この記事では「普請」について解説する。

端的に言えば、普請の意味は「土木工事、建築工事」です。ふだん、あまり聞いたことがない言葉かもしれないが、語源や意味を知っておくと、幅広いシーンで使いこなせるようになるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「普請」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「普請」の意味は?語源は?

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「普請」(ふしん)という言葉はあまりなじみがないかもしれませんが、「安普請」だったら、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。明治時代に「建築」という言葉ができるまで、「普請」は土木工事や家の建築を示す言葉でした。しかし、その語源は意外にも仏教用語なのです。

「普請」の意味を見てみよう!

まずは、辞書で意味を調べてみましょう。

① 仏語。禅宗の寺で、多くの人々に請い、労役に従事してもらうこと。
② 道・橋などの土木工事。のち、建築工事一般もいう。

出典:精選版 日本国語大辞典精選版「普請」

もとは、寺で多くの人々にお願いして、労役に従事してもらうという意味でした。大勢で建築工事に従事することから、のちに土木工事を意味するようになり、また建築工事全般も意味するようになったのです。

「普請」を使った例文

次に、「普請」を使った例文を見てみましょう。

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1.台風でお寺の屋根が破損したので、村人が総出で普請することになった。
2.御三家筆頭の尾張藩の居城である名古屋城は、江戸時代の天下普請によって築城された。
3.弟が住んでいるアパートは安普請で、隣の部屋の会話が筒抜けだ。

1.はお寺の修理をみんなで行うという意味です。2.は「普請」が土木工事の意味で使われている例文。歴史好きやお城マニアの方だったらご存じかもしれませんね。3.は、建築工事一般の意味で使った例文です。この使い方が、一番なじみがあるでしょう。

「普請」の語源は仏教用語だった!

「普」は「広く」「一般に」という意味で、「請」は「相手に何かを求める」という意味があります。「普請」はもともと寺でお堂や塔を造る際に、広く一般の人に呼び掛けて労役についてもらうという意味。建築工事以外にも、書物の虫干し、すす払い、お茶を摘むことなど、いろいろな仕事に多くの人が力を合わせて従事していました。

土木工事の意味で使われるようになったのは、室町時代の頃です。大勢の人が協力して堂塔や橋や道を造ったことから、土木工事の意味でも使われるようになり、家の建築など工事一般のことも指すようになりました。

「普請」を使った言葉

仏教用語だけでなく、土木工事や普通の建築全般のことも指す言葉になったので、「普請」を使った言葉は実にたくさんあります。

「普請奉行」「三日普請」

仏教用語だった「普請」が土木工事の意味で使われるようになったのは、室町時代。室町幕府には、建築工事を担当する「作事奉行」と土木工事を担当する「普請奉行」という役職がありました。

時代は下って戦国時代、織田信長の居城である清州城の塀が壊れたことがありました。修繕がなかなか進まず、臨時の普請奉行に命じられたのが木下藤吉郎、のちの豊臣秀吉です。

秀吉は、修理箇所を10箇所に分け、作業チームも10組作り、1組が1箇所を担当するようにしました。さらに、最初に作業を終えた組には信長から報奨金が出ると伝えて、作業員のモチベーションをアップ。こうして3日で修繕が完了したので「三日普請」と言われています。

\次のページで「「天下普請」「御手伝普請」」を解説!/

「天下普請」「御手伝普請」

徳川政権下、江戸幕府が諸大名に築城工事を命じた「天下普請」。築城以外にも、街道の整備や架橋工事、河川の改修など大規模な土木工事を諸大名に手伝わせていたので、「御手伝普請」(おてつだいぶしん)とも言われます。今でいうインフラ整備のための大規模公共事業ですね。

資材の調達から作業員の確保まですべて大名の負担。現代のおてつだいという言葉からは想像もつかないほど過酷な役目です。江戸幕府にとっては、徳川の権力を誇示し、大名たちに徳川への忠誠を示すよう求め、経済的な負担を強いる目的があったと言われています。

「普請道楽」「安普請」など

「普請道楽」家を建てたり、修理したりするのが趣味であること。とてもお金のかかる趣味ですね。「安普請」は、安く粗末な家を建てることや、建てたその家のことを指します。「貸家普請」は、もともとは貸家にするために家を建てることですが、転じて「安普請」と同じ意味合いで使われるようになりました。

「普請」の類義語は?

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次に、「普請」の類義語を見てみましょう。

「建立」「宮造」

「建立」は「こんりゅう」と読み、寺院や堂塔などを建てるという意味です。「けんりつ」と読むこともありますが、その場合は建設するという意味になりますよ。「宮造」は「みやづくり」または「みやつくり」と読みます。宮殿を造る、神社を造営するという意味の言葉です。これらは仏教に関係する言葉ですね。

「建造」「建設」「建築」

「建造」建物や船など、大きな物を造るときに使います。「建設」は建築物や施設や道路などの土木工事をともなう構造物を造ることです。「建築」は土台から家やビルなどの建築物を建てることをいいます。「建築」は「architecture」に対応する言葉として作りだされた言葉で、1897年(明治30年)に造家学会が建築学会に名称変更してから広まりました。

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「普請」の英訳は?

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次に、「普請」は英語でどのように表現するか、見てみましょう。

「construction」

「constructionは、建設、構造、建造物、建物などの意味があります。「be under construction」は工事中、「the construction of a bridge」は架橋工事という意味です。

「building」

「building建物、建造物、建築術という意味です。「a school building」は学校の建物なので校舎、「a public building」は公共の建物なので公共建築物という意味になります。

時代ごとの意味の変化を知って「普請」を使いこなそう!

この記事では、「普請」についての意味、語源、類義語から英訳などを説明しました。

「普請」とは道・橋などの土木工事と建築工事一般のことを意味します。もとは仏教用語で、禅宗の寺で多くの人々に請い、労役に従事してもらうことを意味していました。大勢の人が作業に従事してお堂や塔を造るところから、道、橋などを造る土木工事という意味で使われるようになり、さらに建築工事一般のことを意味するようになりました。

「普請」はなじみが薄い言葉かもしれませんが、今風に言えば、道を造り、橋を架けるなどインフラ整備であり、多くの作業員を雇って行う公共事業とも捉えられます。そう考えると少し身近に感じられるのではないでしょうか。もともとの意味も知って、「普請」を使いこなしてくださいね。

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国語言葉の意味

もとは仏教用語?「普請」の意味・語源・例文や類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説!

この記事では「普請」について解説する。

端的に言えば、普請の意味は「土木工事、建築工事」です。ふだん、あまり聞いたことがない言葉かもしれないが、語源や意味を知っておくと、幅広いシーンで使いこなせるようになるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「普請」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「普請」の意味は?語源は?

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「普請」(ふしん)という言葉はあまりなじみがないかもしれませんが、「安普請」だったら、どこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。明治時代に「建築」という言葉ができるまで、「普請」は土木工事や家の建築を示す言葉でした。しかし、その語源は意外にも仏教用語なのです。

「普請」の意味を見てみよう!

まずは、辞書で意味を調べてみましょう。

① 仏語。禅宗の寺で、多くの人々に請い、労役に従事してもらうこと。
② 道・橋などの土木工事。のち、建築工事一般もいう。

出典:精選版 日本国語大辞典精選版「普請」

もとは、寺で多くの人々にお願いして、労役に従事してもらうという意味でした。大勢で建築工事に従事することから、のちに土木工事を意味するようになり、また建築工事全般も意味するようになったのです。

「普請」を使った例文

次に、「普請」を使った例文を見てみましょう。

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