この記事では「奉る」について解説する。

端的に言えば奉るの意味は「差し上げる」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

さまざまな分野の本に触れ、知識を培ってきた「つゆと」を呼んです。一緒に「奉る」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/つゆと

子供の頃からの筋金入り読書好きライター。むずかしい言葉や複雑な描写に出会っても、ねばり強く読みこんで理解することをポリシーとする。言葉の意味も、妥協なくていねいに解説していく。

「奉る」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「奉る」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「奉る」の意味は?

「奉る」には、次のような意味があります。

1.「やる」「おくる」の、その対象を敬っていう謙譲語。上位の人に差し上げる。献上する。
2.動作の対象への敬意を失い、「やる」「おくる」をからかっていう。
3.形だけある地位に就けて、敬意を払ったことにする。祭り上げる。
4.その動作を受ける人を主として、尊敬語として用いる。
㋐「飲む」「食う」の尊敬語。召し上がる。
㋑「着る」の尊敬語。お召しになる。
㋒「乗る」の尊敬語。お乗りになる。「乗り給ふ」より敬意が強い。
5. (補助動詞)動詞の連用形に付いて謙譲の意を添え、その動作の及ぶ相手を敬う。…申し上げる。…さしあげる。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「奉る」

「奉る」は「たてまつる」と読みます。古くは「たいまつる」「まつる」とも読まれていました。古文ではそれらの読み方も出てきます。

上の1と4と5の意味は、古文の「奉る」の意味と同じです。1は「やる(giveの意味)」の謙譲語で、意味は「差し上げる」。5は謙譲の補助動詞の「~申し上げる」で、「よろしくお願い奉ります」のように使います。4は謙譲語ではなく尊敬語としての使い方であり、現代の日常で見ることはありません。

現代ならではの意味は2と3。2も3も「奉る」を使って相手をからかう用法です。2の例としては「あなたに「ゆとり」というあだ名を奉りましょう」。「あげましょう」を「奉りましょう」ということで、よりからかいの度合いを強めているわけです。3の例としては「あいつを部長に奉るってことで問題ないでしょ」。部長に「祭り上げる」、あるいは部長のポジションを「なすりつける」というイメージです。

「奉る」の語源は?

次に「奉る」の語源を確認しておきましょう。「奉る」を「たてまつる」と読むようになったのは平安時代以降。万葉集など、奈良時代の作品の中では「まつる」と読まれます。

「奉る(まつる)」は「差し上げる」という意味をもつと述べましたが、それは「神への献上」もあらわしました。そこから「祭る」や「祀る」の言葉もうまれています。神仏の力を借りて国を治めていた時代ですから、重要な意味を持つ言葉であったのは間違いありません。

「奉」の字は、複数の手(漢字の右部・左部・下部)が、作物(漢字の上部)をささげている様子をあらわしています。作物が収穫できたことを神に感謝し「奉って」いる様子が伝わる文字ですね。

\次のページで「「奉る」の使い方・例文」を解説!/

「奉る」の使い方・例文

「奉る」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.この歴史ある神社の保存のため、わが社では父の代から寄付金を奉ってまいりました。
2.歌舞伎の口上の最後に言う「隅から隅までずずずいとこいねがい上げ奉りまする」というのを聞くと、迫力でいつも鳥肌が立っちゃうんだよね。
3.試験も近いというのに英単語ひとつ覚えない我が子には、ゲームソフトを没収し、代わりに英語の辞典を奉るとしましょう。
4.この出版社のやつらは、俺のことを現代の芥川竜之介なんていって一時は神作家に奉りやがって、人気が落ちたらこのとおり、とたんに手のひら返しよ。

例文1では、「差し上げる」「献上する」という意味で「奉る」を使っています。「奉る」は古い言葉ですが、かしこまった場面や神仏に関係する場面では、現代でも「奉る」と使うことがあるでしょう。

例文2で使っているのは、「~申し上げる」という意味の補助動詞の「奉る」です。「こいねがう」は強く願うという意味で、「強くお願い申し上げます」となります。

例文3は「さずける」を「奉る」と言い換えることで、イヤミを言っているのですね。この例文の場合は、親を怒らせてしまった子どもが悪いかもしれませんが。

例文4は「祭り上げる」という意味での使い方です。尊敬されていたわけではなくいっときヨイショされただけと、本人も分かっている様子をあらわしています。

「奉る」の類義語は?違いは?

