熱帯域などでは、大きな突出部をもっている方が体を冷やすのに有利です。

アレンの法則は1877年にアメリカのジョエル・アサフ・アレンによって発表されました。

この法則と、先述のベルクマンの法則はどちらも「体の表面積と体温の維持の関係」に関するものですよね。両者の法則をひとつにまとめて、ベルクマン・アレンの法則とよぶこともあります。

3.グロージャーの法則

グロージャーの法則「恒温動物では、寒冷かつ乾燥した地域に生息する個体が、同種の温暖かつ湿潤な地域に生息するものよりも明るい色調になる傾向がある」という内容の法則です。

「肌や毛、羽毛などが、寒く乾いたところにいるものほど明るい(白っぽい)色。暑く湿ったところほど色が暗くなる」ということですね。

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肌や毛、羽毛などの明暗を左右する要因の一つがメラニン色素です。メラニン色素が多いものほど、体色は暗くなります。

暑く湿ったところに住むものは、強い日差しや病原体から体を守るため、より多くのメラニン色素をつくる…その結果、このような傾向になるのではないか、と説明されているんです。

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4.フォスターの法則

フォスターの法則は、「島嶼部(とうしょぶ)では、ほかの地域に住む近縁種と比べて、大型生物は小型化し、小さな生物は大型化する傾向がある」という内容の法則です。

島嶼化ともよばれます。

島というのは、生物にとって特別な環境です。大陸に比べると生存できるエリアは狭くなり、得られる食物にも限りがあります。大型動物がこの環境で生き残るには、小さな体で食べる量を抑えた方が有利になるでしょう。小さな体の個体が生き残りやすくなり、種全体が小型化していきます。

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反対に、もともと小型の生物にとって島は、捕食者の数が限られた環境です。身を隠さなくても生き延びられる可能性が高まり、大型化していくのではないかと考えられています。

まだまだある、”生物分布の法則”

生物の分布を左右するのは、捕食者やエサの有無だけではありません。気候や地形といった地理的な条件も非常に大きな影響を及ぼします。そして、その影響が顕著にみられた結果が、今回ご紹介したような”生物分布の法則”だといえるでしょう。

今回紹介した4つの法則以外にも、生態学の世界ではいくつもの法則が知られています。ラポポートの法則、レンシュの法則、コープの法則…どれも、生物の在り方を考えるうえでとても興味深い”法則”です。ぜひご自身で調べてみてください。

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理科生態系生物

とくに覚えておきたい「生物分布の法則」4選!ベルクマンやアレンなどについて現役講師がわかりやすく解説します

この記事では、色々な「生物分布にみられる法則」をまとめていこう。

高校の生物学では、非常に様々な分野を学習する。細胞やDNAの話から始まり、神経やホルモンのはたらき、各種内蔵の役割や構造、遺伝、生態系、生物の分類、進化、生物分布などです。これらのうち、生物の分布についての項目では、いくつかの”法則”の名前や、その内容を覚えなくてはならない。今回は主だったものを紹介してもらおう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウが解説します。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生物分布にみられるいくつもの”法則”

地球上にはあらゆる環境に動植物が生息しています。大きいもの、小さいもの、肉食のもの、草食のもの、カラフルなもの、地味なもの…生物は非常に多様です。たとえ同種であっても、「南部と北部では色が違う・大きさがかなり違う」などというような地域差がみられることもあります。

「さまざまな生物は、この地球上にどのように分布しているのか?」「何が生物の分布域を決定するのか?」に疑問をもった科学者たちは、色々な生物とそれらの住む環境を調査・観察し、ある程度の傾向やルールを見出してきました。それらが、この項目で学習する生物分布の”法則”です。

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