今回のテーマは「生物学的時間」です。我々人間は時間というものを共通の単位として利用しているが、生物によって寿命や代謝速度がことなるように、「時間」というものはけっして一定で共通のものではなのです。
生物学的な時間とその時間を決めるリズムについて生物に詳しい現役大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。 

1.生物学的時間とは

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我々、現代の人間社会では、時間というものを日常的には、秒、分、時、日、週、月や年、もっと長くなると世紀など、物理的で絶対的な単位を利用し、基準として捉えていると思います。しかし、今回のテーマである「生物学的時間」とは 、人間が利用する単位としての時間とは異なり、例えば、心臓が1回脈打つのにかかる時間、全身に血液が回る時間、呼吸するのにかかる時間、物を食べてから排泄されるまでにかかる時間、睡眠の周期、発生にかかる時間、そして寿命。生物はそれぞれに身体の中に特有の生物時計(体内時計)を持っていて、生き物ごとに特有の「時間」の中で生きているのです。これを生物学的時間といいます。

2.生物学的時間とリズム

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生物は種や個体に特有のそれぞれに異なる「時間」を持っていますが、生物は地球の自転によってもたらされる約24-5時間の明暗周期に生物学的時間を同調させています。概(おおむね)1日周期という意味で概日(がいじつ)リズム(サーカディアン・リズム)と呼ばれており、バクテリアから藻類、植物そして動物まで。概日リズムはほとんどの生物に存在しているだけでなく、生物を構成する細胞の一つ一つが概日リズムを持っていると考えられています。

また、概日リズム以外にも、生物はそれぞれに数十分から数時間の比較的短い周期性を持つリズム(ウルトラディアンリズム)や月単位のリズム(概月リズム)、光周性、季節性を持ったリズム(概年リズム)、海の干潮・満潮に合わせたリズム(概潮汐リズム)など多くのリズムを持っているのです。これらの複数のリズムが合わさり、それぞれの生物学的時間が形成されています。

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生物に共通する概日リズム

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概日リズムとは、一般的には体内時計と呼ばれています。このリズムは外界の光や温度の直接作用の結果ではなく、種または個体に生まれつき備わった生得的、内因性のリズムです。ヒトの場合は、体温、血圧、脈拍など、自律神経系、内分泌ホルモン系、免疫・代謝系など概ね25時間の周期で繰り返されていることが示されており、この周期は細胞の代謝のリズムに基づいています。概日リズムは、明暗や温度、食事など外界からの刺激によって修正されることが大きな特徴です。

ヒトを含む、動物では大脳視床下部に位置する視交叉上核(SCN)が概日リズムを統率する時計中枢としての役割を担っています。そして、他の多くの脳の部位と相互作用して、神経やホルモンなど体液性のシグナルを介して全身の各組織が持つ末梢時計が同期していく仕組みです。

時計遺伝子

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概日リズムをつかさどる遺伝子群を時計遺伝子といいます。動物では period (per)、 Clock (Clk)、cryptochrome (cry) などが有名で、近年の研究で概日リズムにおいて中心的役割を持っており、またその下流の遺伝子(時計制御下遺伝子)の発現を制御していることが示されました。

特に、肝臓と心臓では、発現する全遺伝子の約10%が時計制御下遺伝子だとされています。これら時計遺伝子が安定的に発現することで、概日リズムに沿った多くの生命活動の調整が行われているのです。このため、昼夜逆転生活などによる概日リズムの破綻や概日関連遺伝子の多型は高血圧や糖尿病、睡眠障害など多くの疾患との関連性が報告されています。

その他のリズム

その他のリズム

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概日リズム以外の有名なリズムについて解説します。20時間以下の周期性をもつリズムをウルトラディアンリズムと呼び、ヒトでみられるウルトラディアンリズムは睡眠時にレム睡眠・ノンレム睡眠を90分ごとに繰り返す周期(睡眠周期)が有名です。また集中力がどれだけ持続するかという話でも、ウルトラディアンリズムが使われています。さらに脊椎動物の発生において背骨などの体節構造を作り出す際に見られる周期的な遺伝子発現を分節時計といい、リズムは生物種によって異なりますが、人間の場合は8時間です。