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「差し上げる」という意味の「奉る」の類義語には、「献納する」「寄進する」があります。

「献納する」

「献納する」とは、金品を国や神社・お寺に納めることです。「奉る」をまさに現代語に直した言葉といえるでしょう。「馬一頭を献納する」「榊の枝を献納する」などと使います。

神社では「お神楽(おかぐら)」のように、舞や歌、和琴や笛などの演奏を納める場合もありますね。その場合は「献納する」ではなく「奉納する」と使います。

\次のページで「「寄進する」」を解説!/

「寄進する」

「寄進する」は、金品を神社・お寺に納めることです。古代・中世の時代において「奉る」は高貴な人すべてを対象に使いましたが、「寄進する」は国や公共機関を対象には使いません。神社やお寺に寄付をするときに使う言葉です。

金銭の寄付には「寄進する」を使うと間違いがないでしょう。金額の大きさに関係なく「〇円寄進する」と使えます。上の「献納する」の場合は「献納」だけで金銭をあらわすことはありませんが、「寄進」の場合は「寄進によって建立された社殿」のようにあらわすことが可能です。

「奉る」の対義語は?

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「差し上げる」という意味の「奉る」の対義語には、「賜る(たまわる)」があげられます。

「賜る(たまわる)」

「賜る(たまわる)」は「もらう」の謙譲語。目上の人からいただくという意味です。「差し上げる」と「いただく」ですから対義語になります。

元のかなづかいは「たまはる」。「奉る」は古文の世界では謙譲語としても尊敬語としても使うのですが、なんと「たまはる」も同じです。「奉る」は謙譲語としては「差し上げる」、尊敬語としては「召し上がる」「お召しになる(着る)」「お乗りになる」。「たまはる」は謙譲語としては「いただく」、尊敬語としては「お与えになる」。

高貴な人に差し上げたものは、その人が召し上がり、お召しになり、お乗りになるでしょう。こちらがいただいたものというのは、高貴な人がお与えになったものですよね。最終的には同じ動作を指していると考えると、尊敬語・謙譲語関係なく一つの言葉になっているのも納得がいくでしょうか。

「奉る」を使いこなそう

この記事では「奉る」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「奉る」は「差し上げる」という意味の言葉です。「~申し上げる」という補助動詞としての使い方は、現代も歌舞伎などで使われています。「奉る」をあえて使い、相手をからかったりヨイショして持ち上げたりする用法も紹介しました。

現代語として移り変わっていく際に、このようにイヤミな意味が加わってしまうとは驚きです。「皮肉」とは知的な言葉遊びの面もあるので、ある意味日本人の感性が成長してきた証なのかもしれませんね。

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国語言葉の意味

「奉る」の意味や使い方は?例文や類語を読書家Webライターがわかりやすく解説!

「奉る」の使い方・例文

「奉る」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.この歴史ある神社の保存のため、わが社では父の代から寄付金を奉ってまいりました。
2.歌舞伎の口上の最後に言う「隅から隅までずずずいとこいねがい上げ奉りまする」というのを聞くと、迫力でいつも鳥肌が立っちゃうんだよね。
3.試験も近いというのに英単語ひとつ覚えない我が子には、ゲームソフトを没収し、代わりに英語の辞典を奉るとしましょう。
4.この出版社のやつらは、俺のことを現代の芥川竜之介なんていって一時は神作家に奉りやがって、人気が落ちたらこのとおり、とたんに手のひら返しよ。

例文1では、「差し上げる」「献上する」という意味で「奉る」を使っています。「奉る」は古い言葉ですが、かしこまった場面や神仏に関係する場面では、現代でも「奉る」と使うことがあるでしょう。

例文2で使っているのは、「~申し上げる」という意味の補助動詞の「奉る」です。「こいねがう」は強く願うという意味で、「強くお願い申し上げます」となります。

例文3は「さずける」を「奉る」と言い換えることで、イヤミを言っているのですね。この例文の場合は、親を怒らせてしまった子どもが悪いかもしれませんが。

例文4は「祭り上げる」という意味での使い方です。尊敬されていたわけではなくいっときヨイショされただけと、本人も分かっている様子をあらわしています。

「奉る」の類義語は?違いは?

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「差し上げる」という意味の「奉る」の類義語には、「献納する」「寄進する」があります。

「献納する」

「献納する」とは、金品を国や神社・お寺に納めることです。「奉る」をまさに現代語に直した言葉といえるでしょう。「馬一頭を献納する」「榊の枝を献納する」などと使います。

神社では「お神楽(おかぐら)」のように、舞や歌、和琴や笛などの演奏を納める場合もありますね。その場合は「献納する」ではなく「奉納する」と使います。

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