もう少し長いリズムでは、約一ヶ月周期で変動する概月リズム1年単位の概年リズムが挙げられます。概月リズムはヒトの場合は約28日の周期の生理周期が特有の概月リズムです。概年リズムは約一年のリズムであり、動物の冬眠や繁殖、植物の花芽形成や休眠などが知られています。

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3.生物学的時間と生物の寿命

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生物は種によって平均寿命が全く異なり、マウスの寿命は2、3年なのに対し、ゾウの寿命は70年程度です。基本的に身体の小さな生物の寿命は短く、大きな生物ほど寿命が長くなります。そして心臓が脈打つ周期を心周期と呼び、ヒトの場合は約1秒です。マウスは0.1~0.2秒、ゾウだと3秒かかると言われています。動物はサイズが大きくなるのに比例して心周期は長くなり、体のサイズの大きい動物ほど、心周期を含む生理学的、生化学的な反応速度が遅くなるのです。

これらの知見と多くの実験により、寿命や心周期などの生物の行動や生理現象の時間を計り、体重との関係を考察すると、どの生物も体重の重さに対し、4分の1(0.25)乗に比例して寿命が長くなるという結論を出しました。例えば、30gのマウスと3tのゾウでは体重では10万倍、つまり時間は18倍違い、マウスの生物学的時間はゾウに比べ時間が18倍速いことになります。

生物間で異なる時間

今回は「生物学的時間」をテーマに解説しました。普段、単位として共通の時間を利用している我々人間からすると「時間」は誰にでも一定のもののように感じますが、たとえ同じ地球上で生きる生物でも、それぞれに寿命や生理学的な時間が違うために総じて生物の中で時間の流れる速さが違ってきます。

生物によって流れる時間が違うならば、時間の持つ意味やその時間を使っての生き方、感覚も異なるのかもしれません。多種多様な生物が同じ地球上に生きていますが、まったく違う世界で生きているのかもしれませんね。

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体の仕組み・器官理科生物

3分で簡単「生物学的時間」生物ごとに時間の流れが違う?現役大学院生がわかりやすく解説!

今回のテーマは「生物学的時間」です。我々人間は時間というものを共通の単位として利用しているが、生物によって寿命や代謝速度がことなるように、「時間」というものはけっして一定で共通のものではなのです。
生物学的な時間とその時間を決めるリズムについて生物に詳しい現役大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。 

1.生物学的時間とは

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我々、現代の人間社会では、時間というものを日常的には、秒、分、時、日、週、月や年、もっと長くなると世紀など、物理的で絶対的な単位を利用し、基準として捉えていると思います。しかし、今回のテーマである「生物学的時間」とは 、人間が利用する単位としての時間とは異なり、例えば、心臓が1回脈打つのにかかる時間、全身に血液が回る時間、呼吸するのにかかる時間、物を食べてから排泄されるまでにかかる時間、睡眠の周期、発生にかかる時間、そして寿命。生物はそれぞれに身体の中に特有の生物時計(体内時計)を持っていて、生き物ごとに特有の「時間」の中で生きているのです。これを生物学的時間といいます。

2.生物学的時間とリズム

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生物は種や個体に特有のそれぞれに異なる「時間」を持っていますが、生物は地球の自転によってもたらされる約24-5時間の明暗周期に生物学的時間を同調させています。概(おおむね)1日周期という意味で概日(がいじつ)リズム(サーカディアン・リズム)と呼ばれており、バクテリアから藻類、植物そして動物まで。概日リズムはほとんどの生物に存在しているだけでなく、生物を構成する細胞の一つ一つが概日リズムを持っていると考えられています。

また、概日リズム以外にも、生物はそれぞれに数十分から数時間の比較的短い周期性を持つリズム(ウルトラディアンリズム)や月単位のリズム(概月リズム)、光周性、季節性を持ったリズム(概年リズム)、海の干潮・満潮に合わせたリズム(概潮汐リズム)など多くのリズムを持っているのです。これらの複数のリズムが合わさり、それぞれの生物学的時間が形成されています。

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